第6話 父様ったら……

「はぁ……」


「どうしたんだ、ため息なんかついて。幸せが逃げるぞ?」


 ため息をついたホラムに向かって、父ローレイラが言う。ホムラは現在、お風呂場で身体を洗ってもらっている所だ。


「なかなか魔力を掴めないんですよ。手に取れたと思ったら、ヌルッと流れてしまうというか。才能無いんですかね〜」


 レーミング家のお風呂場はかなりの広さをしている。元の世界の実家の風呂とは比べ物にならない広さだ。泳がないが泳げるレベルだ。


「そうか……ヌルッとか……ローショ……いや、魔法使いというのもそう簡単にはなれるものではあるまい」


 おいおい、言いかけやがりましたよ。なんだ、母親と使ってるのか?聞きたく無いワードを聞いてしまったよ。

 わしゃわしゃと頭を洗われながらホムラはゲンナリとする。


「そういえば、父様は剣を使うんだよね?魔法を使いたいと思ったこととかある?」


「空を飛べるのとか良いよなぁ。まあ、父さんも魔力を纏うくらいなら出来るから満足してるぞ!」


「魔力を纏う!それって、わぷっ!」


 父の言葉に驚いた直後にお湯をかけられて泡を流される。事前に予告して欲しいものだ。


「魔力で身体を覆えれば、身体の調子が上がるからなぁ!ムキムキの父様がさらにムキムキだ!」


 サイドチェストのポーズを取る父様。そんな効果があるのかと勉強になった。

 

「だったら、コツとか教えてくださいよ!」


「いや、エルメティア先生が教えてくれてるんだから彼女の言うことを聞くんだ。下手に俺が教えれば計画が狂うかもしれん」


 そういう所は真面目だなと思った。


「そうですね、先生から良く習います。出来るだけ早く、魔力を操作出来るようになりたいですし」


「ああ、頑張れよ!」


 と言いながら2人して、風呂に飛び込む。前に、母様の前でやったら怒られたが父様とは良く飛び込んでいる。



 風呂から上がると、髪が乾いたら早く寝ろよと父様に言われたので部屋に帰った後に眠りにつくのだった。






 翌朝は、いつもより早い時間に目が覚めた。やはり魔法の練習をすることになってワクワクしているのかもしれない。


 遠くの山からは太陽が登ろうとしていた。ホムラは、朝の仕事を始めているメイド達に挨拶をしながら外に出た。


 屋敷の庭から街を見下ろした。いつ見ても良い眺めだ。レーミング家の屋敷は、高い場所にあり街からもよく見える。周囲には自然も多く、ホムラとしてもここが実家で良かったと思っている。田舎生活など憧れていたのだ。


「スーーーーハーーーーー」


 深呼吸を行い、身体に外の新鮮な空気を入れる。若干の眠気も無くなっていくのを感じる。



 ブンッブンッという音にふと耳を傾けると、父様が木剣を振っていた。鍛錬は、今でも欠かせない様だ。確かに、事務仕事ではあの肉体も保てないだろう。ムキムキの方が母様達も良いのかもしれない。


「自分も朝練みたいなことをやってみるか」


 学校で朝から部活を行なっている学生を見て、良いなと思った記憶が蘇る。

 アイテムボックスから、松明を取り出して振ってみる。だが、まだ腕の力がないため大きな音が鳴るほど振ることはできない。


「駄目だこりゃ……まあ、5歳だし厳しいよな。お、石が落ちてる」


 庭に落ちている、手のひらサイズの石を拾い上げて手の上で転がす。片手には野球バットサイズの松明、もう一つは石ころ。


「これは撃ちたくなるよな」


 ノックの要領で、撃ってみようかと考える。子供だから大して飛ばないだろうが、山の方に向かって打つことにする。


「そーれっと!」


 右手に持つ石を頭上に放り投げ、すぐさま両手でバット代わりのたいまつを握る。そして、芯で捉える。


「ありゃ、見えなくなった?」


 ホムラは自分が打った石を見失った。確かにミートした感覚はあったので前に飛んだだろうが、見当たらない。



「どこまで飛んだかわからないなぁ……諦めるか……」


 

 数刻後に森の中で、ホラムが打った石に頭を貫かれたワイバーンの死体が発見される。ワイバーンの近くに落ちていた石も持ち込まれ、ホムラはまさかな……いや、そんなことはないだろうな、と思うのだった。

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