第6話 自己紹介を鈍感な君に捧げる

「ちょっといいですか?姫草柚乃って生徒、このクラスですよね」



 突如一年生のクラスに現れた生徒会副会長に戦慄を覚える生徒達。


「あっ、はい」

 近くの女生徒は紗百合の質問に答え、彼女は辺りを見渡す。


「この教室にはいないんですね」

「えっと、確か越百コスモちゃんと屋上に・・・」

「そうですか、ありがとうございます」スッ

 紗百合は突然、その女生徒の頬を指先で撫でしっかりと双眸を見定める。


「へぇっ!?」

 途端、周囲に舞う花びら、固まる女生徒。

 ここにいる誰の瞳にもフィルターがかかり、恋煩いのように胸が高鳴ってしまう。


「ありがとう」

 キラッキラに輝く紗百合は生徒にお礼を言うと優雅に教室から立ち去っていった。



 ヘトッ~↓↓↓



 相対した女生徒は力が抜けたのかへたり込んでしまう。



 そして、多分、きっと、何かに目覚めたハズ・・・。



 ♦♦♦♦


「あたしは皇越百スメラギコスモ!気軽にコスモでいいよ!!」

 カステラ色のシニヨンヘアーはパイナップルのように弾け、燦々とした笑顔を届けてくれる快活少女はビシッと右手を掲げ高らかに宣言する。


「私は鳳凰院玲於奈ホウオウインレオナ、よろしくお願いします」

 こちらは竹炭と見紛うほどの輝きと黒さを併せ持つ長髪のお嬢様。

 眠たげな目尻に涙黒子が愛らしい儚げな存在で、背丈も大きい。


「えっと、わたしは森野咲穂モリノサキホっていいます、仲良くしてください」

 濃い緑色で二つ結びのおさげ少女は緊張した面持ちで柚乃に自己紹介をする。

 この中で一番可愛い子だ。


「アタシは姫草柚乃っていうの、出来れば皆と仲良くしたいし、気軽に絡んでね!」

 得意な営業スマイルで女子達を魅了するボーイッシュショートヘアーの君はやはり自己主張がうまく、コスモや玲於奈は目を輝かせ注視していた。


「ねぇどうしてアタシのこと誘ってくれようと思ったの?」

 二宮瑠衣(15)が口を開く暇もなく女子だけで盛り上がろうとする柚乃。


「いや実はあたしさー!ゆのちんの顔スッゲー好きなんよ!!」

「ゆの・・・ちん?」

「あの姫草さん、コスモの愛称嫌だったら教えてくださいね」

 えへへとうなじを掻くコスモの隣の玲於奈は、彼女と付き合いが長いのか御するように口を挟む。


「ええと、ならゆのゆのの方がいいかなー?」

 流石の柚乃もちんが付くのは嫌だったみたいで、過去の愛称と変えられないか提案。


「おー!じゃあゆのゆのにするゾ!」

 多分悪い子ではないが底抜けに阿保なんだろうなという性格のコスモ。

 僕は全く嫌いではなく、寧ろ大好きだがこのタイプに難色を示す人間は多いだろうな、特に同性。


「ははっ、それで顔が好きって―――」

 問題はそこだ。


「ごめんなさい、この子ちょっと変わってて、女の子が好きなんです」

 代弁者のように玲於奈が言う。


「え”」

 確かに柚乃は女子にモテそうな雰囲気と外見をしているが、まさかストレートに言われるとは思っていなかったらしく若干頬が引き攣った様子。


「あっ、ごめんごめん、コスモはソッチ系ではないゾ!」

「あくまで姫草さんの造形が好きなんですよ」

 それはそれでどうかと思うが空気は柔らかくなった。


「それでこちらの森野さんの顔も大好物だから、お昼どうかなって誘ったんです」

「えへへ」

 ジト目の玲於奈のハンドジェスチャーに小さな手の振りで応える咲穂。

 困った顔もかわゆいが、随分とまぁ自由な出会い方だ。



 それでも中学の頃、坂本と出会うことになった『』に比べれば何倍も健全な邂逅と呼べるだろう。



「時間もありますし、お弁当を広げて話しましょうか」

 玲於奈とコスモが柵の段差に腰を掛け、咲穂と柚乃の間挟まるように座る僕。

 傍から見れば羨ましいだろうが、実際は肩身が狭いどころではなかった。



「「「いただきます」」」



 規格外の三段重ね弁当を開けるコスモ以外は皆一様に標準サイズの箱を取り出し、パカッと蓋を外す。


「おー!玲於奈さんの弁当って健康志向だね!」

 柚乃は対面に座るお嬢様の弁当の中身が見えた様子で褒め称えている。

 僕の目線からは覗けないのに何故?


