第31話 海からの依頼②

「はあ、行方不明の姫を見つけろだとお」

 

 桃志朗の言葉に朝矢は眉間にシワを寄せた。


 彼が言うのはこうだ。この日本海に面する玄海の海のそこには竜宮人とよばれる人たちがいるらしい。それをきくと思い出されるのが浦島太郎に出てくる竜宮城と乙姫ということになる。

 

 そこに暮らし、一族を統治していう長の娘が突然いなくなったのだというのだ。


「それで心配した長がぼくのもとに依頼にきたんだよ」



「おいおい。俺たちは探偵じゃねえぞ」


 朝矢が苦虫をかんだような表情をうかべながらいった。


「それもそうなんだけどねえ。なんかぼくのもとから離れないんだよねえ」


 そういわれてよくみると、桃志朗の背中になにかが張り付いているのが見えた。


「か……かめ?」



「かめだよね」



「かめにしてはふとすぎんか?」


 三人は口々に行った。


「かめではない!」


 すると、かめは桃志朗の背中から降りる。


 すると小学生の子供ぐらいの大きさのある亀が二本足でたち、両手を腰らしき部分にあてながら偉そうにふんずりかえった。


「われは竜宮の長ぞ。ひかえよ」


「はっ? なんだ。この亀。えらそうにしやがって」


 朝矢がムッとする。


「普通にえらいんじゃなかと? 長とかいいよらすし」


 桜花が少し忖度するかのようにいう。


「うーん。なんかやーらしかああ」


 愛美だけがなぜか目を輝かせて楽しそうにいうものだから、朝矢と桜花の視線はそちらへと注がれた。


(やーらしかああ? おいにはただの年老いた亀にしかみえんぞお)


 朝矢にはその亀が可愛いとは到底見えなかった。


 ただのえらそうな亀やろうにすぎない。


「そういうことで時間のあるときでいいから姫をさがしてくれよ」


 そういって桃志朗が笑みをうかべている。よくわからない。


 その姫とはどんな姿をしていているのかもわからないのにどうやってさがせばいいのかと尋ねようとしたのだが、そのまえに龍仁が戻ってきてしまった。亀は再び桃志朗の後ろに隠れる。


 それとほぼ同時に彼女をつれた伊恩が合流したためにこの話はここで途切れてしまった。


 結局は姫というものの捜索をすることになるのだが、それはとりあえずここでのイベントが終了してからにはなる。もう日がくれようとしている。


 あと少しでイベントが始まるのだ。

 

 そこではじめて多くの人の前に朝矢たちのバンド“レッド”のお披露目ということになるのだが、果たしてうまくいくのだろうか。

 

(こっちもこっちで大変なんだけどなあ。本当にあのやろう。突然依頼だすのをやめてほしかばい。こっちは暇じゃなかとけさ)


 朝矢は心のなかで口をこぼしながら、桃志朗を睨み付けた。


 それにたいして、桃志朗は微笑み返すだけで、それがいっそう朝矢を苛立たせる。


 いますぐに大暴れしたい気分だ。

 

 なにかやつあたりできそうなものがないかと朝矢は思わず周囲を探してしまった。




 


 

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