骨18本目 水色髪のルチャ
俺はもう長い時間、相談受付に立っている。
パーティーを紹介してくれるギルド職員が奥に行ったまま帰ってこないからだ。
待ってる間に受付や掲示板の場所を覚える。
冒険者たちの会話に聞き耳も立てる。
今日はどうだったとか、明日はどうだとか、報酬の分配で揉めてたりする。
冒険者らしい会話をしていて、非常に羨ましい。
いつの時代も、冒険者は同じような会話をするんだな。
熱い冒険者はいつまでも変わらないようだ。
俺はこの空気感が好きだ。
ひどく懐かしくもあり、魅力的だ。
「おう、待たせたな、結果から言うとだな」
やっと戻ってきたか。
早く結果を教えてくれ、わくわくしてるんだ。
「残念ながら条件に合うパーティーは無かった。行先と希望を変えてくれるか?」
「は? 希望はアンデッド討伐なんだが……まさか、この大陸にはアンデッド系の魔物が存在しないのか?」
「いやいや、アンデッドは居るぞ。でもな、アンデッド系の魔物は報酬が少ないし、人気が無いんだ。どうしてもアンデッド討伐が希望か?」
「そうだ、俺はアンデッドがいいんだ」
「うーん、そうだなぁ……じゃあ面接、受けるか?」
「面接?」
受付の男性から紙を貰う。
紙には「アンデッドダンジョン攻略メンバー求む」と書いてある。
なんだ、俺にぴったりじゃないか。
だが次に「聖魔法が使える事が条件」「女性希望」の文字が書いてあった。
なるほど、俺は条件に合わない訳だ。
しかし、最後に「希望者は面接します」と書いてある。
「なるほどな、話は分かった。面接を受けたい。どうすればいい?」
「じゃあ俺について来てくれ」
そう言うと男性は受付から出てきた。
そのまま男性に案内され、食堂へ。
ギルド内にある食堂だ。
大勢の冒険者で賑わってる。
「あの角のある青髪の冒険者だ。名前はルチャだ。面接に来たって言えばいいぞ。面接がダメだったらまた相談受付に来てくれ」
男性はそう言うと去って行った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ふう……さて、パーティー面接か。
久しぶりすぎて緊張する。
だが経験はあるから大丈夫だろう。
それに最先端の冒険者と会話する貴重な機会だ。
面接がダメだったとしても、会話から情報を得よう。
俺はルチャという冒険者の前に立つ。
青髪と言うより、水色の髪だな。
それに小さな2本の角がある、魔族だろう。
年齢はセーラと同じくらいだろうか。
可愛らしい女の子だ。
ルチャは目を閉じて、腕を組んで、何故だか眠そうだ。
食堂なのに何も注文してないみたいだし。
とりあえず話しかけよう。
俺は対面の椅子に座る。
「いきなりすまない、ルチャ、だよな? 今いいか?」
「なに?」
これは不機嫌だな。
いきなり睨まれるとは思わなかった。
しかも意外と声小さいな。
「相談受付で面接をしてくれると聞いた。面接してくれないか?」
「却下」
「そうか、分かった。無理を言ってすまなかったな」
俺はさっさと席を立つ。
不機嫌そうだし、会話は悪手だろう。
相談受付でダンジョンの場所を聞こう。
「あ」
しばらくソロで活動することになるが、そのうち魔族国にも慣れるだろう。
分からない事は相談受付で聞けばいいし。
パーティーもそのうち見つかる筈だ。
「あの」
とりあえず1人でレベル上げだな。
アンデッドダンジョンが不人気なのは好都合だ。
自分を鍛える機会だと思おう。
「あの……」
肩を掴まれた。
振り返るとルチャだった。
「なんだ? どうかしたか?」
「面接する」
「いや、もう面接はしなくていい。俺はソロで活動すると今決めたからな」
「面接するの」
「いや、だから、もう大丈夫だって」
「ついて来て」
ああ、人の話を聞かない系か。
ちょっと面倒なタイプだな。
とりあえず無視しよう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
俺は相談受付に戻った。
食堂に案内してくれた男性が受付にいる。
早速、アンデッドダンジョンの場所を聞こう。
「さっきは案内してくれてありがとう。面接はダメだった。相手にされなかった」
「……あー、その、ルチャが後ろに居るぞ?」
俺は驚いて振り返る。
確かにルチャが後ろに居た。
俺の魔力感知と気配察知を掻い潜ってきたのか。
なかなかやるな。
「面接する」
なかなかしつこいな。
ここは断っておこう。
「ルチャ、さっきも言ったが俺はソロで活動するから面接はしなくていいんだ」
「面接するの」
さて困った。
受付の男性も俺と同じ心境だろう。
同じように苦笑いしてるからな。
「分かったよ、じゃあ面接してくれ。食堂に戻るか?」
「ついて来て」
仕方ない、ついて行こう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ルチャと2人で冒険者ギルドを出る。
到着した場所は……冒険者の訓練場のようだ。
大勢の冒険者が走ったり、鍛錬している。
ここも桁違いに広いな。
冒険者にとって恵まれた環境だ。
ルチャは俺に訓練場にある剣を渡してきた。
そして彼女も剣を構える。
どうやら面接とは『模擬戦』のようだ。
昔からある面接方法だな。
互いの実力を確かめられる、これ以上の面接方法は無いよな。
俺も剣を構える。
「模擬戦は女性が先手だ。面接、よろしく頼む」
「うん」
ルチャが俺に斬りかかってくる。
なんと言うか、剣圧や覇気が無い。
おそらく、ルチャは剣術は素人だ。
はっきり言って弱い。
何度も何度も剣を撃ち合うが、余裕で捌ける。
何がしたいのか分からない。
体捌きが素人に近い。
あ、ルチャは魔法系か、小声で詠唱してる。
それなら魔法を受けておこう。
ルチャの実力を確かめよう。
――ゴウッ!
お、火魔法か、なかなかの火力だ。
動きながらの短い詠唱でこの威力なら悪くない。
――ボボボボボボボッ!
なるほど、火魔法の連弾も出来るのか。
魔法については上級者だな。
「なんで」
驚くのも無理はない。
俺は火属性のスケルトンでもあるのだ。
火魔法に対しては完全耐性に近い体なのだ。
「俺に火魔法は効かない。他の属性魔法を試してみろ」
それからルチャは、火、水、風、土、闇の魔法を見せてくれた。
雷、氷、光、聖、回復などの属性は使えないようだ。
さて、このまま倒してもいいが……。
「まいったの」
「お、そうか、お疲れ様、面接ありがとう」
これにて模擬戦は終了だ。
ルチャのレベルがよく分かった。
これならソロの方が良い。
今のルチャではワイト相手が精々だろう。
「合格」
「……は?」
「合格なの」
「いや、すまないが、ルチャのレベルじゃ」
「うん」
「実力差は分かってるのか、じゃあすまないが」
「名前」
「……俺の名前はボーンだ」
「わたしはルチャ、よろしくなの」
「あのな、俺はソロでダンジョンに行こうと思っ――」
そこまで言って考えてみる。
俺を逃がそうとしない雰囲気。
最初に食堂で会った時とは違う表情。
冒険者としての勘と経験から分かる。
これは『訳あり』ってやつだ。
「ルチャ、話を聞かせてくれるか?」
「うん」
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