骨19本目 訳ありのルチャ

 ルチャと一緒に食堂に戻ると店の奥にある個室に入った。

 ここなら静かに話せそうだ。


 ルチャと向かい合って座る。


「ルチャ、訳ありなんだろ? 話してくれ」


「うん」


 とは言ったものの、ルチャはなかなか話を切り出さない。

 何から話そうか迷ってる感じだ。

 俺は黙ってルチャの言葉を待つ。


「わたしは可愛くてモテるの」


 長い沈黙を経て、ルチャの重い口から意味不明な言葉が飛び出した。

 ……いや、意味は分かるんだが、今言うことではないような?


「私はパーティーメンバーの募集をしてたの」


 あ、このまま話は続く流れか。

 途中で話を折るのもなんだし最後まで聞いてみるか。


「でも、近付いてくるのは下心いっぱいの男の人ばっかり。嫌気が差してたの」


 あー、だから会った時は不機嫌だったのか。


「ボーンもそんな男の人たちと同じと思ったの。でも違ったの」


 いや、思うなよ。

 ナンパ男だと疑われる身にもなれよ。


「それに強かったの」


 まあ、今のルチャよりは強いな。


「わたしには事情があるの。だからボーンをパーティーメンバーにするの」


 言いたいことを言い終わるとルチャは再び黙った。

 とりあえずルチャがとてつもない口下手なのはよく分かった。


「事情は話してくれないのか? 話せないなら俺も協力できないんだが」


「……どうしても、聞きたいの?」


「俺もできればルチャを助けたいんだ。言い辛いかもしれないが話してくれ」


「うーん……」


 俺の言葉にルチャは悩んでいるみたいだ。

 こうなれば後はルチャ次第だ。


「……うん、分かった。話す」


 どうやらルチャは話す気になったようだ。

 ルチャは、口下手ながらに一生懸命話してくれた。


 ルチャが行きたいダンジョンは『王の墳墓』


 そこは高難易度で未攻略のアンデッドダンジョン。


 ルチャが欲しいのは王の亡骸とともに埋葬されたと言う伝説の『王の杖』だ。


 万能薬『天使の雫』を手に入れるためにどうしても必要なんだとか。


 王の杖が欲しい人がいて、その人が万能薬と交換してくれるそうだ。


 万能薬は病気の父親の為に必要らしい。


「なるほど、病気の父親の為か。事情は分かった。その杖と交換なら確実に万能薬が手に入るんだな?」


「それは多分、としか言えないの」


「多分、か。杖と交換したいって言ってるのは誰なんだ? 騙されてないか?」


「騙されてる可能性はある……けど、他に方法がないの。その人は貴族で、その、他国出身のボーンにその人の事を言っちゃうと、法律違反になっちゃうの」


「え、そんな法律があるのか。じゃあ貴族についての質問はやめておこう」


「うん、ごめんね」


「法律なら仕方ないさ」


「うん、ありがと」


「まずダンジョンに行ってみるか。攻略難易度を確認してから作戦を立てよう」


「うん、そうするの」


「じゃあ他のパーティーメンバーを紹介してくれ。全員の能力を把握したい」


「……パーティーメンバーは、わたしだけ、なの」


「……おいおい、話が違うじゃないか」


「ごめんなさい、ちょっと、嘘ついてたの」


 こいつ……なかなかいい性格をしてるじゃないか。


 肝心なところははぐらかすし、目的の為なら手段を選ばない雰囲気もある。


 ある意味で熱い冒険者だ、嫌いじゃない。


「アンデッド系の魔物は、お墓や戦争跡地がダンジョンになった場所に溢れるの」


「それくらい知ってる」


「お墓は暗い、アンデッドは不気味、普通の魔物より怖いの」


「そうだな」


「だから人気が無いの。冒険者達は報酬が良い人気のダンジョンに行くの」


「そうだろうな」


「あのね、人の気配が無い、人からウケない、人の気にしない場所、をかけて、人気が無いって言うの」


「分かっているが?」


「今の笑うところなの」


「そうなの」


「だから面接にまともな冒険者は来なかったの」


「残念なの」


「それに女の人は1人も面接に来てくれなかったの」


「そうなのか」


「だからわたしとボーンで頑張るしかないの」


「分かった」


 このままルチャと話してても無駄に時間が過ぎる気がする。

 まずはダンジョンに行く事にしよう。


「じゃあダンジョンに案内するの。ついて来て」


 ルチャの父親の為だ。

 俺がソロで伝説の杖とやらを取ってこよう。

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