骨42本目 猫とドラゴンの進化

 子猫の魔物を優しく撫でてみる。


 俺の手に伝わる柔らかい毛の感触。

 良い、すごく良い、子猫の魔物……可愛い!


 こんなに可愛いならオークションで他の卵も落札しておけば良かったな……。

 いや、過ぎたことを悔やむのは止めよう。


 俺は子猫をベッドに戻した。

 そして、落札した商品を装備してみた。


 銀色のローブを羽織り、黒色の手袋を装着。

 銀色の盾を持って鏡を見る。


 最高級品の装備を身に付けるのは、冒険者としての成功であり、達成だ。

 もっと上位ランクの装備もあるだろう。

 これから見つけていこう。



◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 新しい装備を着ていると冒険に行きたくなる。

 この装備で魔物と戦ってみたい。

 だがまだ夜中だし、今日は我慢だな。


 俺は寝ている子猫を抱く。

 子猫を撫でて気分を落ち着かせよう。


 そういえば、本に書いてあったのだが、従属している魔物に魔力を流すと魔物の成長を促進させることができるのだとか。


 俺は興味本位で子猫に魔力を流してみた。


 結果から言おう。

 やってしまった、と。


 子猫は成長すると成体の猫になる、なんて事はなかった。

 子猫だったが、やはり魔物だったのだ。

 何かよく分からない魔物に進化してしまった。


 大きくなるのが面白くて、魔力を込めすぎた。

 今は虎みたいな大きさの魔物になった。

 毛並みは茶色い、虎っぽい魔物だ。

 ふさふさしてて、柔らかい毛が気持ちいい。


 この虎は、どんな魔物なんだ?


 虎の魔物なんて知らない、初めて見た。


 分かるのは土属性持ちの魔物であり、相当に強い魔物だというくらいか。


 とりあえず、虎の性能を確認してみよう。


 前足の柔らかい肉球を押すと鋭い爪が出てくる。

 爪は出し入れ自在のようだ。

 攻撃力が高そうだな。


 牙だってそうだ、長いし鋭い。

 噛む力も強いだろう。


 頭の中央には角が生えている。

 このまま突進攻撃とかしそうだ。


 魔力量は俺よりも高そうだ。

 四足歩行の魔物だから素早いだろう。

 筋肉もぎっしり詰まってる。


 うーむ、なんて素晴らしい魔物なんだ。


「はあ……親になりたかったなぁ……」


 俺はぽつりと独り言を呟いた。

 未練タラタラなのである。


 ……それにしてもこの虎はずっと寝てるな。

 俺にこれだけ悪戯されたのに寝続けてる。


「おい、虎、起きろ。ちょっと遊ぼう」


 揺さぶっても起きない。

 この寝坊助め。


「虎! 起きろって! 庭で遊ぼう! なっ!」


 まるで起きない。

 なんて面白くない魔物なんだ。

 もういい、諦めた。


 調子に乗った俺は次にドラゴンを進化させることにした。


 ドラゴンが巨大化したら屋敷が崩れるかもしれない。

 もし崩れたら、謝ろう。


 俺は虎を放置してドラゴンをベッドから取る。


 鳥みたいなふわふわした羽だ。

 ドラゴンなのに鳥みたいだな。


 こんなドラゴンは見た事が無い。

 きっと海の向こうのドラゴンなのだろう。


 それにしても小さい。

 手のひらに乗るくらい小さいのだ。

 まるで小鳥だな、可愛い。


 さて、俺の魔力を込めてやろう。


 どんどん込める……が、大きくならない、変わらず小さいままだ。


 体内の魔力量はどんどん増えてるのに不思議だ。


 とりあえず限界まで魔力を込めてみる。


 結果から言おう。

 やりすぎてしまった、と。


 ドラゴンは大きくなると家よりも巨大になる、なんて事はなかった。


 少しだけ大きくはなったが、それでも人間の頭より小さい。

 両手に収まる大きさだ。


 そして驚くべきは、体内の魔力量だ。

 濃密な魔力に溢れている。

 余裕で俺よりも魔力量が多い。


 属性は火属性を持ってるのは確実だが、他にもありそうだ。


 こんなに小さくて可愛いのに、中身は立派なドラゴンだ。


 戦ったら勝てるだろうか。

 ドラゴンは再生能力があるが、俺ほどじゃない。

 だがこの魔力量だ、勝てないかもしれない。


 いや、俺はドラゴンなんかに負けないぞ。


「ドラゴン! 起きろ! 外で遊ぼう!」


 やはり起きない、何故だ。


「起きろって! 魔法を見せてくれよ! 魔法!」


「ガゥ?」


「おお! 起きたか! 魔法を見せてくれよ!」


「ガゥ……」


 そして寝た、馬鹿野郎。

 ムカついたので虎にドラゴンを投げつける。


「ガゥッ!?」「ニャァ?」


「よし、起きたな! 外で魔法を見せてくれ!」


「ガゥ……」「ニャァ……」


「寝るな馬鹿! 魔物だろ! 起きろ! 魔物としての誇りは無いのか!」


「ガゥ」「ニャ」


「え、無いのか!? あるだろ!? ある筈だ!」


 ドラゴンはパタパタと羽で飛び、静かに俺を見つめてる。

 虎はクルクルした可愛い目で俺を見つめてる。


 よし、魔法で遊んでみよう。


 左手から虎に土魔法『土弾』を飛ばす。


 右手からドラゴンに火魔法『火弾』を飛ばす。


 ――ドゴンッ!ゴウッ!


「ガゥッ!」「ニャッ!」


「馬鹿野郎! 避けるなよ! 受け止めろよ! ああ、屋敷が!」


「うるさいの、なんなの……これはなんなの!?」


「屋敷が燃えてる! 水魔法で消火してくれ!」


「わ、分かったの!」



◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 結局、大量の煙で屋敷の人達も起きて大騒動になった。


 消火は無事に完了した。

 屋敷は少し燃えてしまった。

 俺は勿論、言い訳をした。


「そこの虎が土魔法を使った。そこのドラゴンが火を吹いた。俺は悪くない」


「ニャァ!?」「ガゥッ!?」


 まさかこいつら、俺の言葉が分かるのか。

 必死に頭を横に振ってる。


「ボーン、どうして子猫が、こんな凄い魔物になったの? 説明してほしいの」


 言えない。


 勝手に魔力を込めたら進化しました……なんて、とても言えないのだ。


 だから俺は言い訳をする。


「原因は俺のユニークスキルだ!」


「……やっぱりなの」


 魔法の言葉を唱えれば解決した。

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