骨40本目 誘拐の後始末

 伯爵が質問攻めに遭っている。

 俺はその様子を部屋の隅から見てる。


 結局、伯爵は何がしたかったんだろう。


 この状況を作ると権力争いが終わる、とは言ってた。

 だが、俺には何が何だか分からない。


 俺をライラに変身させ、芝居をさせる。

 暗殺者の特定と捕縛。

 魔物に寄生された人物の特定。


 俺がしたのはこれくらいだ。

 全て伯爵の指示通りに動いただけだ。


 うーん……ま、考えても仕方ないか。


 貴族なんて面倒な生き物だからな。

 相手にしたら疲れるだけだ。

 頭を切り替えよう。


 まず、俺とルチャがダンジョンを完全攻略したと発表した。

 この国ではダンジョンを攻略したら冒険者ギルドから星が貰える。

 ギルドカードに描かれた星はダンジョンに入る為の資格になる。

 星を多く持っていれば、挑戦できるダンジョンの幅が広がるのだ。


 俺は部屋の隅で地図を広げる。


 星は1つだけ貰えるのか、複数なのか。

 複数なら行きたいダンジョンに行ける。


 星1と星2ダンジョンに興味は少ない。

 美味しい魔物肉が獲れるらしいが、俺にとっては微妙なダンジョンが多い。

 やはり星3以上のダンジョンに行きたい。


 星3の毒霧ダンジョン。

 毒が充満しており、奥に進めず、攻略不可能だと放置されてるダンジョン。

 俺の骨体は完全毒無効、余裕で攻略できる。

 まずはここをソロで攻略したい。


 星4の高経験値ダンジョン。

 ここは潰したらダメなダンジョンで、レベル100以上推奨。

 経験値が大量に稼げるダンジョンだ。

 絶対に行きたい、レベルを上げたい。


 星5のダンジョンは環境が過酷だ。

 常に猛烈な暑さのダンジョンもあるし、寒いダンジョンもある。

 湖ダンジョンなら水泳と水中戦闘の技術が必要だ。

 このレベルのダンジョンになると、道中で貴重な素材が拾えるらしい。

 素材は高額で取引されるので、ここで金稼ぎだな。


 最終目標は星7ダンジョン。

 その名も『悪魔のダンジョン』という。

 まるで未知のダンジョンだと言われてるらしい。

 歴代の凄腕冒険者たちが命を散らしてきたダンジョンなんだとか。


 どのダンジョンも魅力的だ。

 しかし、まずは骨密度の数値を上げたい。

 スケルトンだらけのダンジョンに行きたい。


 そうなると、星5の戦争跡地ダンジョンか。

 ここも行く価値があるだろう。


 今なら回復魔法が使えるから、今後は回復魔法使いとして活動できる。


 ああ、悩ましい。

 なんて素晴らしい大陸なんだ。


 もう全部行こう、そうしよう。


 そうなるとパーティーが必要だな。

 まずはルチャを限界までレベル上げするか。

 ルチャは中衛の魔法使い型だから、前衛と後衛のメンバーを募集しよう。

 死ななければ俺が回復させるから、死ぬ気のあるメンバーがいいな。


 ……あ、でも、猫型の魔物の調教が最優先だな。


 オークションで強い波動の卵を手に入れたのだ。

 猫が卵から生まれるなんて理解不能だが、魔物だから納得だ。

 卵のうちから過酷な環境に連れて行き、俺がひたすら魔力を注いでやろう。

 きっとあいつは強くなる。


 相棒の魔物、素晴らしい響きだ。


 俺はテイマーとしても、回復魔法使いとしても活動できるのだ。


 ああ、もう、早く帰りたくなってきた。

 伯爵の家に置いてある卵に魔力を込めてあげたい。

 貴族の話し合いとかどうでもいい。


「おーい! 伯爵ー! ちょっといいかー!?」


 話し合いが白熱してる。

 やっと伯爵が俺の声に気付いてくれた。


「おや? どうされましたか?」


「この後は魔物に寄生された人の治療だけだよな? 貴族の治療なんかさっさと終わらせて俺は伯爵の家に帰りたいなと」


「ライラ姫を誘拐して反省してるんですよね? おかしいですね、先程までと態度が変わってますが?」


「そ、そうだったな、俺が悪かったんだ。申し訳ない」


「ははは、冗談ですよ。治療が終われば、先に馬車で戻ってて下さい」


「すまない、冒険者心が疼いて仕方ないんだ」


「では、最後にもう少しだけ付き合ってください」


「ん?」


「……皆様! 私の部下ボーンが、初代国王様の奇跡をお見せします!」


 いきなり謎の小芝居を始めた伯爵。

 こんな芝居は聞いていないのだが。


 まぁいいか、とりあえず乗っかろう。


「初代国王様の魔力を皆様に託します! どうぞお受け取り下さい!」


 伯爵に小声で「完璧です」と褒められた。


 こうして魔物に寄生された人の治療を開始した。


 杖を使っての治療は初めてだったが、通常の3倍くらいの早さで治療した。


 指先を針状にし、ドスッと派手な音を立てた場面ではやはり驚かれた。

 だが「ユニークスキルです!」と魔法の言葉を唱えれば即解決だ。

 本当に便利な言葉である。


 上級貴族4人、王子様2人、最後に王様。

 合計7人の治療をした。


 ちなみに王様については伯爵が小声で「ガッツリ」と指示してきた。

 なので、それはもうガッツリ魔力を込めた。


 老人に見えてた王様は若返り、今は壮年の男性だ。

 伯爵はすかさず「初代国王様の奇跡!」とかなんとか大声で叫んでた。


 伯爵は小芝居が好きだな。

 流石は貴族、腹黒い生き物だ。


 そして最終的に『初代国王様の祝福』とか言う謎の儀式をやる事になったので、この場に居る全員に、回復魔法をガッツリかけてあげた。


 大歓声、興奮、感謝、様々な言葉を貰った。


 そんなのいらないから星をくれ、とは言わなかった。

 ドラゴンの卵持ってこい!とも、言わなかった。

 俺は謙虚な態度でその場を離れる。


 もう場の雰囲気が面倒なので、伯爵を捕まえる。


「伯爵、もう帰っていいか?」


「ええ、そこのメイドに案内してもらって下さい」


「ああ、分かった、伯爵は後始末を頑張ってくれ」


「頑張りますとも、ここからが正念場です」


 そんな事を小声で話し、俺はメイドに案内され城を出た。


 早くオークションで手に入れた装備を装着したい。


 いや、その前に卵を愛でよう。


 ……ああ、楽しみだな。

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