第60話 不吉な予感
手長足長を片付けた朝矢は彼女たちを追いかけて、浜辺のほうへと向かった。
すると、そこにはぐったりと倒れている美也子と佇むビクニの姿があった。ビクニをみた瞬間に先程まで見え隠れしていた霊力が満ちていることに気づく。
「お前、そいつの霊力全部吸っちまったのか?」
朝矢の言葉にビクニが振り返る。
「おまえ……」
彼女はいまなにが起こっているのか理解していない様子で茫然と朝矢を見つめている。
「お前がその女の霊力を吸いとったのかときいている」
それでも朝矢は敵意まるだしでもっていた弓矢を構えて、その先を彼女に向ける。
彼女はどうしていいかわからずに首を横に降りながら後ずさる。
「わたし……そんな……つもりじゃ」
その言葉はたどたどしい。
それが演技なのか本気なのか朝矢にはわからない。ただ確実なことは、ぐったりと倒れている少女と先程まで顔色が悪かったはずのビクニという少女に生気が戻っているということだけだ。
ビクニは地上で暮らす人間ではない。
朝矢たちとは異なる海のそこにあるという国で暮らす住人の一人だ。それは彼女から流れてくる霊気でわかる。なんというか潮の薫りが濃いのだ。
(こいつがあの亀が探していた姫ってやつか)
その霊気で確信する。
この娘をあの亀の元へつれていけばよいのだろう。
それで今回の仕事は終わりだ。
けれど、本当にそうなのだろうか。
このまま、彼女を連れていっていいのか。
朝矢はなぜか躊躇する。
「わたしは……。ちがう! ただ私は、私は」
彼女は徐々に後方へと下がっていく。彼女の背後には海がある。
穏やかだったはずの海が徐々にざわめき始めている。
「ごめんなさい。ごめんなさい」
彼女は頭を抱えながらしゃがちこんだ。
その背後にある波の音が激しく聞こえてくる。
「美也子。ごめんなさい。私はただ楽しかっただけなの!」
彼女はぐったりと倒れている美也子に手を伸ばした。その瞬間、彼女の腕が突如として液体化してそのまま消え去ったのだ。
彼女は肘から先のない腕を茫然とみている。
どうやら、彼女自身の自分の身になにが起こったのか理解できないでいるようだ。
「なによこれ? どうして? どうしてなの!?」
ビクニの声は荒々しくなっていく。
その視線は一度朝矢へと向けられる。
「……おまえ……」
朝矢はビクニと視線があった瞬間、弓矢をおろして彼女をみる。もうすでにその視線はそらされ、倒れたままになっている美也子のほうへと注がれた。
その瞳は怯えている。
たしかに助けをもとめているように感じた。
こいつはそのままあの亀のもとへ連れていってよいのだろうか。
もっと重要ななにかが起こるのではないか。
朝矢のなかでなにか不吉な予感が漂っていく。
構えるべきか
構えぬべきか。
その矢先はどこを狙うべきか。
このビクニという少女か。
それとも、
その答えがでるまでにさほど時間は要さなかった。
突然
先程までぐったりと倒れていた少女が操り人形のようにゆっくりと立ち上がったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます