第3話 転生特典

 2歳になった。もうすでに自分で歩くことは出来ている。だが、やはり心配なようでメイドが常に付いている状況だ。年齢を考えれば当然のことではあるが。


「ホムラ様、抱っこしましょうか?」


「抱っこ、して」


 とメイドが言ってくるので、両手を広げてやってもらうことにする。若いメイドさんに

抱き上げてもらって高い位置から外を眺めることもできる。


「ホムラ様は、穏やかで手がかかりませんね。私が癒されてしまいます」


 メイドが呟いている。

 自分で言うのもあれだが、ホラムはメイド達の中でかなり人気がある。危ない動きもせず、甘えてくる姿に評判が良いようだ。自分も、甘えてあちこち触っていたので、win-winの関係だ。



 メイドがいるということから我が家はかなり良い家である。父は優秀な騎士だったらしく、現在は爵位を貰い男爵とのことだ。平民の騎士からはとてつもない出世だ。相当に優秀だったのだろう。


 レーミングが家名で、ホムラ・レーミングを名乗ることになる。



 良い家と言うことで、勝ち組である。とても豊かな生活を送らせてもらっている。


「本、読む」


 と言うと、メイドさんが本を取ってくれる。絵本だ。文字も日本語と同じに見えているため、難しいものも読めるだろうが、流石に2歳でそれはまずいので絵本を指差しながら読んでいる。




 ある程度本を読んでいたら眠気が襲ってきたためお昼寝タイムだ。メイドさんに寝室に運んでもらい眠ることにする。身体が子供であるため眠気には抗えない。


 


 夕方になった頃に目が覚めた。カーテンの隙間からは、夕日が漏れている。部屋をじっくりと見回してみると誰もいなかった。ホムラが寝ているため、少しの間、出ているのかもしれない。


 これはアイテムボックスを確認するチャンスじゃないか?と思う。これまでは、なかなかタイミングを掴めず確認するのを先送りしてしまっていた。


「アイテム、ボックス」


 ビヨンと音を立てて、立体映像が表示される。そこにはドット絵のアイテムがいくつかあった。これは所持アイテムを表しているのだろうと考える。


 さーて、いよいよ対魔の杖とのご対面である。魔法の才能もあることだし、最高の性能を発揮してくれるだろう。


「ミルレイヌ神、手紙?」


 アイテムボックスにはミルレイヌ神の手紙というアイテムが入っていた。神からのものだから先に目を通しておこう。



『やー、ホムラ。ミルレイヌ神だよぉ〜

ということで、転生特典のアイテムを送っておくよ〜。神に感謝して使いなさい!』


 手紙に目を通していると、目の前にプレゼントボックスとでも言えるものが現れた。これを開ければ対魔の杖が手に入るのだろう。



『手を触れなさい。あなたが欲しがったもの……』


プレゼントボックスに手をかざすと、光って包装が消える。そして、現れたのは




ただの木の棒だった。野球のバットほどの大きさだ。



『松明(たいまつ)です!』


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁん?」


 素でホムラは大声を上げてしまった。正直言うと、今ので漏らしちゃったよ。恐ろしいほどの衝撃だ。


「ホムラ様?どうしました!」


 声が響き、こちらに向かってくる足音が聞こえてきた。メイドだろう。外に聞こえるほど大きな声を出してしまったらしい。


「まずい」


 アイテムボックスにすぐさま全てのものをしまう。その直後、扉が開いてメイドが飛び込んできた。その表情は、焦っている。


「ホラム様、大丈夫ですか?」


「怖い、夢みた」


 ここは誤魔化しておく。驚いて声を上げたことにしておけばいいだろう。


「そうでしたか……お怪我をしていないかと心配しました。あ、お着替えしましょうか」


 おや、シミで漏らしたのがバレてしまったようだ。恥ずかしながら、綺麗にしてもらうしかないだろう。濡れている感触も好きではない。




「ふんふんふ〜ん」


 メイドが鼻歌を歌いながら、ホムラの身体を拭いてくれる。


 普段ならドキドキしてしまうが、今は他に考えなければならないことがあった。


 (ミルレイヌ神から貰ったものは、手紙に書いてある通りならば『松明』だ。なんでそんなものが送られてきたのだろうか?)


 なぜそんなことになっているのかわからない。


(俺が頼んだの対魔の杖だし……えっ……ああ……)


 対魔の杖……たいまのつえ……たいまつ



 あの神、聞き間違えやがったなぁ……おやつのことしか考えていない神のことだ。しっかり話を聞いていなかったに違いない。そういえば、お願いする時に、おやつの準備の連絡が来てたな。良く確認しておくべきだった。




「たいまつ、終わったぁぁ……」


「ホムラ様、どうしました?」


 メイドが首を傾げるのを尻目に、ホムラは心の中で、さらば対魔の杖と呟くのだった。

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