骨41本目 ライラへの制裁

 城での貴族戦争を乗り切り、伯爵邸に戻った。


 まずはルチャへ報告だ。

 それと、ライラの様子を見よう。


 そう思った俺はルチャの部屋に来た。


 もう寝てるかもと思ったが、とりあえず扉をノックする。


 ――コンコンッ。


「誰なの?」


 部屋の中からルチャの声がした。

 どうやらまだ起きてたようだ。

 これなら報告もできるな。


「ボーンだ、入るぞ」


「ま、待ってなの!」


 ドタバタと音がするし、ライラの声も聞こえる。

 どうやらライラは目覚めたようだ。

 手刀を打ち込んだ事は反省してるので、回復魔法をかけてやろう。


「入っていいの」


 ――ガチャッ。


 扉を開けて……この、謎の状況が飲み込めない。


 さて、落ち着いて確認してみよう。


 ルチャとライラが片膝を付いて頭を下げている。


 ルチャの隣に子猫。

 ライラの隣に鳥みたいな小さなドラゴン。

 2匹とも大人しくちょこんと座っている。


 つまり、卵は2つとも孵ったという事だ。


 それは仕方ない、生まれるのはタイミングの問題だからな。

 俺に猫型の魔物との縁が無かったのだろう。


 うん、俺はやはりドラゴンの卵を手に入れよう。


 ドラゴンは良いな、小さくても強そうだ。

 子猫も可愛い魔物だな、撫でたい。

 どう見ても子猫にしか見えないのは気になるがな。


 だが……この状況はなんだ?


 どう見てもルチャとライラが反省しているような雰囲気だ。

 俺みたいに何かやってしまったのか。


「どうしたんだ? 2人とも、そんな格好で」


「ごめんなさいなの……」


「本当にごめんなさい……」


「何に謝ってるんだ?」


「わたしから説明するの。ボーンに嘘はつかないの。正直に話すの。ライラが卵に魔法陣を描いて、卵に魔力を込めたら、生まれてしまったの。ライラの魔法陣のせいで、えっと、ボーンから猫の卵を奪ったから、ごめんなさいなの」


「ごめんなさい! あたしのせいなんです! ルチアを殺さないでください! あたしが猫の卵に、魔力を込めたら卵が孵る魔法陣を描いたせいなんです!」


「なん、だと……」


 俺は人間に擬態しているスケルトンだ。

 今の魔力量は3万近い魔物だ。


 通常は魔物だと周囲にバレないようにしている。

 魔力については、徹底した隠蔽をしている。

 常に魔力を抑えて、周囲に感知されないようにしているのだ。


 その魔力を、全開放する。


 目の前に突然、魔力量3万の魔物が現れたように。


 ――ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!


 部屋の空気が震えだした。

 まるで俺の怒りを体現しているかのようだ。


「「ひいっ……!?」」


「ガウッ!?」「ニャァ!?」


 ルチャも、ライラも、ドラゴンも、猫も、後ずさる。


「ライラ、お前5番だよな? 俺のオークションをよくも邪魔してくれたな……」


「ひぇぇぇ……」


「どうやら死にたいらしいな?」


「ま、待って! ボーン! 待ってほしいの!」


「待たない、ライラには罰を与えなければならない」


 俺は高密度の闇弾を作り出す。

 この世の全てを消滅させるが如く、魔力を込める。

 窓が割れ、風が吹き荒れる。


「死ね」


 俺は闇弾をライラの顔面目掛けて発射!

 ……なんて事はせず、目の前で魔法を散らす。


 ふう、これだけ脅せば少しは反省するだろう。


 やってしまった事は仕方ない。

 俺に子猫との縁が無かっただけだ。

 それに俺もやってしまったからな。


「はっはっは! どうだ、驚いたか?」


 俺は笑いながら2人の顔を見た。

 あ、これは、不味い……もしかしたら、やりすぎたかもしれない。


 ルチャもライラも、色々と漏れてしまった。

 しかも目を開けたまま、意識が飛んでる。

 精神的に死んだように見える。


 ドラゴンも猫も気絶してる。

 俺と同じ魔物なのに、不甲斐ない奴らだ。


「おーい! 起きろー! 生きてるぞー! ほら!」


 ああ、泣き出した。


「ごめんなさいなの……ごめんなさいなの……」


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」


 どうやら反省してるようだ。


「とりあえず着替えよう。話はそれからだ」


「はいなの……」


「はい……」


 俺は2人を残して伯爵から用意された客室に戻った。


 椅子に腰掛けながら反省する。


 子供相手にやりすぎたと思う。

 どう考えても大人のする事じゃない。

 そもそも俺がライラを誘拐したから、子猫との縁が消えたのかもしれない。


 だが、悪いのはライラだ。

 俺からドラゴンと猫の卵を奪った事実がある。

 悪意は無かっただろう、わざとでもないだろう。

 それでも俺は悔しかったのだ。


 これでお互いの罪は許された、って事でいいか。

 猫は……残念だ、相棒にしたかった。


 まぁいいか、そのうち良い縁があるだろう。


 それにしても、卵をすぐに孵す魔法陣には驚いたな。

 そんな魔法陣が開発されているのか。

 この時代は魔法陣は本当に進んでる。


 もしかしたら召喚魔法陣についても凄まじい魔法陣があるかもしれない。

 これは……調べてみるのもありだな。


 そんな事を考えてると、ルチャとライラが部屋に来た。


 ひたすら謝ってるが、もういいだろう。


「分かった、もう謝らなくていい。俺も悪かった。お互いの罪を許し合おう」


「うん」


「はい」


「じゃあ報告をしよう、聞いてくれ」


 俺はライラが寝てる間に城で何が起こったのかについて説明した。


 ライラという生き物は、少し会話の隙間を与えると早口で喋りだす。

 なので、俺はライラよりも更に早口で説明する。


 ライラとは、なんとも面倒な生き物である。


 全てを伝えると、ライラは「寝たら城に帰る」と言ってベッドに入った。

 俺の客室であり、俺のベッドにだ。


 ライラとはこういう生き物なのだと納得する。

 ルチャもベッドに入ったので今回は許してやろう。


 ドラゴンも子猫もベッドで寝ている。


 魔物は普通こうやって寝るのに、アンデッド系の魔物である俺は眠らない。

 やはりアンデッド系の魔物は死んでるからか。

 俺はしっかりと生きているつもりなんだがな。


 さて、暇だし子猫を撫でるか。

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