第21話 闘争心①
愛美は朝矢が向こうへ行ってしまうのを一瞬追いかけようとしたのだが、ステージ上で音楽が聞こえ始めると、反射的に振り返った。
これからローカルアイドルグルーブのリハーサルが始まるところだ。そのアイドルグループは五人組で皆地元出身の人たちだけで構成されているらしい。
最近はそれなりに露出が多く、ローカル番組なんかでたまに出演している姿を見ることがあった。その五人のうち四人は九州からは旅行以外で出たことがないとのことで九州弁を話しているが、いまさっき朝矢にぶつかった少女は標準語で話している。もちろん、きちんとしたものではなく、訛りがかなり入っているから中途半端なものにしすずなかった。そのことに関して、ローカルタレントがツッコミを入れたりしているところを見たことがあるが、決まって機嫌が悪くなる。
五人は立ち位置を確認する。
どうやらセンターが彼女らしい。
立ち位置が定まるとスタッフらしき男性が「少し曲流すよ」といった。
すると、伴奏が流れる。
その曲も聞いたことのあるものだった。
確か、ローカルのCMで流れている曲だ。
音楽に合わせて踊り始める。
気が付けば、愛美は食いつくようにその様子を眺めていた。
そして、歌いはじめる。
はやりローカルアイドルとはいえどもちゃんとレッスンを受けたプロだ。
うまい。
ときにセイラという少女の唄のうまさはとびぬけていると愛美は思った。
食い入るように見ていると、セイラの視線がこちらに注がれる。
ドキッとした。
一瞬身動きが取れなくなる。
脳裏には先ほどの愛美に向けた言葉を思い出す。
悪態をつく彼女。
でも、実力た確かなものだと思った。
「うーん」
愛美は思わずうなってしまった。
「どがんかしたと?」
いつのまにか隣にいた伊恩が尋ねた。
「負けてられんと思っただけばい」
「はい?」
伊恩は怪訝な顔をする。
「あの子たい。あの子」
愛美が指をさす。
その先にはセイラの姿。
「もう終わりばい。セイラ」
いつの間にか音楽が消えている。
ほかの四人はもう踊るのをやめているというのに、なぜかセイラは踊り続けていた。
それを停めようとしているメンバー。
「うるさい」
そういうばかりでなぜが踊って歌っているのだ。
「どがんしたとや?」
「さあ?」
伊恩も愛美もその様子に首を傾げていた。
ステージの様子がおかしいことに気づいたのか朝矢たちもステージのそでから彼女たちを覗く。
メンバーの四人がセイラを強引に止めている姿が見える。
「もういいかげんにせんね。いまからイベントの準備があるつちゃっけん。さっさとはけるとよ」
四人に強引に連れられて朝矢たちのほうへと戻ってくる。
「いやよ。もう少し踊るの」
「そがんと別でやる」
「そがんたい。なにをムキになっとるとよ」
メンバーに諭されるセイラ。
彼女は通りすがりに愛美を睥睨する。
愛美は咄嗟に朝矢の背後に隠れるようにしがみついた。
今度は愛美を離すようなマネをせずに、なぜか荒々しくなっているセイラを見つめていた。
やがて、彼女たちの姿が見えなくなる。
「なんやったとや? あれ?」
伊恩がつぶやく。
「しらん」
朝矢はこたえながら、愛美のほうを見る。
愛美はどこか不安そうな顔をしてセイラたちが消えた方向を見る。
(基本変わらんとやなあ)
朝矢は小学校時代の愛美のことを思い浮かべていた。
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