骨39本目 ライラとルチャ

 ボーンとアルレット伯爵が城で作戦を遂行している頃。


 天真爛漫な王女、ライラが目覚めた。


「あいたたたたた……」


「ライラ大丈夫?」


 ルチャは優しくライラの頭を撫でる。

 心配そうに声をかけ、様子を伺う。


「ルチア? あれ? あたし、どうしたの?」


「わたしの部屋なの、ライラは気絶してたの」


「気絶ですって? なんでよ、何が起こったのよ! うっ首が痛い!?」


「いきなり気絶したの」


「はぁ? そんな訳ないじゃない! 意味が分からないわ! そもそも、どうしてあたしはルチアの部屋にいるのよ! オークションが終わって、それで、ルチアにドラゴンの卵を自慢して、あれ……? そこからどうなったんだっけ?」


「そこで気絶したの」


「……そんな気がするわ! そうだ、あたしの卵はどこなの!? あれ金貨2万枚もしたのよ! すんごい高かったんだから! ねえ、あたしの卵はどこなのよ!」


「ライラうるさいの、卵はそこ」


 目の前の卵を指さすルチャ。


「ああ、良かった! 気絶してる間に卵を盗られた、なんて、たまんないわよね! それじゃっ! あたしは帰るわ! またねルチア!」


「お泊まりしてほしいの」


「お、お泊まりですってぇ!? そ、そんな、し、しょうがないわね! えぇ! 今日はお泊まりしてあげるわ! ルチアはあたしの事が大好きで困るわね!」


「流石はライラなの」


 人に構ってもらう事が大好きなライラは喜んだ。

 それはもう全力で喜んだ。


 内心では「ちょろい」と思っているルチャ。


 ルチャには使命がある。

 それは『ライラを拘束する事』である。

 だから今日はライラを家に泊める事にしたのだ。


 だが、ただライラを泊めるわけではない。

 ルチャはライラから情報を引き出そうと考えていた。


 手に入れたい情報はドラゴンの卵の入手経路。

 ボーンが知りたがるだろうから是非とも知っておきたい。


 そう思ったルチャはライラに聞く事にした。


 ライラに甘えるように、そっと手を重ねて上目遣い。

 ライラの気分はこれだけで上昇する。


「ドラゴンの卵について教えてほしいの」


「もう、ルチアはしょうがないわね! そうやってお願いすれば、あたしが話すとでも思ってるの? だから、あたし以外に友達がいないってよく言われるのよ! ふふっ! でも、聞きたいなら教えてあげる! 誰にも言っちゃダメよ?」


「わたしとライラだけの秘密なの」


「しょうがないから教えてあげるわ! このドラゴンの卵はエスピリ龍王国の山で見つかった卵なのよ! それと大きなドラゴンの卵も出品されてたじゃない? 覚えてる? あの大きな卵もエスピリ龍王国からの出品よ!」


「ふーんなの」


「しかも落札したのはエスピリ龍王国の王子よ! わざわざ自分で出品して自分で落札したのよ! やり方が汚いわ! それでお金を使ったから王族としての務めは果たしたとか言うんだから! あの男は嫌いだわ!」


「どういう事なの?」


「王族はオークションでお金を使う義務があるのよ? 知ってるでしょ? 今回のオークションは出来レースが多かったのよ! それを12番が荒らしたのよ! 誰なのか調べて文句を言ってやるわ! 本当なら半額以下だったのに!」


「12番はパパなの」


「……アルレット伯爵ならしょうがないわね! あっもしかして、ドラゴンの卵が欲しかったのってルチアなの? だったら先にあたしに言ってくれればいいのに! そんなんだから馬鹿って言われるのよ? でも、12番のおかげでエスピリ龍王国から手数料がっぽりよ! よくあんなに値段を釣り上げてくれたわ! アルレット伯爵にはお礼をしてあげる! 何が欲しいか聞いておいてよね!」


「わたしは馬鹿じゃないの」


「そこ!? だから友達ができないのよ!?」


「そんなことないの」


「あ、気になってたんだけど、あたしのドラゴンの卵の隣に置いてある、茶色い卵はなんなのよ? ルチアが落札したの? ルチアって魔物の卵に興味あったんだ! じゃあ、一緒に魔力を込めるわよ! 魔力を込めると卵が喜ぶのよ!」


「どうやって?」


「ふふん! 見てなさいよ?」


 ライラは卵を手に取り、魔力文字で魔法陣を描く。

 小さいドラゴンの卵と茶色い猫の卵に丁寧に描いていく。

 ライラはこれでも真面目に学校を卒業した優等生。

 魔法陣については詳しい。


 魔法陣を描き終え、ドヤ顔のライラ。


「出来た! 完成よ! あたしにかかればこんな魔法陣なんて余裕で描けるわ! どう? 凄いでしょう? ほら、あたしを褒めなさいよ! ちょっと、ルチア! こっち見なさいよ! 卵に魔力を込めるのよ! ルチアは茶色い卵ね!」


 ライラに茶色い卵を渡されたルチャ。


 卵には様々な魔法陣が描かれていた。


 また勝手に……とルチャは思った。


 しかしライラと話すと疲れるので、ルチャは無言で魔力を込める事にした。


 ライラも無言でドラゴンの卵に魔力を込めている。


 しばらくすると卵は魔力で満たされた。


 ――ピシッ……ピシッピシッ。


 ドラゴンの卵、猫の卵、どちらにもヒビが入る。


「え、ライラ!? どんな効果の魔法陣を描いたの!?」


「ルチア、話聞いてなかったの? あたしの素晴らしい技術で描いた魔法陣よ! 生まれてくる魔物に魔力を流した人を親と認識させる魔法陣! すぐに生まれるようにする魔法陣! 親愛の絆が生まれる魔法陣も描いてあげたわ! ほら、お礼はどうしたの? ありがとうって言えないの? あ、生まれる生まれる!」


「これはわたしの恩人の大事な卵なの。不味いの。わたし、殺されるの……」


「なんですって!? 殺されるってどういう事!?」


「ガウッ!」「ニャア?」


「「生まれた……!」」


 丸っこい体をした鳥のような灰色のドラゴン。

 どこからどう見ても茶色い子猫。

 2匹とも手のひらに乗るほど小さい魔物であった。


 ルチャとライラは恐る恐る触ってみる。


 ドラゴンはガウガウと鳴きながら、ライラの手に抱きついた。

 子猫はニャア♪と機嫌が良さそうに鳴き、ルチャの肩に飛び乗った。

 なんとも愛らしい姿をしたドラゴンと子猫である。


「ねえ、ルチア……殺されるって、どういう事なの? ちゃんと説明してよ!」


「この子猫は、本当は、ボーンの子猫なの。ボーンはこの子猫の親になる事を、すごく、本当にすごく、楽しみにしてたの。ライラ、どうしてくれるの。わたしが子猫の親になったの。全部ライラのせいなの」


「そ、そんなの! しょうがないじゃない! あたしは悪くないわよ! 魔力を込めたのはルチアでしょ!」


「ライラは絶対に殺されるの」


「は……はぁ!? ど、どうすればいいのよ……」


「なにか考えないと不味いの」


 ルチャとライラはボーンへの償いを考える事にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る