エピローグ
第71話 彼女の願うこと①
「皆さん、お待たせいたしました。これより映画『潮風に誘われ、泡となりつつ真夏の唄』の試写会を行いたいと思います。それではキャストを紹介いたします」
東京某所である映画の記者会見が行われようとしていた。会場にはたくさんの観客。司会のアナウンサーが明るい口調で進行していく。
その様子を“彼女”は緊張した面持ちでみつめている。なにせ、初主演映画の試写会だ。アイドルをやめて、女優に転身してから数年。いくつもの脇役をやらせてもらったのちにようやく主役をゲットした。
しかも彼女が生まれ育った故郷での撮影ということもあって、思い入れもある。
映画が完成してようやく試写会。撮影が終わってからこの日まで“彼女”は完成品を見たわけではなかったのだが、監督はいい作品になったというし、“彼女”も演じていく中でそれなりに手応えを覚えた。きっとよい作品に仕上がっているだろう。
それを見ることの楽しみもあるが不安もある。はたして、観客は楽しんでもらえるのか。
それよりも、これからはじまるトークショー。うまく話すことができるのか。
胸がドキドキして止まらない。
「緊張するわよね」
すると、だれかが肩をたたく。振り向くと、今回映画の主題歌を担当してくれた歌姫の姿があった。歌姫が微笑みかけてくる。
「べつに緊張してなんていないわ」
思わず強がってみるが歌姫にはお見通しなのかもしれない。あいかわらず、明るい笑顔を浮かべている。
「そろそろ呼ばれるわね」
歌姫の言葉のとおり、アナウンサーがキャストの名前を呼び始めた。まず最初に監督を紹介する。
つぎが“彼女”だ。
「それでは、続きまして主演の“美国美也子”さんです」
呼ばれた。
“彼女”の芸名がよばれる。
“彼女”は深呼吸をするとステージへとあがる。それから、次々と出演者がよばれる。
そして
「最後に今回の映画の主題歌を担当されました歌姫、
名前をよばれた歌姫もまたステージへと歩んだ。
「えっと、今回主演をつとめさせていただきますアリア役の美国美也子です」
緊張しながら“彼女”が自分の芸名を名乗る。
美国……
ビクニ
その名を名乗るたびに“彼女”はひとりの少女の姿を思い出してしまう。
突然、自分の前に現れて、突然別れをつげた少女。
──美也子、私はやっぱり女優になれないわ。
ビクニは、“彼女”矢ケ部美也子と別れるときにそう告げた。
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