骨11本目 ヨーセンの街

 墓地ダンジョンを出て街に向かって歩く。


 街までは一本道だ。

 街道は綺麗な石畳み。

 周囲はだだっ広い平原。


 魔物が襲ってくる事もなく、俺は街の入口に到着した。


 門番に「お疲れー」と言って街に入る。


「ちょっと待てこら!?」


 ちっ、そう簡単に入れないようだ、残念。


「はい、なんでしょうか?」


「身分証を見せてくれ」


 ああ、やっぱりな、言われると思った。

 俺はスケルトンだから当然、身分証なんか持ってない。

 ここは歩きながら考えてた言い訳を披露するとしよう。


「実は墓地のダンジョンで落としたんですよ。名前はボーンです。Cランク冒険者をやってます。通行料が必要なら払いますけど?」


「……お前を見た事がない。街に来た目的は?」


「友達に会いに来ました。身分証の再発行もします」


「ほう、じゃあお前はこの街の出身なのか?」


「門番の方にそこまで言わないといけないんですか?」


 ここは強気でいこう。

 会話をしてるとボロが出る。

 門番も考えてる感じだし、もう一押し。


 俺は魔法袋から金貨を取り出す。

 そっと門番の手に握らせる。


「門番って仕事は大変ですよね」


「ま、まぁな」


 更に金貨を握らせる。


「あれ、会った事ありますよね? 久しぶりに街に帰ってきたんですよ」


 更に更に金貨を握らせる。


「お、おう、おかえり。街でゆっくりしろよ」


「はい、ありがとうございます」


 ……勝った、やはり賄賂は偉大だ。

 人には誇れない行為だがな。


「そうだ、冒険者ギルドの場所を教えて下さい」

「おう、ここから真っ直ぐ行って……」


 門番の人は親切丁寧に冒険者ギルドまでの道を教えてくれた。

 これも金貨のお陰だろう。

 

 ちなみに街の名前は『ヨーセン』だった。

 多分、ここはセーラが住んでる街だ。



◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 冒険者ギルドに向かって歩く。


 何故だろうか。

 この街の空気が、雰囲気が、酷く懐かしい。

 胸が締め付けられるようだ。


 この気持ちは一体なんだろう?


 もしかしたら俺は、この街に住んでいたのかもしれない。

 墓地ダンジョンだって近いし、考えられる。


 だが『ヨーセンの街』なんて言葉は記憶に無い。


 そもそも俺が死んでから何年くらい経ってるのか。


 少なくとも死体がスケルトンになるくらいには時間が経ってるだろう。


 知り合いは……きっと生きてないだろうな。


「まあ、いいか。記憶があやふやなんだし」


 やりたい事はいっぱいあるしな。

 新しい人生と思って生きよう。


 今はまず、命の恩人セーラに恩返しだ。



◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 冒険者ギルドへ到着した俺は早速、受付に並んだ。

 そんなに混んでいなかったのですぐに俺の順番がやってきた。


「こんにちは、本日はどのようなご用件ですか?」


「この街に住む、確かCランク冒険者のセーラに会いに来たんだ。冒険者ギルドで住所を聞いてくれと言われたんだが……あ、俺の名前はボーンだ。確かセーラの仲間の名前は……ユリウス、オルバ、アナ、だったと思うんだが」


「ああ、セーラさんから聞いてますよ。ボーンさんと名乗られる方が来たら住所を教えるようにと。こちらが地図になります」


 素晴らしい手際の良さだ。

 流石はギルド受付嬢、仕事ができる。


 俺は受付嬢にお礼を言い、セーラの家までの地図を受け取った。

 地図によるとセーラの家はすぐ近くだ。



◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 到着したセーラの家は……え、この辺じゃ大きいな。


 もしかしたら貴族とか?

 いやいや、家の造りはそこまで豪華じゃないし違うか。


 とりあえず家をノックする。

 出てきたのはセーラだ。


「はーい、どちら様ですかー?」


「久しぶりだなセーラ、遅くなってすまない。約束通り、色々と持ってきたぞ」


「あ、貴方は……!?」


 急に驚愕の表情になったセーラ。

 そのまま俺の手を引いて家の中へ。


 なんだなんだと思ってると物置部屋に到着。


 ホコリまみれの部屋に突撃するセーラ。

 何やら探し物をしているようだ。


「こ、これー! ほらー! 凄い似てるー!」


 取り出したのは古い肖像画。

 描かれているのはイケメンの男性。

 と言うか、俺だ。


「なっ……!? どういう事だ!? これは誰なんだ!?」


「ちょっ、ちょっと……!?」


 しまった、ついセーラの肩を掴んで叫んでた。


 落ち着くんだ俺。

 まずは話を聞こう。

 それから考えよう。


「すまない、少し動揺してしまった。これは誰なんだ?」


「これはあたしのご先祖様の肖像画ですー! なんとあのスケベ男爵のモデルになった人ですよー! 貴方に似てますよねー! あたしびっくりしましたー! あ、ところで、貴方は誰なんですかー? ご用件は?」


「スケベ男爵とな……ご先祖様……」


「あ、あのー……」


「おっと、名乗ってなかったか。俺だよ俺。墓地ダンジョンで会ったボーンだ」


「うえぇ!? え、本当にボーンさん!? うわぁ、そんな顔してたんですねー。白い全身鎧の姿しか知らなかったから、驚きですよー!」


「ああ、俺も驚いたよ。……なあ、もし良かったらご先祖様の事を教えてくれ」


「いいですよー! じゃあお茶にしましょー! さぁさぁ、どうぞどうぞー!」


 セーラに案内されるまま別の部屋に通された。


 言われるがまま、大人しく椅子に座る。

 セーラはお茶を準備するらしい。


 よし、落ち着いて整理してみよう。


 俺は生前、男爵だったようだ。

 しかもスケベだったらしい。


 驚くことに俺はセーラのご先祖様。

 と言う事は、セーラは俺の子孫。


 言われてみると、すんなり納得できた。

 セーラには懐かしい気配というか、そんな雰囲気を感じてたからな。


 つまり俺は子孫であるセーラの滅魔光線で蘇ったという事だ。


 これぞ魔法の深淵、不思議な現象。

 そんな事もあるんだな……驚愕だ。


 運命の悪戯ってやつか。


 では俺の妻は、子供は、どうなったのか。

 どんな人だったのか。

 俺は生前、どんな男だったのか。

 スケベ男爵のモデルになったって……何をやらかしたのか。


 気になる事が沢山ある。

 セーラの話が楽しみだ。


 早くお茶を持ってきてくれ、我が子孫よ。

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