骨45本目 変異体ゴブリン

 森をしばらく歩いていると変異体ゴブリンに遭遇した。


 変異体ゴブリンの姿は歪であった。


 体の色は薄い青、ゴブリンなのに髪の毛がある。

 盛り上がった筋肉、俺より少し高い身長、鋭い牙。

 大きな斧を持ち、鎧まで着ている。


 もはやゴブリンじゃない、違う魔物だと思う。


 更には知能も高いのだろう。

 俺たちに気付いて、手招きをする始末だ。

 こっちに来い、と。


 変異体ゴブリンの周囲には、あらゆる装備が散乱している。


 その中心にゴブリンは居るのだ。

 完全なる勝者、歴戦の強者。

 これは確かに、頭のおかしな魔物だ。


「俺とアルが組んで戦おう。あれはルチャとジェレミには荷が重すぎる」


「分かったの」「すまねぇな」「ニャウン?」


「アル、とりあえず戦ってみろ。俺は盾を装備して防御に専念する」


「ニャッ!」


 アルは一目散に駆けていく。


 ゴブリンとの戦闘が始まった。


 正直、余裕を持って観戦していられる。


 ゴブリンの一撃は脅威だ。

 しかし、アルが素早く立体的に避けるので、ゴブリンの攻撃は掠りもしない。


 徐々に戦況はアルに傾く。

 アルはそもそも攻撃を受けないのだ。

 ゴブリン相手に遊んでると言ってもいい。


 ゴブリンが特殊な魔法でも使わない限り、アルが負ける事は無いだろう。


 そんなゴブリンは傷だらけで出血している。

 紫色の血が出て、動きに精彩さが無くなってきた。


 アルの体力は底なしだな、どんどん動きが良くなる。


 そして勝敗が近づくと、ゴブリンが驚きの行動に出た。


「マテ」


 なんと、ゴブリンが喋ったのだ。

 両手を広げ、勝負に待ったをかけた。

 そして俺を指差して言う。


「タタカエ」


 どうやら俺をご指名のようだ。

 理由は分からないが、俺も戦いたいと思ってた。


「いいだろう、その勝負受けよう! アル、下がってくれ!」


「ニャアァ!?」


「まだ遊びたいだろうが、ここは下がってくれ! 俺が決着をつける!」


「ニャウン……」


 俺はゴブリンに近付く。

 するとゴブリンは持っていた斧を投げ捨てた。

 そして拳を構える。


「俺と殴り合いたいのか?」


「タタカエ」


「分かった、勝負だ」


 俺も盾を投げ捨てる。

 ローブを脱ぎ、手袋も外す。


 そして……ゴブリンに回復魔法をかける。


「ボーン!?」「大丈夫かよ!?」「ニャ?」


「大丈夫、俺もウズウズしてたんだ」


 俺も拳を構える。

 するとゴブリンは自分の顔を指差して合図してくる。

 自分を「殴れ」とでも言いたいのか?

 なら、ご希望通り殴ってやろう。


 俺はありったけの力を込めてぶん殴る。


 ――ドゴォッ!


 そしてゴブリンにぶん殴られる。


 ――ガコォッ!


 そこからはただの根性勝負になった。



◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 1発殴って、1発殴られる。


 どのくらいそうしていたか。


 もうすっかり日が暮れた。

 辺りには殴り合う音が響くだけだ。


 ルチャもアルもジェレミも途中で飽きて、もう観戦してない。

 近くで焚き火を始め、アルが狩ってきた魔物の肉を焼いて食べている。


 ゴブリンは口から血を流し、青アザを作り、ふらふらだ。

 俺はスケルトンだから血は流れないし、怪我もしない。

 血が無い体なのだ、体力も無いから疲れもしない。


 スケルトンと正面から殴り合うなど、身体能力に差がないと意味が無い。


 そろそろ次の一撃で終わるという時がきた。


「マイッタ」


「途中から俺には勝てないと気付いただろ? お前は何がしたかったんだ?」


「タタカイタカッタ」


「そうか、今からお前を殺すが……あ、そうだ、従属化させるか」


「コロセ」


「ああ、そうだよな、それが魔物として誇りだよな。じゃあな、安らかに眠れ」


 俺は火魔法でゴブリンを焼いた。


 肉が焼けて骨が見えたので、吸収できるかなと思ってやってみたらできた。


 俺の骨密度が1上昇、レベルも上がった。

 我ながら良い勝負だったと思う。


「お疲れ様なの」「ニャウ」「とんでもねぇな」


「精神的に疲れたがな。ジェレミ、これで仲間の無念は晴らせたか?」


「おう、最高だぜ。ありがとよ」


「そうか、それは良かった」



◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 俺たちは散乱している壊れた装備を全て拾う。


 これは変異体ゴブリンを討伐した証拠になる。

 ギルドに討伐報告をする時に必要だ。


 今回はダンジョンに関係ない討伐依頼だ。

 なので、ギルドカードに星が増えることはない。


 だが討伐報酬は出る、金貨800枚だそうだ。


「討伐報酬は全部渡すぜ。俺らからも礼がしてぇ。なんか欲しい物はねぇか?」


「じゃあ討伐報酬は半分ずつにしよう」


「い、いいのか? 正直、助かる。あんたは分かってる冒険者だぜ」


「分かってる冒険者、か。最高の褒め言葉だな」


「ボーンは古いの」


「ニャウン」


 全ての装備を回収し、冒険者ギルドに戻る。


 帰りの道中でもアルが大活躍だ。

 魔物を寄せ付けない、圧倒的な強さだった。

 それに魔物としての格が高いからなのか、弱い魔物は寄ってこない。


 俺も魔力全開で歩けば同じ事になりそうだ。

 まあ、魔物だとバレたくないので、そんな事はしないけど。



◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 冒険者ギルドでジェレミから討伐報酬として金貨400枚を受け取る。

 金貨はルチャと半分ずつ分けた。


「ボーン早く家に帰るの。パパにアルを紹介するの」


「ああ、そういえば伯爵はアルに会ってないのか」


「もう2日も経ったの、きっと帰ってるの」


「そうだといいな」


 冒険者ギルドを出た俺とルチャとアルは貴族街に向かって歩き出した。

 道中で俺はルチャに思っていたことを話すことにした。


「歩きながら聞いてくれ。今後の冒険者としての活動についてだ。今日は、アルの強さがよく分かった。今後はアルに前衛を任せる。ルチャは魔法を使う後衛だ。俺は中衛で全体のサポートしようと思う」


「わたしもそれでいいと思うの」


「俺はあと1人やる気に満ちたメンバーを増やしたい。出来れば弓使いがいい。アルが遊撃、俺が回復とサポート、ルチャが魔法、弓使いが遠距離攻撃。これで万能なパーティーになれる筈だ」


「わたしと年齢が近い女の人ならいいの」


「何故、男はダメなんだ?」


「女の人がいいの」


「頑固だな。そんなんじゃ友達出来ないぞ!」


「ライラみたいなこと言わないの」


 俺とルチャは募集するパーティーメンバーの細かい条件を決めながら歩く。

 話し合いは伯爵邸に着くまで続いた。

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