第30話 海からの依頼①
桃志朗に半ば強制的に射的をさせられた尚孝はようやくそれから解放されてほっとした。
そこでようやく周辺に人だかりができていることに気づいてぎょっとする。
「君。すごかった」
「百発百中たい。いったい、何者ね」
好奇心丸出しに観客たちの四川を浴びた尚孝は口をあけたまま立ち尽くすはめになった。
「はーい。みなさん。あまり見ないであげてくださーい。この人照れ屋なんでええ」
そんなことをいう桃志朗の笑顔はあきらかに面白がっていうことがわかる。
その腕のなかには尚孝が射的でとった商品がにぎられている。
尚孝は目を細めながら桃志朗をみた。
「本当にすごかーー」
その様子を見ていた朝矢がいつになく高い声をあげる。
伊恩はそんな彼の横顔を見ていて口許に笑みを浮かべる。
「なんね。その笑顔」
それに気づいた朝矢が伊恩を横目で見た。
「いやねえ。あーくんってさあ。あの人。すいとっとねえと思ってさあ。恋い焦がれとる感じ?」
「はあ。そがんことあるかあああ。おいはそっち系じゃないけんの。尊敬はしとるけど」
「はははは。じゃあ、やっぱり彼女?」
伊恩は朝矢にだけきこえる声でいいんがら、視線を愛美のほうへと向ける。
愛美は隣にいる桜花となにやら話をしているようだった。
「ちげえよ」
朝矢は愛美のほうを一瞥すると正面をみる。
「あーくん?」
その否定をいうときのテンションが妙に歯切れが悪く低いことに伊恩は違和感を覚えた。
(うーん。なんかややこしそうだなあ)
伊恩はそんなことを考えた。
「朝矢くん。ちょっといいかい」
そのときだった。さっきまで尚孝の射的を楽しんでいたはずの桃志朗が朝矢たちのほうへと近づいてきたのだ。相変わらず、飄々とした顔をしている。
「どがんしたとや?」
朝矢が尋ねる。
すると、のんきだったはずの顔が一瞬固まる。
その視線は伊恩や龍仁に注がれた。それがどういう意味なのかはわからないのだが、どうやら伊恩たちには知られたくない話が朝矢にあるらしいことぐらいは察せられた。
「伊恩。そろそろ彼女来るとやなかとや?」
龍仁が口を開いた。
伊恩は携帯を開いて時計をみる。
「あっ、メールきとった。もう会場の入り口にきとるって、おい、いってくるけん」
伊恩は慌てて駆け出す。
その様子を見送った龍仁が朝矢のほうを振り向く。
「朝矢。僕、トイレいってくるけん」
「ああ」
龍仁はそういって去っていった。
それを見送った朝矢はもう一度桃志朗のほうをみる。
「それで、あんたがわざわざここにきた理由ってなんや?」
朝矢が問いかけると、桃志朗がにっこりと微笑む。
「決まっているよ。きみたちへの依頼」
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