骨13本目 冒険者ボーン誕生

 セーラ家の夕食の時間。


 俺は自分が水も食事も睡眠もいらないことに悩んでいた。

 これって人間としては明らかにおかしいよなぁ。


 寝たふりはできるが、食事は食べないといけない。

 普通の人間らしく、普通に行動しなければ。

 俺の子孫だからこそスケルトンだとバレたくない。


 目の前にはシチューが用意されている。

 ステーキ、パン、野菜、果物……色々ある。

 セーラの母親が張り切って用意したのだろう。


「さあ、どうぞ。遠慮しないで食べてください」


「あ、はい……い、いただきます」


 ユニークスキル『全骨統』よ!

 人間の体に、完璧に擬態してくれ!

 イメージはあるんだ!

 頼むぞ!


 いざ、実食!


「あ、普通に美味しい……!」


「でしょー! お母さんは料理上手なんですよー!」


「ふふふ、セーラったら、照れるわよ」


 ま、まさか普通に食事を味わう事ができるとは思わなかった。

 流石はユニークスキルである。

 万能で最高級だ。


 しかし、食べた物がどうなるのか不安で仕方ない。

 消化されずに排出されるんだろうか?


 ……でもまあ、これで疑われずに済むので一安心だ。


 そう言えば食事中にセーラの父親の話が出てきた。

 セーラの父親は王都で文官の仕事をしているらしい。

 数日後には帰ってくるんだとか。


 父親は子孫じゃないし、別に会わなくてもいいかな。

 だが親戚にはなるんだよな。

 うーん……ま、会ったら会ったでいいか。

 財宝を渡せば喜んでくれるだろう。


 財宝についてだが、2人とも財宝は少しだけでいいとの事だ。

 2人合わせて杖を2本、服を少々、宝石多めくらいしか受け取らなかった。


 我が子孫ながら感心する。


 俺なら根こそぎ「ありがとう!」って言いながら貰いそうだ。


 とりあえずセーラには冒険者として持つべき容量の多い魔法袋をあげた。

 セーラの母親にはアクセサリーをプレゼントした。


 2人はとても喜んでくれて、俺も嬉しかった。

 良かった良かった。



◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 夜は案内された客室で1人だ。


 眠る必要の無い骨体なので暇である。


 暇潰しに魔法袋の中身を整頓したり、財宝をじっくり眺めたりした。


 だが、1人だと味気ない。

 数時間もすれば飽きてしまう。


 財宝の中には魔導書もあった。

 魔法について詳しく書かれた書物だ。


 俺は生前、こういった難しい本が嫌いだった。

 と言うより、勉強が苦手だったのだ。

 それに魔法は感覚的に使えてたし、慣れた魔法しか使わなかった。


 だがスケルトンになった今こそ、人間の魔法をちゃんと勉強しようと思う。

 とりあえず『従属魔法』と『召喚魔法』で使う魔法陣について学ぼう。


 従属魔法……素晴らしい響きだ。

 昔からかっこいいと思ってたのだ。

 魔物を従える冒険者、ロマンがある。


 召喚魔法……イケメンが使う魔法だ。

 多くの魔法陣を扱う学問の魔法。

 この魔法が使えるだけでモテるからな。


 俺は暗闇でも文字が読める。

 便利な体になったものだ。


 ベッドに横になり、ダラダラと本を読む。

 とにかく何度も暗記するまで読む。


 本を読むのに飽きたら魔法陣を空中に描く練習する。

 事故が起きないように、魔力は込めない。


 そんなことをしていたら、ようやく空が明るくなってきた。


「……これからは寝る練習もしよう」


 きっと眠れるようになる筈だ。

 完璧な人間擬態をすれば可能だろう。


 お、廊下にセーラの母親の気配がする。


 俺は部屋を出て「おはようございます!」と元気よく挨拶して、冒険者ギルドに行くと伝える。


 うむ、我ながら人間らしい言動だ。


「朝早くから元気ねぇ……」


 そんなセーラの母親の言葉はスルーだ。


 さっさと冒険者ギルドに行こう。



◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 冒険者ギルドに到着。


 まだ早朝なので、ギルド内に人は少ない。

 きっと今から冒険者が沢山集まるのだろう。

 この朝の乾いた空気、懐かしいな。


 さて、受付で冒険者登録をしよう。


「おはようございます。本日のご用件は?」


 受付嬢ではない、おっさんだ。

 きっと夜勤のギルド職員だろう。

 まだ早朝だからな。


「冒険者登録をしたいんだが」


「では登録用紙に必要事項を記入して下さい」


 お決まりの手順だな。

 俺は紙を受け取り、必要事項とやらを確認する。


 名前、年齢、性別、出身地、死んだ時の連絡先。

 使える魔法の属性、身に付ける武器。

 希望するランク。


 ボーン、25歳、男、ヨーセンの街出身、死んだ時はセーラに連絡でいいか。

 使える魔法は火、土、闇属性。

 武器は片手剣、だな。


 この希望するランクって……なんだ?

