骨20本目 王の墳墓

 冒険者ギルドを出て、魔族国の街を歩く。

 勿論、ルチャに案内されながらだ。


 魔族国の人口と種族の多さには呆れるばかりだ。

 通行人のほとんどが冒険者、熱気も活気もある。

 そして非常に賑わってる。


 ここが時代の最先端、冒険者の国、魔族国。


 もう最高だ、この空気感、たまらない。

 俺の新たな冒険者としての人生が始まる。

 そんな予感がする。


 さて、街を見渡して興奮してる訳だが、俺は気になる事が沢山ある。

 ルチャに教えてもらいながら歩こう。


「どうして街中に魔物が居るんだ?」


「あれは荷物を運ぶ荷物トカゲなの。魔物じゃないの」


「空を飛んでる人達の種族は?」


「人間なの」


「人間だって? 羽や翼や尻尾や鱗があるのに?」


「頭にツノが魔族、耳長がエルフ、頭の上に耳が獣人族なの」


「え? じゃあそれ以外はどうなるんだ?」


「他は何があっても人族なの」


「種族の定義はツノと耳? 4種族だけなのか?」


「そうなの、4種族で法律が分けられてるの」


「なるほど、じゃあ法律は厳しそうだな」


「外国との貿易や平和条約がある以上、厳しくしないといけないの」


「それはそうか、納得だ。じゃあ例えばだが……もし言葉が通じるスケルトンが居たら、それは人間になるのか?」


「スケルトンは冒険者が退治するの」


「じゃあ魔物が人間に擬態して街に入った場合は?」


「魔物は冒険者が狩るの」


 うーむ……やはりどこまでいっても、魔物は魔物。

 スケルトンも当然、魔物なのである。


 魔物を狩るのは冒険者として当たり前の行動だ。

 もう俺は受け入れたから大丈夫。

 俺の心が骨粉になる事は無い。


「あ、テイマーが従属化してる魔物ならどうなる?」


「そんな冒険者は居ないの」


「居ないだと? テイマーはかっこいいだろ?」


「え……? ボーンはすごい田舎の出身なの」


「じゃあ召喚された召喚獣ならどうだ?」


「街に連れて来ないの」


 それからしばらく、ルチャにしつこく質問してたら謎が解けた。


 テイマーの従属魔法は、従属させる時に魔物を屈伏させる必要がある。

 魔物を屈伏させて従属魔法を掛ける。

 つまり、自分より格下の魔物を従える魔法という事だ。


 それは自分より弱い魔物を引き連れて歩く事になり、ダサい行為らしい。


 召喚魔法も、同じ理由でダサいんだとか。


 ガキ大将がイキってる、とか言う状態らしい。


 生前は毛並みの良い狼の魔物を連れてるだけで注目の的だったのに。

 小さいドラゴンなんかを連れてたら「素敵! 抱いて!」だったのに。


 今の時代では「ダサい」か。

 分かってないな、俺がその常識を覆してやる。


「ルチャ、俺がスカルドラゴンを従属化してたらどうだ? 凄いだろ?」


「滅魔光線されるの」


「黒いブラックスカルドラゴンだったら?」


「怖い」


「かっこいいと思わないか?」


「ダサい」


「そんな考えがダサいと思うがな!」


「古い」


「古くない! まさに最先端だ!」


「頑張ってなの」


「ありがとう」


「うん」


 どうやら俺が常識を覆すのは大変そうだ。

 従属化した魔物は人に秘密で飼おう。



◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 俺たちは会話しながら歩いた。


 それはもう、長い距離を足速に歩いた。

 歩いてる間にルチャと少しだけ仲良くなれたと思う。


 街を抜け、巨大な門を通り、森に出る。


 街の近くの森は、冒険者達によって魔物が狩り尽くされている。

 そのため、静かで平和な森だった。


 木々の間隔も広く、歩きやすい。


 森をしばらく進むと、崖に到着。


 崖には穴が開いている。

 穴の入口には門番が居て、古い洞窟にも見える。


 どうやら『王の墳墓』に到着したらしい。


