四、下駄
優花の笑い方の種類には、もう一つあると発見した。優花は、秋原が不愛想に何か言った時、しんから嬉しそうに笑うのだ。しかしこの時の優花の心の中は、さっぱり読めない。皆無である。俺には理解できないところに優花が行ってしまって、後には何も残っていない。もしくは、優花が粉のようにバラバラになって白いキャンバスと一体化したようなイメージ。俺には何も見えない。
しかし秋原には何かが見えているようだ。寂しい笑い方とか無邪気な作り笑いとか、そしてしんから嬉しそうな笑顔でさえ、その違いがよくわかっていなそうなのに、「全部笑っているだけじゃん」とでも言いそうなのに、俺の見えていない何かは、見えているようだ。理由がわからない。何故だろう。
秋原にそう言ってみると、
「とことん苦しめよ、そしたらわかるだろうよ」
と言われてしまった。馬鹿にされているようで、腹が立った。しかし秋原は、そんなこちらの気持ちに気づかず、「ああ、そうだ」と話題を変えた。
「なあ蓮、花さんも誘って神社の夏祭りにいかないか」
夏祭りというと七月の終わりの方だ。明日から夏休みになるので、もうすぐである。
「いいね、そうしよう。あ、アミちゃんも誘う?」
「いや、俺、あいつはどうも苦手だよ。何というか……、うるさい」
しかめっ面の秋原に、俺は吹き出してしまった。「それもそうか」と言って、優花を誘い、三人で夏祭りに行くことになった。
それから数日して、夏祭りの時がきた。優花の家は神社に近いので、俺と秋原が優花の家へむかえに行くことになった。家の場所は知っている。前に遊んだ時、優花を家までおくったからである。二階建ての小さな一軒家だ。待ち合わせ時間より少し早めに着いた。
俺がピンポンとボタンを押すと、ガチャと音がしてゆっくりドアが開いた。優花だった。
何故か恥ずかしそうにしている。優花は、
「服、変じゃないかな」とつぶやいた。
見ると、上半身は浴衣だが、下半身には長いスカートをはいていた。ウエストは太いベルトでしめ、髪は浴衣に合うお団子。変わってはいるが、お洒落でもある。浴衣の緑とスカートの紺も合っている。普段なら目立つかもしれないが、浴衣の大勢いる祭りでは、そう派手でもないと思う。
「いいんじゃね?」秋原が言った。優花の表情がぱあっと明るくなった。
「そう? これ、着物スカートっていうの。今は着物じゃなくて浴衣だけれど」
優花がかごバッグを持って外へ出、歩きながら話し出す。
「私、和洋折衷が大好きなんだけれど、恥ずかしくてなかなか手が出せていなかったの。本当は普段からこんな格好でいたいのだけれど」
そう優花が言うと、秋原が笑った。
「奇抜に映るかもな、モダン・ガール的な?」
優花も嬉しそうな笑顔で語った。
「そうよ、新しいものは古いものから作られるんだもの。浴衣を現代風に着るのだって、新しい時代の幕開けだ」
「私は令和時代のモダン・ガールになるの」令和のモガは、秋原の方を見てそう言った。
「
優花はしんから嬉しそうに笑った。俺も笑顔になった。
優花の下駄の音が、カランと響いた。
令和のモガ かみつき @kusanoioriwo
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