骨12本目 スケベ男爵

 セーラがお茶を用意して戻ってきた。


「じゃあ、あたしのご先祖様がモデルになったスケベ男爵の話をしますねー! でも、スケベ男爵の話を知らないなんて、ボーンさんは珍しい人ですねー?」


「あ、ああ、そうかもな、是非とも聞かせてくれ」


 さて、胸がざわついてきたぞ。


「昔この国にスケベな男爵がおりました。彼は手当たり次第に女性へ手を出し、あらゆる種族の女性を妊娠させるという暴挙を犯しておりました」


 あれ、何だろう、身に覚えがあるような。


「それは当時、罪にはなりませんでした」


 いやーなんだか危なかったような気がするぞ。


「彼は冒険者で、大金持ちであり、抱いた女性は大切にする人柄でした」


 愛した女性は大切にするものだ、間違いない。


「ですが彼は自分を抑える事が出来なかったのです。女と見ればすぐ手を出す性格が災いしました。なんと、彼はとうとう王様の娘に手を出したのです」


 あ、そんな事もあったような。


「王様は激怒しました。どうして娘に手を出したのか、と」


 あれ、手が震えてきたぞ……


「王様は言いました。娘と結婚したければ呪われし竜を倒してこい、と。竜の心臓と引き換えに娘を渡す、と」


 少しずつ、記憶が、蘇ってきたような……?


「彼は呪われし竜を倒す旅に出て、二度と戻って来ませんでした、とさ」


「……え、終わり?」


「はい! 有名な話ですよー! あ、この国に一夫一妻制の法律ができたのは、スケベ男爵が原因みたいなんですよ! まあ、教訓ってやつですねー! 純心教の教えでは、スケベ男爵のようになるな、自分を律する気持ちを持て、生涯に愛する人は1人だけにしろ、呪われた竜に近づくな、とか、色々ありますよー!」


