骨46本目 貴族からの報酬

 ルチャの実家である伯爵邸に帰ってきた。


 そろそろ俺はここを出よう。

 わざわざ貴族街まで帰るのは面倒だ。

 冒険者ギルドの近くに部屋を借りるか。

 拠点についてもルチャと相談だな。


 ルチャと伯爵の部屋を訪ねる。

 

 伯爵は城から戻っていた。


「おかえりルチア、ボーンさんも……その魔物はまさか幻獣デュビラール?」


「ただいまなの、この子はアルっていうの」


「ニャッ!」


「ボーンさんのユニークスキルで子猫が幻獣になった、とライラ姫が言っていたのは本当だったのですね」


 アルを興味深く見ている伯爵に俺は話を切り出す。

 屋敷を燃やしてしまったことを言わなければ……。


「……俺は伯爵に謝らないといけない。屋敷を燃やしてしまってすまない。わざとじゃないんだ。金貨何枚くらい払えば許してもらえるだろうか?」


「ははは、そんな事は気にしなくて大丈夫ですよ」


「本当にすまなかった」


 笑顔で許してくれた伯爵の懐の深さに感謝だな。

 これからはあんなことが起きないように気を付けよう。


「パパ、アルを飼ってもいい?」


「ルチアの好きにしていいよ。幻獣の友達ができて良かったね」


「アルもパパに挨拶するの。こういう時はパパよろしくって言うの」


「パパよろしくニャ」


「「「喋った!?」」」


「こんなに滑らかに獣の魔物が喋るのか!?」


「アル凄いの! ルチャって呼ぶの!」


「こ、これは凄い。流石は幻獣ですね」


「ルチャニャ、ボーンニャ、パパニャ、アルは凄いニャ!」


 驚いた……いや、感動した。


 あの変異体ゴブリンが相手にならない訳だ。

 アルは相当に高位の魔物だったのだ。


 それからルチャはアルをわしゃわしゃと撫でて、沢山の言葉を教えてる。


 もう大興奮のルチャだ。

 いつもの18倍くらい元気に話してる。

 普段からその状態でいてほしい。

 アルと話すことをきっかけに、口下手が直るといいな。


「ボーンさん、ちょっといいですか?」


「うん? どうしたんだ?」


 伯爵に呼ばれ、ルチャとアルから少し距離をとる。


「今回のボーンさんの功績に対する報酬です。どうぞ、貰ってください」


 伯爵はそう言うと魔法袋を俺に差し出してきた。


「いや、俺はそんな大した事をしてない。報酬は不要だ」


「いえ、そういう訳にはいきません。ボーンさんは国の歴史的発見をしました。それに国が纏まる機会を作り、皆を初代国王様の魔力で救ったのです。これは冒険で困った時に活用してください」


「いやいや……」


「いえいえ……」


 このままでは話が進まないので仕方なく、伯爵から魔法袋を受け取る。


 手にして分かる、この魔法袋は最高ランクだ。

 魔法袋に様々な魔法や加護が付いてる。

 これは凄い、手にしてみたら手放す気になれない。


「これは……確かに貰いたい。だが俺がこの魔法袋を受け取ると貴族の面倒事に関わる可能性が……」


「今回の報酬はボーンさんに対する皆の感謝の印、それだけだと約束します」


「そうか……ありがとう。俺の方こそ皆に感謝する」


「それから」


「いや、これ以上はいらないのだが」


「では明日、私と一緒に冒険者ギルドに行きましょう。貴族が今後ボーンさんに関わらないようになるお礼の品物をお渡しします。その時にまた説明しますね」


「ああ、分かった。本当にありがとう」


 これで伯爵からの話は終わった。


 それじゃ、アルに言葉でも教えるとしよう。



◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 俺とルチャは伯爵も巻き込み、アルに様々な言葉を教える。

 アルはどんどん喋るようになり、会話も滑らかにできるようになった。


 俺は冒険者についての知識、ダンジョンでの注意点、仲間の大切さを教えた。


 しっかりと「分かったニャ」と言ってるので、分かってくれただろう。


 ちなみに語尾に「ニャ」が付くのは直らなかった。

 虎の幻獣になっても猫だと言うのか。

 不思議な喋る魔物だな。



◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 明日は朝から冒険者ギルドに全員で行く事になり、今日は解散。

 ルチャとアルは同じベッドで寝るらしい。

 まだまだ甘えん坊のようだ。


 俺は用意された客室に入り、魔法袋を手に取る。


 本当に素晴らしい魔法袋だ。

 どんな攻撃を受けても大丈夫そうだ。

 それだけの加護が付いてる。

 持ってるだけで解毒効果や魔力回復効果まである。


 魔力を流してみると分かる容量の巨大さ。

 形や色も自由に変えられる。

 もうこの魔法袋だけあれば冒険者人生に困らない。


 早速、魔法袋に手を入れて中身を確認してみる。


「はぁ!? おっと、つい声が出た、なんだこりゃ……」


 頭の中に何が入ってるのか伝わる。

 物の形や色、魔力量まで分かる。

 鑑定スキル付きなのだろうか。


 こんな魔法袋、見た事も聞いた事も無い。


 そして驚くべき事に、大量の装備が入ってる。


 剣、槍、斧、盾、弓、矢まで、全て最高クラス。

 鎧、服、ローブ、帽子、靴、手袋も最上の物が入っている。

 魔道具、魔導書、アクセサリーは……数えきれない。


 馬鹿かこれ、頭おかしいだろ。


 俺がオークションで落札した品物はなんだったんだ。

 魔法袋に入ってる装備の方が凄い性能ばかりじゃないか。

 どれだけの価値があるんだ。

 これじゃあまるで、歩く宝物庫じゃないか。


 俺はてっきり、大量の金貨が入ってると思ってた。


 まさかの金貨は1枚も入ってない。

 宝石も金塊も入ってない。

 素材系、薬草系、ポーション系も入ってない。


 なんなんだ、何がしたいんだ。


 これだから貴族って奴は。

 金にモノを言わせて集めた財宝ばかりかよ。

 しかも冒険者が喜ぶ財宝のみかよ。


「やったぜえええ! 最高だー! ありがとおおおおー!」


 とりあえず踊ろう!

 素晴らしいと!

 最高だと!


 貴族なんか知らん!

 財宝を手放してざまぁよ!

 そのまま貧乏になりやがれ!


 同時に深く感謝しよう。

 本当にありがとうございます。

 これからの冒険に役立たせます。


 それにしても、流石は世界最高の冒険者の国だ。

 よくこれだけの財宝を集めたものだ。


 胸が躍る、俺は冒険者として格が上がった。

 装備をガチガチに最高ランクで固められる。

 ルチャとアルにも装備させよう。


 ああ、早くダンジョンに行きたい。


 とりあえず1つ1つ性能確認だな。

 時間は掛かるだろうが、楽しい作業だ。


 こうして俺の孤独で暇だった夜は面白くなった。

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