第17話 マザコンか!?

 というわけで、夏フェスに出場することにしたのだが、なにせ部活の合間に十分ほど練習した程度で本格的にやるのははじめてのことだった。


 朝矢は昔兄からギターを習っており、小学生のころからそれなりに触れていたためにそこそこ弾けるのだが、伊恩と龍仁がはじめて楽器にふれたのが高校一年のころ。しかも、この三年間で軽音楽器にふれたのはわずかな時間だった。とくに教えてくれる師匠がいるわけでもなく、独学で少し触れる程度だったためにほとんど初心者同然だ。



 とくに龍仁は酷い。とりあえずドラムを受け持っているのだが、どうもリズムがとれない。何度もずれてしまうのだ。


「おい! てめえ、またずれたぞ!」


 そういうときは決まって朝矢が怒鳴り付ける。


「はあ? おまえに言われとうなか! おまえなんて協調性すらないやんか! 独走しすぎばい」


 朝矢も朝矢でリズムはとれているのだが、周囲にあわせるでもなく暴走しがちな演奏をするのだ。


「てめえよりましたい! てめえはリズム感なさすぎ!!」



「ああ!! ぼくのどこがリズム感ないというとや!! ぼくは音楽センスあるってお母さんから誉められたことあるとばい」



「ああ。おまえ、マザコンか!! いまでもママとかいいよるとじゃなかか?」


「いうか!! いうたことなかぞ! 昔からお母さんたい。おまえこそ、実はママーパパーとかいいよるとじゃなかが!?」



「んなわけあるか! ボケ」


「まあまあ。あっ、俺はいうよ。ママとパパって」


 伊恩の発言に、朝矢も龍仁も一瞬で石のようにピタりと止まった。


 ほぼ同時で伊恩の能天気な笑顔を見る。


「マジで?」


「本気で?」


 二人は目を点にしながら伊恩に尋ねる。


「うん。昔からそうばい」



 伊恩の突然のカミングアウトに自分達が何でけんかしていたのかさえも忘れるほどの衝撃を受けてしまった二人は、なぜかうなだれてしまった。



「あれえ? どがんしたとね。あーくーん。ミッチー」


 半端ない脱力感に朝矢たちは、もはや伊オンに突っ込む気が起きなかった。



 その光景をみていた桜花が口を開く。


「柿添くんって、あなどれんばい」


「なーに? それ?」


 愛美が尋ねる。


「なんとなくだけど、あの三人のなかでボスは柿添くんってことたい」


「うーん、そがんかもね。朝矢が困っとる。ああいう顔も素敵かあ」


 そういいながら、笑顔を浮かべる愛美の横顔を桜花は目を細めて見る。


「あんたの場合、どがん有川でもよかとやろうもん」


「もちろんたい。うちはどがん朝矢だろうと愛せる自信あるばい」


 そういいながら楽しそうにウインクする。


 桜花はケンカをやめて演奏の準備をはじめた朝矢たちを見る。



(こがんも想われとるとけ、あいつはなして固くななんやろうか? )


 その事に桜花はただ疑問に思うのであった。




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