01 β

 なんとなく、生きにくい。そういう人生だった。

 交差点のベンチ。歩いて対岸に渡ることだけが目的の場所で、立ち止まって、座る。そういう人間はいない。自分以外、座ることのない場所。待ち合わせする人もいない。

 ただ座って、ただ交差点を眺める。こんなにもたくさん人がいるのに、自分が見つからない。


「はあ」


 隣。

 気付いたら、女が座っていた。

 なぜか、古風こふう。しっかりと留められた制服。長いスカート。黒い髪は後ろで止めてある。輪ゴムみたいなでかいやつ。こんな女、絶滅危惧種どころか、時代錯誤。博物館ものだった。


「待ち合わせか?」


 声をかけてから、同じ制服を着ていることに、いまさら気付く。しまった。顔を覚えられると面倒かもしれない。


「違うわ」


 自分目当てか。だとしたら余計に面倒。


「ぱぱ活の相手を見繕ってるの」


 よかった。この昔気質な見た目も、別に時代錯誤なわけではなかった。人恋しい誰かを釣るための道具か。

 自分には関係のない話だった。それに、なぜか、彼女からは少し血の匂いがする。

 少しして、手頃な獲物を見つけたらしい彼女はベンチを去っていった。

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