骨38本目 伯爵の作戦

 俺と伯爵が乗った馬車が城に到着した。


 俺は伯爵の手を引き、まるで怒ってるかのように馬車から飛び出す。


 これは伯爵の指示だ。

 こうする事で俺と伯爵は自由に城を歩ける……らしい。


 実際のところ、誰も俺と伯爵を止めないので伯爵の作戦通りだ。


 伯爵の手から伝わる合図で『左』『右』の指示を受ける。

 来た事もない城の中を、我が物顔で闊歩する。


 いくつかの部屋に行き、その部屋にいる人に対して伯爵が話す。


「私はライラ姫に連れて来られました。何か大切な話があるとの事です。ライラ姫は全員が集まるまで口を閉じてると言うので、申し訳ありませんが、ついて来てもらえませんか?」


 俺は部屋の人を引っ張るようにして手に触れる。

 こうすることで、寄生型の魔物が体内に居ないか確認しているのだ。


 伯爵は何度も同じ台詞を言っては同行人を増やす。

 その数、合計21人。

 伯爵を除く上級貴族達だ。


 その内、寄生型の魔物が体内に居る上級貴族が4人。

 まだ症状が弱いのか、少し体調不良くらいだ。


 上級貴族が城にいた理由だが、今日は城で夜通し会議をしていたからだ。

 伯爵は病を理由に会議を欠席していた。


 ライラに来いと言われた人は「またか……」みたいな感じでついて来る。


 ライラは自由奔放なお姫様。

 自分勝手なお姫様だからこそ、この方法が通用する。

 ここまで伯爵の言った通りだ。


 最後に王様と王子2人、王女1人を巻き込む。


 王様ですら「またか……」と言い、王子や王女も「はぁ……」とため息。

 だがやはり素直について来てくれる。

 ついでに手を引く時に、体内の魔物の有無を探る。


 なんと王様と王子2人、合計3人に魔物が寄生していた。

 見た目は元気そうだが、理由はネックレスに加護が付いているのだろう。

 おそらく体調を万全にする加護だ。


 ……いやいや、不味いだろ。

 気がついた時には死ぬぞ。


 俺と伯爵の後ろには兵士や使用人、執事やメイドがぞろぞろついて来る。

 ここで暗殺者が居ないかも調べる。


 見つけた……暗殺者だ。


 寄生型の魔物を、服の中に隠してる執事とメイド。

 体内に寄生してないから、魔物の波動が伝わる。

 寄生型の魔物は分かるからな、間違いない。


 つまり、合計2人の暗殺者が釣れた。



◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 俺と伯爵は大勢を引き連れて広い空間にやって来た。

 パーティー会場のような場所だ。


 誰もが「何が始まるんだ?」とひそひそ話してる。


 俺と伯爵だけが少し階段を上がり、全員を見下ろす。


「皆様、お忙しい中、集まって下さり誠にありがとうございます。王様、王子様、王女様には、格別の感謝を申し上げます。まず、私からご報告がございます」


 ここで伯爵は言葉を切る。

 わざと間を空けて全員の表情を見ているのだ。


 表情をよく観察する為に、わざわざ皆より高い目線、階段を少し登ったところに俺と伯爵は居るのだ。


 皆は伯爵の気迫を感じてるのか、誰もが無言だ。

 誰もが緊張した表情をしている。


 ここで暗殺者は……動かないな。

 仕方ない、芝居の続きだ。


 俺と伯爵は目をあわせて頷き合う。


「私は、寄生型の魔物を5匹も盛られました。これが証拠です、よく見て下さい。もう既に犯人は分かってます」


 俺が土魔法で作った虫の模型。

 5匹分を瓶詰めにしてある。

 通常よりも大きく、分かりやすい見た目にしてある。


 全員の表情を確認。


 はい、見つけた。

 明らかに「バレた」みたいな表情をした2人。

 どちらも上級貴族だ。


 これは驚いた、暗殺者2人、黒幕の上級貴族2人。

 王様と王子の2人、上級貴族4人は魔物が寄生。

 どうやら危険な権力争いをしているようだ。


「犯人の正体については、後ほど王様に報告させてもらいます。ライラ姫のみ全てを知っております。犯人の方、暗殺者の方、覚悟して下さい」


 ここで俺は暗殺者のエサになる。

 さぁ、俺を殺しに来い。


 ――キンキンッ!


 はい、出ました。

 暗殺者得意のナイフ投げです。

 でも俺の骨体は無傷です。

 弾き返しました。


 ――ガスガスッ!


 瞬間的に俺は無詠唱の闇魔法で暗殺者2人の足をえぐる。

 即反撃、足潰し、我ながら素晴らしい手際の良さ。


「ぐわぁ!?」「つぅっ!?」


「暗殺者だ! 捕まえろ! 衛兵!」


「「「はっ!」」」


 伯爵、いい声を出してくれる。

 衛兵もいい仕事をしてくれる。

 暗殺者の確保、無事に完了だ。


「さて、ここからが本題でございます。ボーンさん、姿を見せて下さい」


「ああ、分かった」


 その場にいた大勢が驚愕した。

 ライラ姫が見知らぬ男に姿を変えたからだ。


「俺は伯爵の部下だ! 本物のライラ姫は安全な場所にいる!」


 誰もが唖然としている。


 ここですかさず伯爵の声が響き渡る。


「彼は冒険者ボーン! ユニークスキルで、姿をライラ姫に変化していたのです! さあ、ボーン! 黒幕の貴族と魔物に寄生されてる人物を教えてあげなさい!」


「貴族の黒幕はあの2人だ。魔物に寄生されてる貴族はあの4人。それと王様と王子2人にも魔物が寄生してる。ネックレスを外してみろ」


 衛兵は俺が指差した上級貴族2人を捕らえる。

 魔物に寄生された上級貴族4人は顔色が悪い。


 王様と王子2人は、俺の言葉を素直に聞いてネックレスを外した。

 するとすぐに体調不良であることに気が付いたようだ。


 王様と王子2人はすぐにでも治療が必要だ。


「では皆様、こちらをご覧ください! ボーンと私の娘ルチアーノが『王の墳墓』で発見した物になります! 全員で確認して下さい!」


 伯爵は魔法袋から初代国王の遺品と棺桶、それと仲間の棺桶を取り出した。


 少しずつ、全員が冷静になり始めた。

 誰もが意識を取り戻したかのように動く。


 棺桶を触って、棺桶を開けて、盾を見つける。

 現王様は初代王様の棺桶を開けて、中身を見る。

 初代王様と仲間たちの絵だ。


 見れば全てが分かる絵である。


 初代国王の想い、国の起源、先祖、誇り――。


 反応はそれぞれだが、皆が涙を流してる。


「ボーンさん、後始末は私だけでやります」


「ああ、分かった。だが伯爵はまだ病み上がりなんだ。無理しないでくれ」


「貴族の面倒事は全て私にお任せ下さい。全員との質問と話し合いが終わったら魔物に寄生された方々の治療をお願いできますか?」


「勿論だ、そこは俺に任せてくれ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る