 門番にルチャがサッとギルドカードを見せる。


「この人はわたしのパーティーメンバーなの」


「かしこまりました」


 そんな会話をルチャと門番がした。


 俺は見逃さなかった。


 ルチャのギルドカードが白銀に輝いていた事を。


 大きく『Sランク』と書かれていた事を。


 確か今の時代、Sランクは貴族専用だった筈だ。

 つまりルチャは貴族、これはきな臭くなってきた。

 モヤモヤするのも嫌なので、単刀直入に聞く。


「ルチャは貴族だったんだな。どうして教えてくれなかったんだ?」


「もし、仮にわたしが貴族だったとして、それをわたしがボーンに言った時点で、わたしは貴族の身でありながら貴族の権力を見せた法律違反をした事になるの。仮に、わたしが魔族国の伯爵の娘で、可愛いお嬢様で、病気の伯爵を助けようとしてて、その為に、王族の人と交渉した、なんて言ったら、色々と大変な法律違反なの。だから、わたしからは、ボーンに何も言えないの」


「俺は何も見てないし、何も聞いてない。事情も知らない……ということだな」


「うん……ありがとう」


 なるほど、ルチャの事情ってやつが分かった気がする。

 こんな丁寧に教えてくれたからな。


 王の墳墓、伝説の王の杖、か。

 取り引き相手が王族なら納得だ。

 ここまで聞いたら後に引けないよな。


 ダンジョン攻略、やってやりますか!



◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 さて、ダンジョン内部は暗い。

 

 俺はスケルトン視点だからばっちり見えてるけど、もう少し暗くなったらルチャには明かりが必要になるな。


 壁や天井は土が剥き出しで、通路は狭い。

 これは迷路っぽくなってる可能性が高いな。

 階層の数が多そうだ。


 とりあえずは一本道、無言でルチャと奥に進む。


 そして出会ったスケルトン。


 おお、大きいし、角がある。

 骨体の形が違う。


 これは面白い、大陸によってスケルトンの姿が変わるのか。

 新たな発見をした気分だ。


 俺は骨剣で頭蓋骨を割り、普通に討伐する。

 やはり最弱のスケルトン、弱すぎる。

 一撃で骨粉になった。


 ここで問題が起きる。

 俺はこの骨粉を吸収したい。

 たとえ上昇値1でも骨密度を上げたい。


 しかし、ルチャになんて説明するべきかが問題だ。


 うーん……ユニークスキルだ、と言い張るくらいしか思い付かないな。


「なあルチャ、このスケルトンの死体……骨粉は普段はどうしてるんだ?」


「放置なの」


「つまり、ゴミ、だよな? 俺が掃除していいか?」


「うん」


 俺は指先を針状にし、骨粉に突き刺す。

 そして一瞬で吸収する。


 ルチャの表情は「ギョッ!?」って顔になってるな。


「これが俺のユニークスキルだ!」


 俺がそう言うとルチャの瞳に好奇心の色が宿った。


「ユニークスキル持ちって本当だったの? どんなスキルなの? もしかしてソロでアンデッドダンジョンを攻略した事があるって本当なの?」


 おお、初めてルチャが熱心に話してくれた。

 感動だ、それに早口で声も大きい。


 いつもそうやって話してくれよ。


「ああ、本当だぞ。俺のユニークスキルは全てを話す事はできないが、こんな風に骨粉を吸収する事ができるんだ」


「凄いの」


「そう、全てはユニークスキルのお陰だ!」


「羨ましいの」


「だから俺が変な行動をしたり、指が伸びたり、翼が生えたり、巨大化したり、変形したり、武器を作ったりしても、全てはユニークなスキルのお陰だぞ!」


「え?」


「そう、ユニークスキルは色々とできるのだ!」


「……う、うん」


 ルチャも納得してくれたみたいだ。

 それじゃどんどん先に進むぞ!

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