骨9本目 墓地ダンジョンのボス

 墓地ダンジョン9階層。


 ここは地獄だ。

 たとえ世界最強の冒険者だろうと、人間ならとっくに死んでる。


 ……いや、それは言い過ぎか。

 世界最強の冒険者なら余裕そうだ。


 俺は不死系の魔物で、最弱のスケルトンだ。

 でも、ここへ来るまでに確実に強くなったと思っている。


 そんな俺ですら消滅するかもしれない攻撃を受けながら、ひたすら戦ってきた。

 9階層は、考えられないレベルの高難易度だ。


 だが、とうとう、やっと、ついに、終わりが見えた。

 無限かと思われた魔物の数がようやく途切れた。


「長かった……どんだけなんだ……」


 ひたすら指レイピアを駆使しての魔物狩り。

 途中から指と言うより、手から数多の針を伸ばして戦っていた。

 火魔法も土魔法もめちゃくちゃに発動させて攻撃していた。


 俺は頑張った、超頑張った。

 いや、それでも足りない。

 100年分くらい頑張った。


 そしてやっと終わったのだ。

 ステータスを確認しよう。




 個体名:ボーン

 レベル:54

 魔力量:8630

 骨密度:5069

 ユニークスキル:全骨統

 属性:火・土




 なんだこれ。

 骨密度の上昇値から推測すると、スケルトンを3000匹くらい倒してる。

 ゴーストを合わせるともっと多くの魔物を倒してるな。


 魔力量は8000越え、骨密度は5000を超え、レベルは50を超えた。


 レベル1が懐かしい。

 とうとう俺はステータスに恥じない、凶悪な魔物になったようだ。


 でももういい、もう疲れた。

 体は疲れてないけど、精神的に疲れた。


 ダンジョン10階層の様子を見て出よう。


 もう魔物なんかうんざりだ。



◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 墓地ダンジョン10階層。


 階段を降りた俺は驚愕する。


「これは無理、流石の俺でも無理だ」


 ユニークスキルを使っても無理じゃないのか。


 一見すると巨大な漆黒の骨塊に見える。

 だが、そうじゃない。


 大きな翼に長い尻尾。

 強靭なアゴ、鋭いキバ。

 どう見てもドラゴンだ。


「スカルドラゴン……」


 スカルドラゴンとはドラゴンが死んでアンデッドに変化した最悪の魔物。

 とても人間が戦える相手ではない。

 大魔法使いが集まって封印するレベルの魔物だ。


 ……だったと思う、そんな記憶が蘇った。


 だがどうしてだろう。


 敵わないと頭では分かるのに、倒したい。

 見てるとムカついてくる。

 胸のモヤモヤが晴れない。

 心がどうしても抑えきれない。


 俺はアイツを倒す為に蘇ったと言ってもいい。

 倒さなければいけない、という謎の使命感がある。


「……ははは、いいさ、やってみるか」


 渇いた笑いとともに覚悟を決める。

 なぜ危険な橋を渡るような真似をしているのか自分でも解らない。


 でも、やらなきゃいけないんだ。


 俺は猛然と駆け出した。



◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 俺は全力で突進する。


 剣に火を纏わせて一閃。

 スカルドラゴンの巨大な指を1つ落とす。

 そのまま剣を縦に横に振って斬り刻む。


 しかし、スカルドラゴンも黙ってない。

 巨大な咆哮とともに闇魔法をぶつけてくる。


 俺の左手が消滅した。

 避けきれなかったか。


 構わない。

 土魔法で岩弾を連打。

 スカルドラゴンの足の骨に亀裂が生じる。


 俺は攻撃の合間に失った左手を再生する。


 次の瞬間には巨大な尻尾が腹に当たった。

 とんでもない衝撃が俺を襲う。

 俺の下半身はこの攻撃に耐えきれず消滅した。


 くっ、巨体のくせに素早い。

 だが構うもんか。

 尻尾に対して全力の斬撃を放つ。

 切断には至らないが、ダメージはある筈だ。


 動けない俺をスカルドラゴンの牙が襲う。

 スカルドラゴンは俺を噛み砕こうと力を込める。

 しかし、俺もタダではやられない。


 スカルドラゴンの目に剣を突き刺す。


 スカルドラゴンのアゴに力が入る。

 このままブレス攻撃がくる。

 分かっていても避けられない。

 上半身の半分が消された。


 だが、まだ終わりじゃない!