「そういう姫草さんも色とりどりで美味しそうです」

「さんも名字読みもやめてよ、友達なんだしさ!よければオカズ交換しない?」

 一言にどれだけ人の心を掌握する科白を詰め込むのか。

 玲於奈は慣れていないのかぽっと頬を紅く染めたあと、何かを考えるように俯く。


「あもしかして馴れ馴れしかったかな?」

「いえその・・・嬉しいです」

 照れ臭さを誤魔化す様に顔を背け弁当を突き出す玲於奈、ラブレターを渡すわけじゃないのに見てるこちらの甘く蕩けてしまいそう。

 例えるなら口の中いっぱいに和三盆を詰め込まれた感じ。


「・・・じゃあ玲於奈って呼ぶね!よろしく!」

 柚乃はニコッと笑いかけると、ブロッコリーを一つ自分の弁当に移し代わりに大判の唐揚げをあげた。


「よかったなー玲於奈!コイツ恥ずかしがり屋だから仲良くしてやってくれよな~」

「余計なこと言わなくていいから!」

 おお、いい表情で親友に怒ってる。


「あたしもタメでいいゾ~!」

「わっ、わたしは柚乃ちゃんで・・・呼ぶ時は好きに呼んで!」

 女子四人の和気藹々とした空気にそれぞれ似たようで異なるキャラの掛け合い。

 これから青春部活物のストーリーが始まりそうな予感がするが、残念ながら僕もいます。


「えー玲於奈の家ってあの大きな一軒家なんだ!」

「あたしも住んでるんだ~」

「皆地元が同じだなんて、すごい偶然ですね!」

 気が付けば混ざれぬ女子トークの渦中に佇む蚊帳の外系男子。

 途中向かいのコスモが女子とは思えぬ警戒心のなさでスカートの中を曝け出しており、小生はその内なる神秘を覗いてしまい隣の玲於奈にジィっとジト目で睨まれてしまいました。

 しかしその眼差しに覚えがある瑠衣。

 気が付かなかったが彼女はあまりこちらに目を合わせようとはしてくれず、僕が視界に入るたびスンと目を逸らしていた。



「で部活なんだけどさー」キーンコーンカーンコーン

 すっかり打ち解け楽しい昼食を楽しんでいると昼休憩の終わりを告げるチャイムが鳴る。


「あっ、そろそろ行かないとね」

「だね~!最初の方はなにかと勝手がわからないだろうし」

 四人と一人は弁当を畳み席を立とうとすると、


「よっ!」


 ウズウズしていたコスモはぴょんとジャンプをして地面に着地する。

 その際にバランスを崩し、前のめりになった結果・・・、



「えっ!?」


「「「!!!」」」



 瑠衣にちょうど、抱き着く形をとってしまった・・・。


「わっ、ごめん!いたんだ!?」

「(ひどっ!?)」

「うそうそジョーダン!怪我無いか?」

「ないけどそっちは?」

「あたしもダイジョーブイ!」

「因みに僕の名前言える?」

「えーと」

「名前も覚えてくれてなかったの!?」

「わははっ!瑠衣だろ瑠衣!」

「わざとかい」


 事故とはいえいきなり公衆の面前で男子ととらぶるが起きたのだ、他の三人は怪訝な顔つきで二人のやりとりを眺めていた。

 いや、正確には彼と関係があるだからこそ、気が気ではなかっただろう。


「気をつけてねコスモ」

「ゴメンって!」

「僕も大丈夫だし、早く戻ろう」

 先頭を歩くコスモと玲於奈はまだ言い合っていて、その後ろに僕らも続く。


「二宮くん大丈夫?」

 咲穂は心配そうに顔を覗き込んできたが、割かし近い距離感なのでおおぅっと吃驚しながら大丈夫と答える。


「よかった、今更かもしれないけど、改めてよろしくね」

「あっうん、よろしくね」

「・・・うん、本当によろしく」

「?」

 咲穂は翳りを帯びる表情でグッと笑顔を振りまく。


「・・・」

 そして先刻から静かに眺めていた少女が一人、つまらなさそうに口を窄め弁当を持つ片腕を、小さく抓った。





 本当は二人だけで食べたかったという我儘な願いを潰すように。





 因みに紗百合はというと、瑠衣が女子四人に囲まれていて完全に出るタイミングを失い、物陰からジッと彼の背中を見つめていたらしい・・・。





 ♦♦♦♦


 今回はここまでです、読んでいただきありがとうございます。

 ほぼ毎日更新でやろうと思いますので、明日もお楽しみに。


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