骨37本目 王女誘拐事件

「なっ、なにしてるの……!?」


「このまま誘拐する。ルチャの友達なんだよな?」


「そうなの! 友達なの! 誘拐なんかダメなの!」


「大丈夫だ、俺は闇魔法を極めてる。記憶を消すなんてお手の物だ」


「なにが大丈夫なの!? ライラは王族なの!」


「王族だったのか……まぁ確かに、王族は面倒だが大丈夫だ。俺に任せておけ。貴族の誘拐は……昔やったことがある、と思う」


「な、は……馬鹿なの!?」


「ルチャの友達に危害を加えるつもりはないから大丈夫だ」


「ボーンは、どこか壊れてるの!」


「俺は壊れてない。このライラって娘がオークションに来た事を忘れるだけだ」


「わ、わたしはもう知らないの!」


 俺は誰からも見られないように馬車に乗る。


 気絶したライラと顔面蒼白のルチャもだ。


 執事さんは誘拐に気付いてない。

 完璧だ、素晴らしい手際の良さ。

 生前のスケベ男爵だった時にも同じような事をした、ような気がする。

 いや、してないかも……どっちでもいいか。


 ドラゴンの卵が手に入るのだ。

 多少の無理はしなくては。


 ……などと、自分を正当化してみたが完全に犯罪である。

 しかも王族の誘拐なんて、即死刑レベルだ。


 馬車の中で冷静になってきた。

 心が冷えてきた、熱くなりすぎてた。


 不味い……やってしまった。


 帰ったら伯爵に相談しよう。


 とりあえず謝ろう。

 うん、それしかない。


「ルチャ、冷静になってきた。俺はやってしまったかもしれない」


「どう考えてもやってしまったの」


「どうすればいい?」


「パパに全部話して皆で考えるの」


「ああ、そうだな……」



◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 馬車は進む。


 気まずい空気、無言、圧迫感。


 伯爵の見た目で重罪を犯した。

 罪は伯爵に向くだろう。

 本当に申し訳ない事をした。


 俺が伯爵のふりをして死刑にされればいいか。

 俺なら首を切られても死なないからな。


 そうだ、そうしよう。

 俺の首を切ってもらって、埋められたら復活しよう。

 うん、それしかないな。


 馬車は程なくしてルチャの屋敷に到着。


 ライラを見られないように抱えて、ルチャと伯爵の部屋に走る。


 俺は勢いよく扉を開けて謝る。


「すいませんでしたああああ!」


「パパ! ごめんなさいなの! ボーンがやってしまったの!」


「おかえりルチア。ボーンさんが何をやったんだい? ん、その荷物は?」


 俺はそっとローブの中身を伯爵に見せる。

 伯爵の顔から表情が消えた。


「どういう事か、説明してくれるかな?」



◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 俺はルチャとオークションに到着してからの事を全て報告する。


 熱くなって、ドラゴンの卵に目がくらんだ事。

 ライラにムカついて、体が勝手に動いた事。

 伯爵の姿で、重罪を犯してしまった事を伝えた。


 ひたすら謝る……が、伯爵は何かを考えてる。


 そうだ、俺がスケルトンだと話そう。

 魔物に騙されてた事にしてもらおう。

 事実そうなのだ、それしかない。


「実は俺は――」


「はは……なんという僥倖」


「……は?」


「ボーンさん、こんな事をしたからには、最後まで協力してくれますよね?」


「え、あ、はい、なんでも協力します」


「ルチアも反省してるね? 協力してくれるかい?」


「反省してるの。協力するの」


「じゃあ、今から作戦を話すよ。まずは――」


 語られた伯爵の作戦は簡単だ。


 俺がライラに変身する。

 伯爵と2人で城に入る。

 貴族に棺桶と初代国王の遺品を見せる。


 それだけで、今起こっている貴族の権力争いに終止符が打てるんだとか。


 まるで意味が分からない。

 だが、思いのままに動くライラというのは最強の武器になるらしい。


 本物のライラにはここで寝ていてもらう。

 ライラの監視と、起きた場合の拘束をルチャが担当する。


「うん分かったの。ライラが急に気絶したから、家に連れてきたって事にするの。今日はお泊まりしてってわたしが可愛くお願いすればライラなんて楽勝なの」


「くれぐれも頼んだよルチア。ではボーンさん、ライラ姫に変身してください」


「あ、ああ……っと、どうだ?」


 俺はドレスを身に纏ったライラに擬態した。


「完璧です」



◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 俺は伯爵と2人で地下に行く。


 地下に保管してある棺桶を魔法袋に詰める為だ。


「もしかしたら、ボーンさんをライラ姫だと勘違いして暗殺を企てる輩が出るかもしれません。その時は殺さないで、無力化だけしてもらえませんか?」


「分かった。暗殺者のレベルにもよるが、出来るだけ無力化して捕まえよう」


「それと声でバレる可能性があるので、誰とも話さないで下さいね」


「全部、伯爵の指示に従うよ」


 俺と伯爵は魔法袋に棺桶を詰め終わった。


 魔法袋は伯爵が持つ。


 伯爵は城に行く為に着替えると言って自室に戻った。


 伯爵の準備が終わるまでの間に俺はルチャから化粧をしてもらう。

 ライラが付けていたのと同じ香水も振りかける。


「完璧なの。どう見てもライラなの」


「そうか? 歩き方には気をつけないとな」


 ルチャと話していると伯爵がやってきた。


「ではボーンさん、いえ、ライラ姫。城までご案内いたします」


「ええ、伯爵様。よろしくお願いしますわ」


「そんなキャラじゃないの」


「そんなキャラじゃないですね」


「冗談だよ、もう喋らないから安心してくれ」


 ルチャにライラを頼み、俺と伯爵は馬車に乗って城に向かう。


 馬車の中で伯爵から詳しく作戦を伝えられる。


 さて、貴族相手に戦争開始だな。

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