第29話 縁日へ行こう⑤
セイラは海から現れた謎の少女に引き連れられるままに縁日のほうへと向かうことになった。
「ちょっと。なにするのよ」
「いいから、いいから」
セイラはその手を離そうとするもビクニという少女はつかんだままで離そうとはしなかった。ふりほどこうとすると一層に力を込める始末だ。
いったいどういうつもりなのかわからないが、解放するつもりはないらしい。
どうせまだ時間はある。仕方なくセイラは彼女の意向に従うことにした。
「うわああ、祭りよ。まつりいい」
縁日会場へたどり着くとようやくそこで解放される。
ビクニはクンクンと臭いをかぎはじめた。
「美味しそうな臭いがするわ。いっかい食べみたかったのよお」
そういいながら、近くにあったフランクフルトの店へと向かった彼女は早速店員さんにひとつちょうだいといういっている。
「まいど。200円ね」
気前の良さそうな店員さんがいうと、彼女は満面の笑みをうかべながらこちらを振り向いた。
「おじさん、あの子が払うから」
「はあ。なんで私が?」
「だってえ、お金もってないもーん。だからお願い。あとで返すからさあ」
そうやって拝まれてしまった。
「まったく信じられないわよ」
そう悪態をつきながらも、セイラは自分のぶんのフランクフルトを注文すると彼女のぶんまで代金をはらった。
「ありがとう。セイラちゃん♥️」
そうやって笑顔を宇賀辺る彼女にセイラはただあきれるしかなかった。
「さあ、いきましょう」
彼女は浮かれ気分で歩き出す。
「まってよ」
そのあとをセイラはおった。
しばらくするとある店に人だかりできていることに気づく。
ちりんちりんと鈴の音がなると同時に「おおお」という感嘆の声が響き渡ったのだ。
「なにかしらああ。ねえ、いってみようよ」
そういいながら、ビクニはセイラに手を再び握ると人だかりのほうへと向かった。
パーン
パーン
「おおおおお」
すると、なにかがぶつかる音がしたかと思うと、人々の歓声があがり、再び鈴がなる、
「またもや、あたりでーす」
そういっているのは射的の店主だった。
何事かと思い、人を掻き分けながら射的のほうへと向かうと、一人のサングラスをかけた男が射的をして入佐意中だった。男がそのひきがねをひくと、的に見事に的中している。
それを終えたサングラスの男は状態を起こして、すぐそばにいる長髪の男を振り向く。
「もういいだろう?」
「もう一回だよ。ほーら、もうひとつぬいぐるみとってええ」
長髪の男がそういいながらコルクを渡している。
「お前がやれ」
さきほどまで射的をしていた男が優男にコルクを返した。
「ぼくじゃあ、だめだよお。そっち系はまったくなんだからさあ。ねえ、あと一回お願い」
そういって懇願している。
男はため息を漏らすと、コルクを受け取り銃口につめる。
再び腰を下ろして目標を定める。
「今度はあれね。あの小さいの」
長髪の男がいうと同時にコルクが銃口から飛んでいく。
雛壇に飾られている商品のなかでもっとも小さいであろう箱へとあたる。小さい箱は雛壇から転がり落ちた。
また鈴がなり響き、小箱をとった店長がサングラスの男に手渡す。
「あんた。すごかねえ」
そうだれがいっている。
「なにかあったんですか?」
セイラは思わず、近くにいた観客に話しかけた。
「あの人。さっきから十回ぐらい射的をしとるとばってん。いっちょん、はずさんとばい」
観客はそう答えた。
十回もやっていうこと自体驚きなのだが、それをまったく的をはずしていないことにさらに驚く。
はずれまくるから何度もやるというのならばわかるのだが、まったくはずれないのに何度もやるといはよほど好きなのだろうかとセイラは思っていたのだが、拝見している限りではそうでないようだ。
どうやら長髪の男に促されてやっているのは、彼のことをまったく知らないセイラでもわかった。
その証拠に「もういいだろう」とサングラスの男が長髪の男にいっている。
そういうことだろう。
セイラはそんなことを推測師ながら視線を別の方向へと向けた。
すると、そこにはセイラたちがイベント会場でであったバンドグループの人たちの姿があった。
「セイラちゃん」
そのときだった。隣から声がきこえて振り替える。
「私、やっぱり帰る」
「え?」
すると、セイラを強引に縁日へと連れてきたビクニという少女がきびすをかえすと走り出すではないか。
「え? え? ちょっとおおお」
セイラは思わず追いかけた。
*********
少し休憩
次回は9月5日更新予定
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