09話.[似合っているよ]
「ごめん、遅れた」
「大丈夫だよ」
今日は空とふたりきりで遊びに出かけていた。
そういえば彼女の私服姿は結構レアな気がしてついついじっと見てしまった。
「な、なに?」
「服、可愛いね、よく似合っているよ」
「……私が選んでいるわけじゃないけどね」
ということはお母さんとかかな?
大人しく従うようには思えないけど、逆らえないなにかがあるのかもしれない。
「あ、これ見てっ」
「うん? あ、可愛いね」
「うん、こういうの好きなんだよね」
おお、なんか物凄く柔らかい表情を浮かべている。
一緒にいるときに別に私相手にではなくてもそういう顔をしてくれると嬉しいな。
「空って結構イメージと違う感じがする」
「イメージって?」
意外と人といるのが好きなところとか、優しいところとかなどと説明しておいた。
初めて会ったときなんてどうでもいいと言わんばかりの態度でいたんだけどね。
「あんたが私のことを悪く考えてることは分かった」
「そ、そんなことはないよ」
「まあいいや、これ買ってくるから」
か、買うのか、すごい気に入ったんだな……。
私も憂になにかを買っていきたいからしっかり見ておこう。
「手」
「はい」
手でも握りたいと思っていたらへにゃりとした感じのぬいぐるみがそこに置かれた。
「あんたにはそこそこ世話になっているからね」
「ありがとう」
「……行くよ」
こういうところも意外なんだ。
色々なところが知ることができて嬉しい。
今日だって彼女の方から誘ってくれたことになるわけだし。
「……ねえ」
「うん?」
「手を繋ぐって……どういう感じ?」
「相手の体温がよく分かる行為かな、憂の場合は基本的には冷たいよ」
そうでなくても寒い時期だから仕方がないことではある。
ただ、私の手はどうやら温かいみたいだから人によって差があるのは確かなようだ。
「へ、へえ、こういう感じなんだ」
「好きな人がいるのにいいの?
「憂には言っておくから安心してよ、ちょっと練習しておきたくて」
最近は上手くいっているということを教えてくれた。
そうか、私達といないところでは仲良くしているのか。
……憂と付き合っておいてなんだけど少し寂しい気がした。
私では見られない空の一面というやつをその人は知っているんだからね。
「ちょっと嫉妬しちゃうな」
「は?」
「だって裏ではこそこそと仲良くしているわけでしょ?」
「あんたね、絶対に憂の前でそんなこと言わない方がいいよ」
こちらの手から手を離して「絶対に怒られるから」と。
それでも事実だから隠したりしないようにしようと決めたのだった。
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