 片手でスカルドラゴンのアゴにしがみつく。

 そしてユニークスキル『全骨統』発動する。


「破壊!」


 スカルドラゴンは頭を振りながら……消滅していく。


 勝ったのか。


 そうだ、俺の勝ちだ。


 あの巨体が消滅していってる。

 本当に『全骨統』が通じるかは賭けだった。

 ……どうやら賭けには勝ったらしい。


 だが手負いの魔物ほど恐ろしい。

 スカルドラゴンの尻尾が命中した。

 最後の最後で復讐してきた。


 最後の一撃をもらった俺の体は……消滅した。

 それでも、頭だけになっても俺は生きてる。

 スカルドラゴンは骨粉になった。

 アイツは消滅したのだ。


「ははは、俺の、勝ちだ……」


 このまま俺は消えてしまうのだろう。

 いよいよ終わりがきたのだ。


 もう思い残す事は……あるっちゃある。

 死にたくない。


 ……あれ、と言うか俺、もしかして死なない?

 とりあえず愛しの骨体を再生してみる。


 あ、できた、普通に元に戻った。


「はーっはっはっはっは! ふっかーつ!」


 ついポーズをとってしまったぜ!


「勝った! 俺の勝ちだ! フゥー!」


 とりあえず踊ろう!

 なんだ楽勝だったじゃないか!


「さて、お楽しみの時間だ!」


 スカルドラゴンを吸収してみよう。

 魔力量の増え方がえぐそうだ。


 しっかり吸収する。

 一欠片も残さない。


 スカルドラゴンを吸収し終えると黒い魔石が残った。

 なんとも禍々しい色だ。


「まあ、この魔石も吸収するんだけどね」


 おとなしく、俺のステータスになりやがれ。


 お、おおっふ……!?


 半端じゃない魔力が体に流れた。

 気持ち良すぎて意識が飛ぶかと思った。

 人間の体だったら、色々と漏れてたかもしれん。


 ステータスを確認しよう。




 個体名:ボーン

 レベル:86

 魔力量:12550

 骨密度:5070

 ユニークスキル:全骨統

 属性:火・土・闇




「すごっ……!」


 レベルが一気に上がった。

 魔力量がとうとう1万突破。

 骨密度だけは1上昇。


 そして何より、闇魔法をゲットだ!


 これは素晴らしい成果だ。

 死ぬ思いをして良かった。

 ありがとう、スカルドラゴン。

 もう二度と会いたくない。


 いや、待てよ、アイツは黒かった。

 ブラックスカルドラゴンなのではないか?

 うん、どうでもいいな。


 とにかく俺は勝ったのだ。



◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 さて、10階層の奥に進んでみる。


 道は無い、巨大な空間が広がるだけの階層。

 どうやら魔物はボスだけ。

 スカルドラゴンが鎮座する階層だったようだ。


 空間の最奥には祭壇があった。


 祭壇には凶々しい剣が祀ってある。

 どうやらこれがダンジョンコアみたいだ。


 おそらく強力な魔剣なのだろう。

 ダンジョンを生み出すほどに。


 多分、闇属性の魔剣だ。

 アンデットダンジョンのコアになってるし。

 攻撃力は凄そうだ。


 他にも祭壇の近くには金銀財宝の山が3つある。

 あらゆる武器、防具、アクセサリー。

 そして宝石、金貨、銀貨などなど。

 素晴らしい品々だ。


 これは……どうしよう。


 この剣を俺が取ってしまえば、墓地ダンジョンは消えてなくなるだろう。

 それは少しもったいない気がする。

 ここは効率良くでステータスの強化が可能な環境なのだ。


 ステータスを見ながら考える。


 …………よし、決めた。


 剣はこのままダンジョンコアとして維持しよう。

 まだこのダンジョンはレベル上げに使えるからな。


 骨密度1万を超えたら記念に貰う事にしよう。


 俺は財宝だけを回収する事にした。

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