骨44本目 アルは幻獣
ヨーセンの街から魔族国に戻って来た。
転移場から出ると魔族の男に捕まった。
「あんた! ユニークスキル持ちの! 凄腕の回復魔法使いだよな!?」
「怪我人か?」
「仲間を助けちゃくれねぇか!? 礼ならいくらでも払うからよ!」
「分かった、任せてくれ」
男に冒険者ギルド2階の個室に案内される。
そこには右手と左足が無い、全身ボロボロの獣人が寝ていた。
部屋には他に、弓を持ったエルフの男、ローブを着た魔族の男も居る。
寝ている獣人は生きてるのが不思議な状態だ。
俺はすぐに骨粉から骨を作り、回復魔法をかける。
数秒で失った右手と左足が生えて獣人は完全回復だ。
ちなみに俺に話しかけた魔族の男も、弓を持ったエルフの男も、ローブの魔族の男も怪我をしていたので、この3人にもサッと回復魔法をかけて全快させる。
俺はもう回復魔法を極めたと言ってもいいレベルになったと思う。
人間が使う回復魔法の100倍くらい効果が高い。
流石は魔物魔法だ。
無詠唱でこの効果、素晴らしい。
「よし、治ったぞ。これで全員、完全な健康体だ」
「なんだこれ」「すげぇな」「まじやべぇ」
「冒険者ルチャをよろしくな、じゃあな」
「恥ずかしいの」
「ニャウン」
俺はさっさと部屋を出ようとしたが、魔族の男に肩を掴まれて止められた。
「なあ、あんたに頼みがある、俺らと一緒に森の魔物狩りに行ってくれねぇか? あんたが居てくれれば、ヤツを倒せるかもしれねぇ」
「ヤツ? どんな魔物だ?」
「すげぇ強いゴブリンの変異体だ。ヤツはいつも同じ場所で冒険者狩りをしてる。冒険者を半殺しにしては笑いやがる、危険なヤツだ」
半殺し?
殺さないのか?
おかしなゴブリンだな。
「回復魔法使いとしての同行、頼まれちゃくれねぇか?」
「ルチャ、アル、どうする?」
「ボーンに任せるの」
「ニャウン」
「じゃあ行こう! 今すぐ行こう! 早く見たい!」
「あー、その、仲間が目を覚ましてからでいいか?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ルチャがアルを従属魔物として登録したいと言うので、登録受付に向かう。
冒険者ギルド1階に降りると「回復魔法をくれ」とぞろぞろ人が集まってくる。
無視するわけにもいかないので、回復魔法をかける作業を始めた。
「尻尾が切れて……再生できませんか?」
「余裕だ」
「ワタシの翼も治せますカ?」
「任せろ」
「鱗の再生とかできる?」
「ほらよ」
「歯が抜けたんだけど」
「おう」
「古傷を消したりできない?」
「簡単だ」
「すまねぇ、ずっと腰が痛くてよ」
「はいよ」
「もう随分前に魔物にやられてよ、左手を失って」
「治ったぞ」
「右手が石化の呪いで動かなくなっちゃって」
「もう動くぞ」
「あのー、目が片目見えなくて」
「これで見えるか?」
「耳が聞こえなくなったんだけんど」
「聞こえるようになったか?」
「男性機能の改善なんてことは……」
「回復魔法はかけた」
「ハゲを治しちゃくれねぇか?」
「気持ちは分かるからな」
「アルの登録が終わったの」
「もう魔力が切れたー! 終了ー! 冒険者ルチャをよろしくなー!」
「「「「「ありがとー!!」」」」」
俺とルチャとアルは人々に感謝されながらその場を後にした。
「アルがお腹減ったらしいの。食堂に行くの」
俺達は食堂で食事をすることになった。
アルがとにかく食べる食べる。
もう無限に食べる。
流石は虎の魔物、食欲旺盛だ。
ルチャの財布に大打撃だな。
「そうだルチャ、アルはどんな魔物なんだ? 系統はなんだ?」
「知らないの?」
「ニャ?」
「知らない、今まで見た事が無い魔物だ」
「系統は猫系、そして幻獣なの。名称はデュビラール」
「ニャッ!」
「幻獣、デュビラール? なんだそれ? 誰が名付けたんだ?」
「知らないの。図鑑に載ってるの」
「ニャ」
「図鑑に載る幻獣か。凄さがよく分からないな」
「分からなくてもいいの」
「ニャーニャッ!」
「じゃあ森のゴブリンと戦わせてみるか?」
「うーん……アル、戦ってみたい?」
「ニャッ、ニャァッ!」
「にゃって言ってるの」
「意味が分からん」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
食堂でアルの食事をする姿を眺めていると、先程の魔族の男が来た。
仲間達と話し合った結果、再戦は断念する、と決まったとの事。
パーティー主力の獣人の男が「もう行きたくない」と言っているらしい。
強敵に瀕死まで追い込まれたんだ、精神的にも瀕死なのだろう。
ここでやる気が出ないなら無理する必要は無い。
「再戦を断念するのは分かった、仕方ない。だが俺は変異体ゴブリンをどうしても見たい。それにアルを戦わせてみたいんだ。どうにかならないか?」
「じゃあ俺が案内するぜ。あんた達なら、ひょっとすると勝てるかもしれねぇ」
「じゃあ案内を頼む」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
俺とルチャとアル、案内役の魔族の男ジェレミ。
3人と1匹で森に来た。
俺も魔物だから、2人と2匹なのだが……そこは秘密だ。
森の道中でアルに狩りをさせてみる。
アルの力を確認する為だ。
はっきり言おう。
幻獣デュビラール――アルは強い。
純粋な戦闘力はあのスカルドラゴン以上だ。
アルと戦えば俺はボロボロにされて、消滅させられるだろう。
アルはそれほどの力を誇る魔物だった。
猫特有の動き、全身バネ、強靭な筋肉。
四足獣ならではの動きを完璧に兼ね備えてる。
やはり筋肉は偉大だ……羨ましい。
そして魔物が使う魔法は無詠唱で自由自在である。
つまり、アルはどこからでも土魔法の『土槍』を使えるということだ。
これは不味い。
アルと喧嘩できない。
アルが暴走したら止められない。
完全にアルを侮っていた。
俺はもっと強くなる必要がある。
早急にレベル上げと骨密度上げが必要だ。
アルの強さを見たルチャはすごく上機嫌になった。
相棒が強いから嬉しいのだろう。
案内人の魔族の男ジェレミは「すげぇ」を連呼する。
アルなら「変異体ゴブリンに勝てる!」と言う。
幻獣デュビラールを知ってるか聞くと「常識だろ」と言われた。
何がどう常識なんだ?
俺はそもそも幻獣という言葉すら知らない。
まだまだ勉強不足だな。
「そろそろ変異体ゴブリンと遭遇するはずだ。準備はいいか?」
唐突にジェレミが俺達に尋ねた。
「ああ、俺はいつでもいいぞ。ルチャとアルはどうだ?」
「わたしは問題無いの」
「ニャッ!」
「アルは、にゃって言ってるの」
「よし、大丈夫そうだな」
準備は万端。
いざ、変異体ゴブリンとご対面だ。
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