骨14本目 未来の王都

「この街から王都までどのくらいかかるんだ?」


「金貨1枚ですけど……あたしもついて行ったらダメですかー?」


「いや違う、そうじゃない。金なら俺がいくらでも払ってやる。あのな、俺は馬車の料金を聞いたんじゃない。どれだけ時間がかかるか聞いたんだ。何日も家を留守にしたらお母さんが心配するだろう?」


「……は?」


「え? 何かおかしな事を言ったか?」


 しばらくするとセーラが爆笑し始めた。

 それはもう盛大に笑った。

 ギルド中に響き渡るほどに笑ったのだ。


「すまない、何がおかしかったんだ……?」


「ひー、ひー、あー笑った! ボーンさんって、田舎の出身なんですか?」


「出身は王都……だったと思うが」


「じゃあネタですね!? 流石ボーンさん!」


 うん、意味がわからない。

 会話が成立していない。

 どこに笑いのツボがあったんだ。

 我が子孫は変わった女の子だ。


 それからセーラは受付で依頼を受ける手続きをした。


 買い物リストは受付で貰ったようだ。

 費用は後払いらしく「領収書は忘れないようにしましょー!」と言われた。

 領収書か、確かに貰うのを忘れがちだな。


「とりあえず、ついて来てくださーい!」


 セーラは自信満々なので、俺は無言でついて行くことにした。



◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 ギルドから歩いてすぐの場所。


 大きな神殿のような石造りの建物に入る。


 神殿内の地面には巨大な魔法陣がある。

 だだっ広い、不思議な空間だ。


「なんだ、ここは……?」


「転移場ですよー! あはは、ボーンさん、やっぱり田舎出身なんですねー!」


「転移場って……何?」


「転移する場所ですけど?」


「詳しく教えてくれ」


「詳しくも何も、お金を払って転移する場所ですよ! 料金は金貨1枚です!」


「分かった、ほら、金貨1枚」


 セーラは俺から金貨を受け取った。

 そのまま従業員の元に行く。


「王都までお願いしまーす!」


 セーラがそう言うと従業員は手のひらサイズの玉と金貨を交換した。

 どうやらあの玉が金貨1枚するようだ。


 俺はもしかして……という気持ちを隠しきれない。

 ソワソワしてきた。

 まさか、そんな、嘘だろ。


 セーラが俺の手を引いて、魔法陣の上に立つ。

 そして玉に魔力を込める。


 ――バシュン。


 次の瞬間。

 目の前には今までと違う光景が広がっている。

 人が大勢、賑わってる。


 やはり、そうだったか。


 古代魔法『転移』の魔法陣が存在するとは。


 しかもこんな風に普及しているとは。


 驚愕の事実だ、時代は変わったんだな。


 まさかこんな時代になってるとは思いもしなかった。

 この魔法陣を作ったやつは天才だ。

 凄すぎる、これぞ古代魔法革命だ。


「はい、王都に着きましたよー!……ってボーンさん、大丈夫ですかー?」


「大丈夫だ。少し、驚いただけだ。昔ダンジョンで転移罠を踏んだ事はあったが、まさか転移をこんな風に体験するとは思わなくてな……」


「なんか、古い人発言ですね! あはは、ボーンさんのネタは面白いですね! あ、早く依頼を達成して買い物に行きましょー!」


「ああ、そうだな! よし、行こう! 案内してくれ!」


 セーラは転移の玉を王都側で返却。

 どうやら玉は返さないといけないようだ。


 外に出てセーラに案内されながら王都を歩く。


 人が多い事にも驚いたが、もっと驚くべきは人種だ。

 獣人、エルフ、ドワーフ、リザードマン、魔族など。

 どうやらこの時代では人種差別は無いようだ。


 昔は奴隷だった彼らは、今や人間と変わらない生活をしているようだ。


 素晴らしい。

 人種差別の無い時代になっているのだな。

 感動して震えてきた。


「なぁセーラ、人族至上主義なんてのは、もう無いんだな?」


「人族至上主義なんて、そんな地域があるんですか?」


「奴隷制度はどうなってるんだ?」


「奴隷制度なんて昔の事すぎて、わかりません!」


「はは、最高だな。なんだか救われた気がするよ」


「え、あ、はい?」


「あれ、まてよ……じゃあ、犯罪者はどんな扱いになるんだ?」


「犯罪者は過酷な労働を何年かするとか……あ、死刑じゃないですかー?」


 なるほど死刑か、単純かつ明解だな。

 現在では犯罪者は少ないらしく、平和な時代らしい。

 こんな時代になって良かったよな。


 はあ、俺はどんだけ古い人間なんだ。

 時代に乗り遅れた。


 いや、スケルトンだからセーフだ。

 時代の波にはこれから乗ればいい。


「セーラ、小遣いをやろう」


 俺は金貨を数枚セーラに渡した。

 買い物はセーラに任せる事にした。


「これで依頼の買い物をして、残った分は好きに使っていいぞ!」


「やったー! ボーンさん、ありがとうございます!」


 少しはご先祖さまらしいところを見せてやろう。


 ……ふっ、嘘だ、とても俺に王都は対応しきれないのだ。

 ここはセーラに任せるのが最適だ。


 俺はずっとセーラの後をついて歩く。


 どこに行っても人、人、人。

 馬車なんて見かけない。

 不思議な光景だ。


 俺はどうやら、未来に来たようだ。

 いや事実、そうなんだが。

 変化を受け入れるのは大変なのだ。


 売ってる商品は見た事がない物ばかり。

 食べ物も溢れてる。

 豊かになったんだな。


 俺みたいな古い人間は苦労しそうだ。

 セーラについて行くだけで精一杯である。

 だが、歩いてるだけで楽しい。

 迷子にならないか不安だ。


 王都でスケルトンの迷子とか……笑えない。


 ちなみにセーラは魔法袋について「便利、ヤバい、凄い」と連呼する。


 魔法袋の再現はこの時代であっても未達成なんだとか。


 現在、魔法袋の価値は計り知れないレベルだと言う。

 これは教えてもらえて良かった。

 知らなかったら魔法袋の価値を見誤ってたからな。


「あ、そうだ。セーラに聞きたいことがあるんだ」


「なんですかー?」


 俺はセーラに疑問をぶつけてみることにした。


「セーラは従属魔法と召喚魔法で使う魔法陣について詳しいか?」


「え、そんな古い魔法は知りませんよー。本屋に行って資料を探してみます?」


 マジか……。

 どっちも古い魔法に分類されるんだな。


「そうだな、本屋で資料を集めるか。最後でいいから本屋に連れて行ってくれ」


「はーい!」


 返事が良い、元気な子孫である。


 それからセーラは依頼の買い物を済ませた。

 香辛料と果物、食材関係が多かった。


 依頼の買い物が終わり、雑貨屋にきた。

 鏡や家具、布製品がある店だ。

 セーラは部屋の模様替えがしたいとかで、色々と買いたい物があったらしい。


 部屋の模様替えねぇ……若者らしいな。

 冒険者なんだから武器とか装備を買えばいいのに。


 セーラと仲間たちは、冒険者の仕事は小遣い稼ぎでやってるだけと言う。

 命を賭けるなんてありえないそうだ。


 もう何度目か分からないが、やっぱり思う。


「時代は変わったなぁ」


「あ、ボーンさん今着ている服装ヤバいですよねー! 服屋に行きましょう!」


「ははは、そうだな。じゃあお願いするよ」


 どうやら俺は服装からして時代に乗り遅れてるようだ。

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