飛ぶには膝を曲げなければならない
「能力を使える人間がここに三人いる……」
「すごい偶然ですねぇ」
「びっくりしちゃった」
こんなことがあっていいのだろうかと運命を疑う。だがそれと同時にワタシは安心していた。
ここにこうやっているということは二人共、悪の誘いを断り自分に課せられた課題を乗り越えたということだからだ。
この能力というものは時々語り掛けてくる。
ワタシ自身、最近その体験をしたという経験からの憶測に過ぎないのだが、自分とは何者かを問うということは人間として生まれたからには避けがたい事実としてあるのもまた本当だ。
「で、今目の前で角砂糖を
「そうです……」
「別に怒っているわけじゃない。ただ確認として一応聞いてみただけ」
申し訳なさそうに視線を下げた
「まぁまぁいいじゃないですか! 偶然にもここに能力者が集まったんだから、もっと別の明るい話をしましょう」
窓の外には一体の
「明るい話って一体何……」
ワタシが言い終わるよりも前に
「それは例えば、ここから出た後安全に帰る方法とか……かな?」
ワタシと
「この店から出たら確実に何かが起きます」
いまだ小声のままそう言う
「なぜそんなことがわかる?」
「それは……僕の能力で分かるんです。僕たち三人の他に少なくとも一人の能力者がこの近くに潜んでいます」
「えぇっと、その人って別に悪い人かどうか分からないんだよね?」
「……そうです。確証はありません」
「じゃあ、
「なので、向こうからのアクションがない限りこちらからは一切手を出しません」
ということは、だ。もしも悪意があってワタシたちを嗅ぎまわっている者が本当にいたとして、確証の無いまま手を打てないこちらとしては必ず先手を打たれる形になるということだ。
「それはあまりにもリスクが高すぎないか? 向こうの人数も分からないし、こっちには絵で描いた動物を出す能力と瞬間的に逃げる能力、そして君の持っている能力、
「大丈夫です。安心してください。僕には作戦がありますから!」
笑顔でそう言った
こんなお洒落なカフェでピンチに陥ることは
だからこそ立ち向かえるものだ。
僕たちは席を立ち、
外はまだ若干、昼間の暑さを残しているが風が吹いているおかげか快適な気温だった。
警戒しながら僕の能力を使って周りを見ているが、今のところ人影は特に見当たらない。
確かに
それは、あの田んぼのど真ん中にいたはずの
カフェの屋根上に置いた視点から、さっき室内で見かけた
そして今その
「――不味い! 二人共そこを離れて!」
そう。入り口付近にお洒落なインテリアとして置いてあったそれは、あの田んぼに立っていた
「え?」
「なにっ!? きゃっ……!」
その
「きゃー! 助けて!」
顔の表情を歪ませて必死に助けを求める
すぐさまその泥を取ろうと近づいた
「ぐぅあぁぁー!」
泥は地面に接着したかと思ったら、段々と妄想さんがその泥の中へと沈んでいく。
「た、助けてぇ
悲痛な
これはもう覚悟を決めるしかない。
僕は能力をフルパワーで行使して、この店に入った時からこそこそ展開していた十個の視点全てに意識を向ける。そして、
全ての視点を
「わうんわぁっ……わうー!」
胸ポケットに入っているその生物は、犬のような鳴き声で叫びながら段々と大きくなっていく。そして、遂に胸ポケットに入り切らなくなり、外を飛び出した。
どさりと重みのある大きなものが落ちた音がした。
「ぐるるるぅ……。ぐわぁんわん!」
そして、その生物は最終的に
「なんだこれ……このめちゃくちゃムキムキの動物が、さっきまでワタシの胸ポケットに入ってたやつと同じっていうのか……」
「これで僕の作戦は次の段階へ移る……後は頼みましたよ」
自分でも意識が遠のくのが分かる。しかし、僕に後悔は、ない。そして、僕は後の事を
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