02 α

 仕事が終わって、ベンチに戻ると。

 まだ、あの男の人はいた。

 同じ制服を着てはいる。それでも、雰囲気が、子供のものではなかった。それに、ちょっと錆びた鉄のような、不思議な目をしている。

 隣に座った。

 意味はない。なんとなく、気になったから。


「夜だぞ」


「夜ね」


 帰らないのか。そう訊かれたのだと、ちょっと考えてわかった。


「あっ。やば」


 遠くから、紺色の服に紺色の帽子。職務質問とか保護とかは面倒かも。


「座ってろよ」


 立ち上がろうとしたら、彼が制止する。

 不思議な魅力のある声だった。なんとなく、笑ってしまうような。そんな声。


「おう。仕事ご苦労」


 彼が、警官らしき人とお話をはじめる。まるで、上司と部下みたいな。


「そうか。まあ、見張りの量だけ増やしとけ」


 指示までしてる。


「よし行け。俺はもう少しここにいる」


 警官がいなくなった。わたしも、助かったらしい。


「偉いのね?」


 言って、感謝が先だと思い直した。


「ありがと。保護されるとぱぱ活がばれるとこだった」


 彼。

 こちらをちょっと見て、そして。交差点に目を戻す。


「処女だろ、おまえ」


 処女。

 処女?


「あっ処女。うん。処女」


 あっやば。なに素直に答えてんだわたし。


「ぱぱ活とは名ばかりの」


「いや、ちゃんとおかねはもらってるよ。ほら」


 懐からお金を出す。ぐちゃぐちゃのやつ。


「催眠術にでもかけてんのか?」


「話を聞いて、相談に乗る。それだけ」


「ぱぱ活ね」


「セックスしてもいいとは思ってるよ。誰もしてくれないだけ」


「うそつけ」


 それきり、無言。

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