潮風と普通列車
その間ワタシは先生に頼まれて、何回か
高校生を襲った犯人はまだ捕まっていないらしい。なので、未だに警戒心を忘れないように先生が促しているのを耳にたこができるぐらい聞いた。
そんな中の休日、まだまだ明るい真っ昼間のこの時間にワタシは海島市に来ていた。
テストが徐々に返却されて、その度々に一喜一憂、マウント眼鏡が群雄割拠の戦場へと景色を変えるさまは見ていて飽きない。
ただ、そんな中でもみんな平等に言えるのは、テスト勉強に疲れているという事である。
それは、ワタシと言えど例外ではなかった。
たとえ、どんなに速く移動できようが、別に頭の回転が速くなるわけではないので、みんなと同じように夜通し(一夜漬け)で勉強した。
今、脳の疲れはピークに達している。
そんな時、自然と身体は癒しを求め、そして大海原へと駆り立てたということだ。
海岸線を進む電車は、ごとんごとんと体を揺らしながら海水浴場近くの駅へと進んでいく。
休日にしては乗客が少なく、横広い窓から見える景色は、青い空! 白い雲! 白波の映える海! そして、その上を飛ぶ小さなかもめ達が、気持ち良さそうに潮風に乗っているのが見える。
海に行って何をするんだと腐ったことを言っていた時期もあった。
だけど、そういった場合、ほとんどが裏切られて改心するもんだ。これが大人になる、ということなのかもしれない、と思っていたら目的の駅に着いたので降りることにした。
改札を抜けて駅から出ると、潮の香りがほのかに香る。
強い日光が肌をちくちくと刺激して暑い。そして、その光がアスファルトに照り返して空気を熱し、それを吸い込めば肺の中まで火傷するかと思うぐらい熱い。
中も外もしっかり焼いてくる、調理としては完璧だが環境としては最悪だ。
休日ともあって家族連れの親子が結構いるので、能力を使えない。
このままここにいては熱中症で倒れてしまうのではと考えたら、錯覚か否かくらくらしているような感じがしなくもない。
目の前にクーラーがガンガンに効いていることに定評のあるコンビニが見える。それを見るや否や、ワタシは吸い込まれるように入っていき、飲み物と塩味のあるお菓子を買って近くの木陰で休憩していたのだった。
夏の直射日光は本当に気をつけないといけない。
身をもってその危険を感じながら、しばらく海水浴場に向かって歩いて行く。
道中、通りすがった民家から聞こえてくる風鈴の音色に癒され夏を感じつつ、やっと目的の海水浴場に到着することができた。
石でできた段差が大きい階段を慎重に降りていく。下まで降りると足の裏に柔らかい砂の感触がして気持ちいい。
この海水浴場は比較的綺麗に整備されている。これもひとえにボランティア活動の賜物なのだと思うと、心から感謝の念が出てくる。
せっかくなので水際に近づいてみると、一定間隔で聞こえてくる波の音が心を癒し、その打ち引きをただぼんやりと見つめていたくなる不思議な魅力を感じる。
浅瀬で遊ぶ子供たちの声が聞こえてきてその方向を見ると子供が一人遊んでいて、砂浜の方を見てみるとパラソルの下で微笑みながらそれを眺める親たちがいる。
それだけでここが平和なのだと感じられる。日本という国が素晴らしいと思える。
心が暖かくなり水しぶきで体が涼しくなる感じがして、あぁ、それだけでここに来た甲斐があっ……ん?
何故、水しぶきを浴びているんだ?
そう思った時にはもう遅かった。
「お兄さん、遊ぼう!」
赤と黒の水着を着た小学生の男の子が、目の前で手招きしている。どうやら、あいつが海水をぶん投げてきたんだと一瞬で分かった。
男の子がハッと視線をずらして遠くを見つめたので、それに釣られてそっちを見るとさっき見た親御さんと思われる大人二人が血相変えて向かってきている。
その光景を見て口元がにやけるのを我慢出来なかった。
「よーし、いいぞ! お兄さんが遊んでやろう」
「わーい……わっぷぅぅ!」
さっきのお返しにこっちからも水をかけてやった。
「やったなー! おりゃ!」
その光景を見てポカンとする大人たちを尻目に、ワタシと男の子は二人で遊ぶことに熱中するのだった。
たまには心から童心に戻るのも悪くなかろうと思いながら。
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