第62話 バットを振るう
「うーん。あらかた片付いたねえ」
その頃フェリーの上ではのんびりとした口調で
そのなかで元気なのは一人佇む桃志朗とひとりではしゃぎまくるナツキ。そして、和装に身を包んだ謎の女性の姿だけだった。
「さてと……どうしますかあ。あとは君だけだよお」
相変わらず飄々とした口調で話す桃志朗にたいして、女は自分の歯をぎっと噛む。
「この陰陽師めが!」
女は桃志朗に向かって駆け出した。
すると、桃志朗が大きなあくびをして座り込んだ。
思わぬ行動に女の足は思わず止まる。
「おぬし! われをバカにしているのか!」
苛立ちをあらわにした女の顔が歪み血管が浮き出ていく。
筋肉が大きく膨れ上がりからだ全体が二倍ほどの大きさになった。
「うーん。そんなに筋肉質だと男にもてないよ~」
それでも余裕綽々な態度をとる優男の姿に女は一瞬たじろぎがすぐさまその太くなった拳を桃志朗にぶつけようとした。
「ナツキ~」
「はーい♥️」
桃志朗が呼び掛けるとナツキが桃志朗と女の間に割り込むなり、持っていたバッドをおもいっきり振るい女の額におもいっきりぶつける。
バキーン
なにかが壊れるような音がするとともに女の体が後方へと吹きとばられる。
「ホームラン!」
女は悲鳴さえもあげることなく海の中へと真っ逆さまに落ちた。
「えい! ナイス! ナツキ」
桃志朗は能天気にガッツポーズをした。
「このこしゃくなあ!!」
しかし、女は額から血を流しながら再び船の上に姿を現す。
「あれれえ? 」
ナツキが惚けたような声をだしながら女を眺める。
「くそがきっ!!」
女は鬼のごとく顔を歪めナツキのほうへと飛びかかる。
「わーい! わーい」
それなのにナツキは楽しそうにバッドを構えて女を待ち構える。
女の両手の爪のみが凄まじいスピードで延びていきナツキへと襲いかかる。爪はナツキをすり抜けて船の床へと突き刺さった。
「おりゃあああ」
ナツキはバッドを振るい長く延びた爪を思いっきり叩き割る。
そのせいか、バランスを崩した女はそのまま横へと倒れこむ。
「だあああああ!!」
ナツキはすぐさま女のほうへと駆け出し、すぐ上へと飛び上がるとそのまま女へとバッドを振り下ろす。逃げる間もなく女の後頭部がバットによって押し潰され船のデッキの中へと埋もれた。
再び女が起き上がろうとするもナツキのバットは離れることなく押さえつけているために動くことができない。
(なんだ? このガキ? 動けぬ! なぜ動けぬのだ?)
女は視線だけをナツキに向ける。
ナツキは無邪気に笑っている。
女とナツキの視線が合う。
(お…に……)
女の中でそんな言葉が浮かんだ。
「ナツキ。その辺にしておきなさい。あとは僕がやるよ」
「はーい」
桃志朗の言葉でようやくバットを女から離す。
もう身動きがとれらはずなのだが、女は動こうとしなかった。
愕然と見開かれた目。体が微妙に震えている。
女の視線は飄々とした態度をとり続けている陰陽師のほうへと注がれた。
「おぬしは鬼を飼っておるのか?」
震えながら質問すると、桃志朗はにっこりと笑う。
「違うよ。借りているだけさ。まあ、そんなことどうでもいいけど、君の本体はどこ?」
女ははっとする。
「まあ、推測は付くけどねえ。というかそうしてくれないと困るよ。せっかくの計画が台無し」
「けい……かく……だと……」
女にはその意味するところが理解できずにいた。
「うん。計画。というか試練を与えてみたんだよ。あの子がどう切り抜けるか楽しみだね」
心から楽しんでいるかのようにいう桃志朗に遠くで見物してきた桜花たちが顔を歪めていた。
「あの弓士の小僧か? あんな
「ふーん。ちゃんと知っているんだね。でも、大丈夫だよ。あの子には尚孝がついている」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます