第四話 ある鶏の死

「では、次の方、どうぞ」

舞台上で長身の男が拍手が鳴り止むのを待たずにそう言った。始まってから幾度となく繰り返されてきた光景だ。前列からもたらされる儀礼形式的なこの拍手もまた、マイクの先に鎮座した男の合図をもって統制されているかのようだった。舞台上から捌ける(はける)よう促されて袖へと向かうその参加者の表情はここからではよく見えない。まるで録画された映像が流れるように、濃紺色のブレザーとそれに合わせたパンツを着た同じ文化圏の人間が自らがその壇上で窒息死させた鶏(にわとり)を不器用に、しかし正しく残して、歩き去っていくのを見た。

「初めてなのにすごいや」

次の参加者が我々側の客席を立ち、壇上へと向かうのを眺めていると隣に座る青年がそう呟くのが聞こえた。ここに熱狂というものは感じることはできなかったが、それはもしかすると個々各々がそれを内包して、外に漏らすまいと耐えているからかもしれなかった。

「君は何回目?」

話しかけられるとは思っていなかったのだろう。それどころか口から出た言葉をまさか聞かれるなんてことも想像していなかったのだろう。私は同じ内容のセリフを、今度は呼びかけから自己紹介を含めて、全部やってみせた。

「僕は今日で三回目だよ。今までの二回ではどうもうまくやれなくて。でも、あとになって分かったんだけど、結局僕の鶏(にわとり)はそのまま処理されちゃったんだって。僕がためらっていたものは一体なんだっていう話だよね」

この青年が話しているのを聞いていると、彼は何かいつもそうやって自分の非を探しているのではないかと思えてきた。なにか気の利いたことでも言ってあげられればよかったのだけれど…。

「ちなみに私は五回目だよ」

彼の言葉を遮るように、いや違う、呼ばれるのが前もって分かっていたかのように、いやそれも違う、ここではすべてが私の意のままなのだ、私は立ち上がって壇上へと歩きだした。


そこで目が覚める。夢を見ていたのだ。少し息苦しかったことを覚えている。


***


これは鶏(にわとり)に変えられた人間の最後の記憶。

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