第16話 バンドのメンバー③



「てめえは断れ。つうか、松枝を説得しろよ」



 話を聞き終わった朝矢が苛立たしげに桜花たちへと怒鳴り付ける。


 愛美はその声さえも快楽へと変換されるらしく、「もう、そんなに起こらないでえ♥️」とのんびりした口調でいう。その一方で桜花は「うるさかねえ。よかやん。思い出作りたい。思い出づくり」と冷静な口調でいいながら、キーボードのチューイングをはじめているではないか。


 どうやらこの二人の少女たちはやる気満々なようだ。


 あからさまにハイテンションな愛美といたってポーカーフェイスの桜花。対照的なふたりなのだが、どちらにしたもバンドするつもりであることはわかる。


「バンドやるなら他でやれよ。おいのところにこんでよかろうもん」




「そがんいわんでよかたい。ねえ。朝矢あああ」


 どさくさに紛れて朝矢の腕に抱き着こうとする愛美を払いのける。


「テメエも易々とうけてんじゃねえ」


「そがんいわんでよかやん。ああ知っとるよお。これも朝矢の私に対する愛ばい」


「どこをどうみたら、そがんなっとやボケ」


 そう言いながらも、朝矢はギターのチューイングを始めている。


 文句を言いながらも、追い出すつもりはないらしい。


 そのことに伊恩は内心ほっとしている。


「よう口説けたな」


 ドラムの前に座る龍仁が伊恩に尋ねた。


「口説いたというよりは、なんか待ってました感があった」


「待っとった?」


「うん。そがん感じ」


 

 そういわれて龍仁が愛美たちをみると、伊恩の言葉の意味がわかる気がした。


 そういうわけで、


 ボーカル・松枝愛美

 ギター・有川朝矢

 ベース・柿添伊恩

 キーボード・澤村桜花

 ドラム・光吉龍仁


 その五人で夏限定のバンドを組むことになった。


 しかし結局のところは上京後から愛美がデビューが決まるまでバンド活動をすることになるのだが、そのころの彼らはまだ知らない。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る