骨43本目 セーラをパーティーに誘おう

 火事騒動の翌日。


 ライラは朝早く城に帰った。

 伯爵はまだ戻ってない。


 ルチャは虎の魔物に『アル』と名付けた。

 家名のアルレットから取ったそうだ。

 これからは冒険の相棒なんだとか。


 ライラはドラゴンに名付けなかった。

 そもそも父親である王様に、城でドラゴンを飼う許可すら貰ってなかった。

 だから名付けは王様に任せて、愛着を持たせる作戦なんだとか。

 ライラらしい謎の理論だ。


 今日は屋敷の修繕工事をするらしい。

 執事さんには「外で遊んできて下さい」と言われた。


 よし、今日はセーラにお土産を渡しに行こう。

 ついでにパーティーに誘ってみよう。

 セーラならルチャと仲良くやれそうだ。


「ルチャ、俺はヨーセンの街に行く。ルチャも一緒に行くか?」


「行くの」


「アルはどうする?」


「連れていくの」


「確か……魔物を連れた冒険者はイキって見える、とか言ってなかったか?」


「アルは強いから大丈夫なの。ね、アル」


「ニャウン」


「基準が分からないな。そもそも虎なのに、その猫みたいな鳴き声はなんだ? もっと虎らしく、逞しく鳴いてくれ」


「ニャッ!」


「アルは可愛いからいいの」


「ニャ」


「可愛い大きさじゃないぞ?」


「ニャァ!?」


「アル、まさか、俺のせいだとでも言うつもりか?」


「ニャッ!」


「ケンカしないの」


「ニャウン」



◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 俺とルチャは貴族街を抜けて転移場に向かった。


 道中ではニャーニャー鳴く虎のアルに冒険者達は興味津々だ。

 とりあえず「触らせて」と言って寄ってくる冒険者が1番多かった。


 俺の顔を覚えているのか「今日は回復魔法は?」と聞いてくる人も居た。


 仕方ないので全員にサッと回復魔法をかける。


 こういった活動はいつか自分の為になる筈だ。

 しかし、面倒でもある。

 どこに行っても人が寄ってくるからな。


 ルチャにだけは誰も寄り付かない。

 いや、たまにナンパされてるか。

 アルが「シャァ!」と威嚇したら走って逃げるが。

 流石は相棒の魔物だな。


 アルはしっかりと人の言葉が分かってる。

 首を振って『肯定』か『否定』かを表現する。

 頷くと肯定、横に振ると否定だな。

 とても賢い魔物である。


「アルは生まれたばかりでまだ喋れないの、そのうち喋るの」


 ルチャはそう言う。

 可能性はあると思うが、どうだろうな。


 かなり高位の魔物だとは思うが……喋るか?



◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 転移場で金貨を支払い『ヨーセン』に転移する。


 そしてセーラの家に到着。


「あー! ボーンさーん……と、女の子と魔物!?」


「久しぶりだなセーラ」


「ボーンさん、そこにいる女の子と魔物は何なの!?」


「この子はルチャで、こっちの大きい虎の魔物はアルだ」


「ルチャなの、セーラよろしくなの」


「ニャウン!」


「え……あ、あははー! よろしくねー! じゃあ入って入ってー!」


 いつもの調子を取り戻したセーラに招かれて俺達は家の中に入った。

 ここで俺は初めてセーラの父親に会った。

 ゆったりした雰囲気の、メガネの優しい男性だ。

 常に笑顔でニコニコしてる。


 もう体全体から優しさが伝わってくる。


 昔なら家に魔族と魔物が入ってきたら、初対面でこんな対応は無理だ。

 人種差別の無い世の中は素晴らしい。

 心が暖かくなる。


「あ、そうだ。今日は大量に宝石を持ってきたんだ。ダンジョン攻略の土産だぞ。少し割れた物や形が綺麗じゃない物が多いから、アクセサリーにするなら加工が必要だが、良かったら受け取ってくれ」


 俺は大量の宝石を机にジャラジャラと出す。

 魔法袋に入ってた宝石全部だ。

 俺には必要ない物を土産にするのも微妙だが、喜んでくれると思う。


「やったー! ボーンさんありがとー!」


「あらやだ! ボーンさん! 悪いわねぇ!」


「おお! ボーンさん! ありがとうございます!」


 セーラ達はとても嬉しそうだ。

 こんなに喜んでくれるなら持ってきた甲斐もあるというものだ。


「わたしもお土産があるの、絵画と壺なの。家のどこかに飾ってほしいの」


「ニャッ!」


 あ、これはオークションでルチャが落札した物だ。

 土産の為に落札してたのか。

 ルチャらしいと言うか、貴族らしいと言うか。


「これは素晴らしい絵画と壺だね! ありがとう! ルチャちゃん!」


 喜んだのはセーラの父親だった。

 こういった部屋に飾る品物が好きらしい。

 良かった良かった。


 そして本題だ。


「セーラ、俺とルチャのパーティーに入らないか?」


「無理無理! お断りしまーす!」


 速攻で拒否られた。

 どうやら冒険者という仕事に熱意は無いようだ。

 たまに活動するくらいが丁度いいんだとか。


 そういう冒険者も居るよな。

 冒険者も人それぞれだからな。

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