第63話 何者①

 朝矢たちへと迫ってきているのは明らかに人間だ。


 朝矢の持つ弓矢は霊力によって生み出されたもので、霊的存在である妖怪や鬼といった類いのものにしか通用しないものだった。それにもしも、人間にも通用する普通の弓矢だったら、朝矢はただの犯罪者になってしまう。


 さてどうしたらいいのか。


「がああああ!」


 模索しているうちに一人が朝矢に襲いかかろうとするもすぐそこまで迫っていた。


 朝矢はそれを蹴り飛ばす。


 しかし、すぐに別の人間が襲いかかってくる。


「気絶さすっしかなやんか!!」


 朝矢は遅い来る人間たちを次々と殴り蹴りしながら転倒させていく。


 自分達に向かってくる人間は子供から老人までおり、一人一人はさほど強くはないのだが、さすがの朝矢もか弱そうな子供をなぐるのは気が引ける。しかも百人はいそうな数だ。



「くそっ、どうすんだよ! ぼけええ」



 朝矢が思わず叫んだ。



「走れ! おれが食い止める! だから、その子をつれてはしれ」


 すると、声が聞こえてくる。同時に朝矢のすぐそばまで近づいていた十数人の人間が次々と地面に倒れていく。


「芦屋さん」


 尚孝は羽交い締めにしていた男を地面に転がすとすぐ後ろに迫ってくる大男を肘でみぞおちの辺りを打ち付ける。大男はよろめき倒れる。


「距離をとれ。そしたら、見えるはず。ちゃんと操っている核の部分があるはずだ。そこを射ぬけ」


 尚孝は指をさした。そちらの方向には堤防があった。


「わかった! いくぞ」


 朝矢はビクニの手を掴むと堤防へと向かって走り出す。


「ちょっと! あなたっ!」


 ビクニは自分達に襲いかかってきた人間たちの相手をしている尚孝のほうへと視線を送る。


「大丈夫だ。あの人は強かけん」


「でも……」


「いいからこい。とにかく、おそこの堤防にいく」


 朝矢はビクニの腕をしっかりと握りしめたまま堤防へと登り、ビクニを堤防の向こう側にあるテトラポットのほうに降りるようにいう。


 しかし、彼女は一度振り向いただけで降りようとはしなかった。その意図がなんとなくわかった朝矢は彼女を背中に隠しながら、尚孝が戦っている方向へと視線を向ける。


 朝矢たちを襲いかかっていた人間たちのほとんどが地面にぐったりと倒れており、あと数人といったところだ。そこには美也子の姿があった。美也子はその場から動かずにじっと尚孝の戦いをみているようにみてる。


 なぜそんな行動をとるのか朝矢にはわからない。


「動けないのよ」


 そんな疑問を抱いたいことに気づいたビクニが説明しはじめる。


「わたしが彼女の霊力を吸い付くしたから、しばらくは動けないの。たとえ、その器にあの人がはいりこんだとしても同じよ。肉体が極端に疲労している状態にあるから、簡単には動かせるはずかないわ」


「おいおい、まじかよ。霊力なくすと死ぬとかじゃなかとか?」


「そんなはずないじゃない。それに霊力もたない人間もいるわよ。彼がそうでしょ」


 ビクニは尚孝を指差す。


 たしかにそうだ。尚孝には霊力がない。それなのにピンピンしているではないか。


 けれど、霊力をなくすと体力的に疲労してしまうらしい。


「わたしもよくわからないわ。そういうシステムになっているのよ。それでどうするつもり?」


「決まっている。芦屋さんのいうとおりに見つけるさ」


 そういいながら弓矢を構えた。


「あの人のこと? いったいあの人なにもの?」


「……警察……」





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