7

「お。おかえりー」


 ルウク達が宿屋の割り当てられた部屋に戻ると、リヴェルとリヒトが出迎えた。二人は地図を広げながら、何か話をしていたらしい。


「ただいま戻りました」

「うんうん。それじゃあ、昼食を食べたら出発しようか」


 滞りなく決まっていく予定に、ルウクは居づらさのようなものを覚える。

 そんなルウクを見てか、リヒトは眉を顰めて声を上げた。


「それで、君はどうするの?」

「……」

「ルウク……」


 そう。まだ、ルウクは決めかねていた。いや、頭の中では本当は決まっている。ただ一歩、踏み出す勇気が持てないのだ。


「……ルウク。無理はしないで」


 エリシアが笑みを浮かべる。まるでこちらを包み込むような、優しい笑顔だった。


「ルウクが来てくれたら、きっと凄く心強いと思う。……でも、そのせいでルウクが嫌な気持ちになったりするのは、嫌だから」


 ーールウクには、笑っていて欲しい。今朝エリシアが言っていたことを、ルウクは頭の中で反芻する。最後に笑ったのは、いつだったか。……もしかしたら。十年前のあの日あのときから、かもしれない。


「だから、ルウクが決めて欲しいの。どんな答えだったとしても、私は絶対に受け入れるから。ね?」

「……ああ」


 死んだと思っていたエリシアが生きていた。今は傍にいる。一緒に歩くことが出来る。……そして、


(出て行くエリシアを……追いかけることが出来る)


 恐怖に震えて、ただ縮こまっていた頃とは、きっと違う。


(……ああ。そうか)


 贖罪。罪を償うという言葉が、ルウクの脳裏に浮かび。それが、すうっと思考に溶け込んでいくように感じた。

 エリシアは、あの日のことを謝らないで欲しいと言っていた。しかし、やはりルウクとしては当時のことは『償うべき罪』なのだ。

 彼女が大切なんだと思いながらも、結局は我が身かわいさで見捨てた自分の行為が、ルウクにはどうしても許せなかった。

 エリシアが死んでしまったと思っていたときも、そして生きていたと知った現在も。いや、今なら尚更のこと。ーー自分の犯してしまった罪が、形を持って現れたように感じられた。


「……行く」

「!」

「おー! 良かった良かった!」


 ルウクが出した答えに、果たしてエリシアは何を思ったのだろうか。目を大きく見開いて、なにかを言いたげに口を開けたり閉じたりしている。


「それじゃ、改めてよろしくね!」

「……」

「ちょっとぉ! 無視はやめてよー!」

「……ああ」


 握手を求めるリヴェルの手を無言で見つめていたら非難された。仕方なく返事をして、握手に応じる。未だ彼に対しては不信感が強いのだが、これから共に旅をするのだ。あまり波風を立てるのは宜しくないとはルウクも理解していた。


「……えぇっと」

「……これから、世話になる」

「えっ。あ、ああ……こちらこそ」


 一方。朝食時の会話からして、ルウクが同行することに賛成はしていなかったリヒトに対して、ルウクは先行して話しかける。


(そうしてやった方が、大人だろう)


 先ほど言われたことを、心の中で言ってやる。リヒトには届かないが、ささやかな仕返しだ。それぐらいのこと、しても良いだろうと思った。

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