 冒険者はランク上げをする職業だろ?

 とりあえず空白でいいか。


 俺は渡された紙に必要事項を記入して受付へ。


「はい、確認します……希望ランクが空白ですが、ランクはどうしますか?」


「すまない、俺は冒険者登録が初めてなんだ。ランクについて教えてほしい」


「そうでしたか。貴方は人族なので……こちらです」


 受付のおっさんに渡された紙を見て驚愕した。


「なっ、なんだと……!?」


 なんと冒険者ランクを選べるのだ。

 しかも高ランクほど登録料が高額。

 身分証としての価値も上がる仕組み。


 Fランク:15歳未満専用。

 登録料:銅貨5枚、依頼はFランク専用のみ可。


 Eランク:住所がある街専用。

 登録料:銅貨10枚、住所がある街の依頼のみ可。


 Dランク:住所がある領地専用。

 登録料:銀貨1枚、住所がある領地の依頼のみ可。


 Cランク:住所がある国専用。

 登録料:銀貨10枚、住所がある国の依頼のみ可。


 Bランク:他国でも適用される身分証。

 登録料:金貨1枚、他国でも依頼が受けられる。


 Aランク:他国と魔族国で適用される身分証。

 登録料:金貨10枚、魔族国でも依頼が受けられる。


 Sランク:どこでも身分証になる、貴族専用。

 登録料:金貨100枚、どこでも依頼が受けられる。


「お、おいおい、なんだよ、これは……」


「あの、ランクはどうしますか?」


「あー、うん、そうだな……この、Sランクはダメか? 俺は貴族じゃないが」


「Sランクは貴族様専用になります。申し訳ありませんが、ダメですね」


「そうか……じゃあ、Aランクで登録を頼む」


「はい、金貨10枚になります」


 受付のおっさんに金貨10枚を渡す。

 ダンジョンで手に入れた金貨だが、そのまま使えた。

 少し待つように言われたので、大人しく待つ。


 しばらくすると、冒険者カードを貰えた。

 キラキラと黄金色に輝く金属製のカードだ。

 カードには大きくAランクの文字が書いてある。

 このカードは身分証にもなるらしい。


「では、これで冒険者登録は完了です」


「え? これで終わり?」

 

 随分と簡単な登録だった。


 昔は模擬戦で武力測定、魔道具による魔力測定があったもんだ。

 時代とともに失われてしまったんだな。


 ただ文字を書いて金を払うだけで高ランク冒険者になれるとは。

 いや、これは金で身分証を買ったようなもんだな。

 なんだか悲しくなってきた。


「ではボーンさん。ギルドの決まりについてはこの紙を読んで下さい」


「わ、分かった」


 ギルドの注意事項すら説明してもらえないのか。

 適当になったもんだ。


 今の時代、冒険者って職業は人気が無いのかもな。

 少し寂しい気分だ。


 早速、冒険者ギルドの決まりとやらを読んでみる。


 法律に従う事、ギルドの強制依頼に従う事、冒険者同士で争わない事。


 誰がどう考えても常識的で、当たり前の事ばかりが書かれていた。


 そうだ、時代は変わったのだ。


 冒険者は緩くなった。

 冒険者とはもっと楽しくて熱い職業だったのに。

 仕事に就くなら冒険者しか考えられないほどに。


 時代の流れは残酷だ。


 まあいいか、Aランク冒険者になれたんだし。


 とりあえず依頼を受けてみよう。



◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 依頼掲示板の前に来た。


 うーん……しょぼい依頼しかないな。

 やたら『お使い依頼』が多い。

 そんなに買い物に行くのが面倒なのか。


 面白そうな依頼は無いな。


 森で魔物狩りでもするか。

 アンデッド系としか戦ってないし。

 たまには獣系の魔物とも戦いたい。


 俺がうんうんと唸っていると、セーラの気配がした。


 振り向くと……入口付近にセーラが居た。


 俺の気配察知と魔力察知、なかなかの精度だ。


 我ながら成長したと自画自賛である。


「もー! ボーンさん! 1人でギルドに行かないでくださいよー!」


「誘ってほしかったのか? それはすまなかったな」


「あ、依頼を受けるんですか? あたし暇なんでついて行ってもいいですか?」


「勿論いいぞ。まあ、まだどの依頼を受けるかは決めてないが」


「あ、じゃあこの依頼に行きましょうよー!」


 セーラが指さした依頼。

 それは『王都でのお使い依頼』だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る