 これは驚いた。


 生前の俺は予想以上の事をやってたようだ。

 王族に手を出すなんて馬鹿すぎる。


 そもそも純心教ってなんだよ。

 俺をダシにしやがって。

 生前は宗教が嫌いだったって記憶がメラメラと燃え出してきたぞ。


 それに呪われし竜ってあいつだろ。

 墓地ダンジョンで倒したスカルドラゴン。


 おのれスカルドラゴンめ。

 生前の俺を殺したな。

 死ぬ瞬間の記憶が蘇ってきたぞ。


「あれ? ボーンさん大丈夫ですか? あはは、意外と面白くない話でしょー? ま、それがあたしのご先祖様の話ですよー!」


「ああ、いや、面白かったよ。話してくれてありがとう。セーラは、ご先祖様の、スケベ男爵の事を恨んでるか?」


「いえいえー! 彼のお陰でこうやって貴族でもないのに裕福な暮らしができますからねー!子孫としては嬉しい限りです!」


「そうなのか……それは良かった。……ちなみにスケベ男爵の名前は分かるか? どのくらい前の人物なんだ?」


「名前は何故か伝わってませんねー! どのくらい前かと言われると……うーん、100年以上は前じゃないですかー?」


「100年以上前か……そうか」


「それでもまだうちに貯金があるってヤバくないですかー! スケベ男爵はどんなお金持ちだったんだよって! お酒の席で有名な笑い話ですよー!」


 笑いのネタになってるのか。

 恨まれるよりもいいか。

 吟遊詩人とかに歌われてるのかもな。


「ボーンさんもスケベ男爵の子孫だと思います! ものすごく顔が似てるし! あたし達は親戚かもしれませんねー!」


「そ、そうだな、ははは……ちなみに、他に子孫ってどのくらい居るんだ?」


「さぁ? いっぱい居ると思いますけど、あたしは知りません!」


「なるほどな……うん、ありがとう。色々と話を聞けて楽しかった。あ、そうだ。ついさっき墓地ダンジョンを制覇してきたんだ」


「……え?」


「財宝を持ち帰ったから、欲しい物は何でもやるよ。ここで出していいか?」


「の、呪われし竜を、倒した、んですか……?」


「ああ、倒したぞ。あの憎きスカルドラゴンにしっかり引導を渡してやった」


「な、な、な……!」


 セーラが口をパクパクして、魚みたいになってる。


 驚くのも無理はない。

 あのスカルドラゴンは強かったからな。


 生前の殺された復讐を、思いがけず自分の手で果たせて良かった。

 まさに運命の悪戯だな。


 それにしても……目の前の子が俺の子孫か。


 なんだろうな。

 不思議な愛情が湧く。

 血が繋がってるからだろうか。


 今の俺に血は通ってないが、これから子孫に会った時には力になろう。



◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 我が子孫セーラよ、もっと驚くがいい!

 これが墓地ダンジョンの財宝だー!


 俺は魔法袋を振り回して財宝をぶちまける。

 冒険者をしてて一番楽しいのはこれだ。


 ダンジョンから持ち帰った財宝を仲間と眺めたり、金貨の山に飛び込んで財宝を仲間に投げつけて、笑い合う瞬間、最高なんだよな。


 これぞ冒険者の醍醐味。

 一攫千金を掴んだ達成感。

 これだから冒険者は辞められない。


 ああ、思い出した、前世も同じ事をしてた。


 財宝をぶちまけてた。

 高価な物を人に配ってた。

 そしてすぐ貧乏になってた。


 俺はなんてダメな奴だったんだ。

 それに女ったらしだった。

 なんか色々と思い出してきた。


 だが今はスケルトン、俺に生殖機能は無い。

 これこそが天罰なのだろう。

 甘んじて受け入れよう。


 とりあえずセーラと金貨の川を泳ぐ。


 高そうな服を投げ合う。


 王冠やティアラを頭に着ける。


 指輪を指全部に装着。


 ネックレスを馬鹿みたいに首に掛ける。


「「あははははははは!」」


 一通りの財宝儀式を済ませた。

 と思ったら、セーラの母親が乱入。


 彼女も俺の子孫だ。

 何となく、魔力の波動で分かった。


 折角なので、同じように3人で財宝儀式を行う。


「「「はははははは……!」」」


 さて、2人に財宝プレゼントだ。

 欲しい財宝を選んでもらおう。


 セーラは杖やローブ、ドレスが気になるようだ。

 セーラの母親はもっぱら宝石だな。

 2人とも楽しそうだ。


 欲しい物は全部あげよう。


 そういえばセーラはお父さん居ないのかな?

 いや、聞かないでおこう。

 何か事情があるのかもしれない。


 子孫とはいえ、俺はあくまで他人だからな。

 今さら「俺がスケベ男爵です!」なんて言えない。

 恥ずかしすぎる。


「セーラ、杖は見てるだけじゃ選べないぞ。自分の魔力を通して、感覚的に魔力の通りが良い杖を選ぶんだ。やってみるといい」


「へぇー、流石はボーンさん! やってみますー!」


「あ、セーラのお母さん、宝石が欲しいなら好きなだけ貰って下さい。セーラは命の恩人なので、何も遠慮しなくていいですよ」


「あら、本気? なんだか悪いわ。うーん、でも、勧められると断れないわね!」


「ははは、好きなだけどうぞ」


 こうやって俺は貧乏になるんだよな。

 調子に乗りやすい性格なんだろう。


 だが、自己満足で悦に浸って何が悪い。

 いいじゃないか。

 子孫へのプレゼントさ。


 セーラのお母さんに「財宝の見返りとして家に住んでいい」と言われた。

 住むつもりはないが、数日は世話になる予定だ。

 墓地ダンジョンを休ませる間だな。


 とりあえず明日は冒険者登録をしよう。

 身分証が必要だ。


 俺は財宝を見ながら笑顔になってる子孫を見て、幸せな気持ちになっていた。

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