『いつも通りの日常』という風景
翌朝、学校に登校したワタシは、なんとなく隣のクラスを覗いてみたが、
皆、机の横に荷物をかけたり、机上に筆箱や教科書が乗っている中、窓際に不自然と整っている机が一つあることに、違和感を覚える。多分あれが
「あのー、どうかしたんですか?」
教室の前を不審にウロウロしていたため、このクラスと思しき親切な女子生徒が話しかけてきた。
別に変な事をしているわけじゃないことを釈明しようと、慌てて後ろに振り向いた。その顔に覚えがあった。
「あ! 手品部の!」
「あ、美術室の」
お互いにそう言ったはいいが、続く言葉が見当たらずに変な間が生まれた。
「あぁ……えぇっと、あ! そうだ!」
ワタワタした挙句、何かを思い出したようだ。美術室の女の子は続ける。
「そういえば、お名前聞いてなかったので、聞いてもいいですか?」
「あー、そういえば言ってなかったな……一年一組の
「私はここ、一年二組の
ほぉ、
「
「はい」
――キーンコーンカーンコーン。
ホームルームのチャイムが鳴り、ワタシの言おうとしたことが邪魔されてしまった。
チャイムの余韻と一緒に蝉の声が聞こえる。
一時間目をぼんやりと過ごし、二時間目をただ板書をして過ごし、三時間目をウトウトしながら過ごして、昼休みになった。
教室の中には、全体の半数ぐらいの人数しかいない。多分、各々が思い思いの過ごし方をしているのだろう。
それでも、教室内の様子は賑やかで、『いつも通りの日常』と名付けるに相応しい風景だと思った。
「よっ!」
隣の席に座っている
こいつは、このクラスで数少ない私の友達だ。誰にでも親しく接しているところをよく見るに、明るくて気さくな奴だ。
「よう」
「今日あれだな、授業中ほとんど、ぼやーっとして過ごしてたな」
どうやら、見られていたらしい。と言っても「昨日、
「昨日、夜更かししてしまってな。まぁ気にすることではない」
「へぇー、お前のわりに珍しいな」
「うるさい」
そんなことを言い合いながら、いつも通りお昼ご飯を食べていると、佐藤が突然、物騒なことを言い出した。
「いやー怖いよな、誘拐事件」
「んん? なんで急にそんなことを言い出した?」
すると、
「お前、ホームルーム聞いてなかったんだな……」
まるで、おかしいみたいな言い方をしてくるが、まだ眠たい中、聞くホームルームを真剣に聞いている奴が、この中でどれぐらいいるのだろうか。そんな言い訳を、ぐっと我慢して飲み込んだ。
「なんて言ってたんだ?」
「だから、誘拐事件だ。隣の市である高校生が誘拐されたんだとよ」
それを聞いて、ふと疑問が浮かんだ。
「いや、小学生とかだったらまだ分かるけど、高校生が攫われた?」
「だから不審に思ったんだ。普通じゃない」
日々ぼんやり過ごしていると、ろくな情報が入ってこないことを身にしみて感じた。まさか、そんな重大な事件が割と近くで起こっていたなんて、思いもしなかった。
「それって女と男どっちだったんだ?」
「えーっと、どっちって言ってたかな……分からんから、ネットニュース観てみるわ」
そう言われて、そりゃそうかと一人でハッとした。こんな事が起きたら絶対に全国ニュースになるに決まってる。
急に現実感が出て、背中がぞっとした。
「あー、二年生の女の子らしい。あと目撃者もいて、そいつが言うには「女の子が地面に飲み込まれていった」って言ってるらしい」
「飲み込まれていった、ね……」
それを聞いたら、一つ考えざるを得ない事がある。
それは、もちろん犯人が能力者であるということだ。
悪意を持って能力を使う人間は、一体どんな人間だろう。そう思って考えてみたが、全然想像がつかなかった。
しかも偶然か、最近それに近しい出来事が起こったばかりだ。これはまずいという予感が頭の中をガンガン揺らして警鐘を鳴らしてきやがる。
そんなもやもやした頭の中を晴らすように、緑色のエナジードリンクをグイっと持ち上げて喉に流し込む。
特有の甘ったるい味が通り抜け、鼻に薬品的な香りが残る。
「弁当にエナドリは合わないだろ……」
「いや、別にそれは人の勝手だろう……」
この佐藤の明るさのおかげで、少しが楽になったような気がする。
……いや、気のせいか。
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