第18話 夏フェスの予行練習①

 一学期の終業式が終わり本格的な夏休みに入る。

 

 引退した三年生は大学への進学や就職先などを決める重要な時期でもあ予行練習

ったりする。故に夏休みは遊んでばかりはいられない。 進学希望者は勉強にオープンキャンパスへの参加、就職組は就職説明会などへの参加などがある。もちろん、1ヶ月以上もある夏休みはそれだけで終わるはずがない。


 高校最後の夏休みを謳歌することも大切なことだ。


 というわけで、朝矢たちはなぜか海にいる。


 唐津にある海水浴場で、どちらかというと波が荒いとされている玄海灘のなかでも穏やかな波が特徴だ。海岸からは玄海灘に浮かぶ島々が浮かび、東の方向には城の天守閣が見えていた。


 もう夕暮れ時ということで、沈み行く太陽の光が照らされた沖合いや向こうにみえる島々に幻想的な彩りを与えている。


 まるで桃源郷やニライカナイへと繋がっているのではないかと思えるほどの美しさに誰もがうっとりとしてしまうのだろう。

 しかし、高校生の朝矢にはそんなものはどうでもいいことだった。


 それよりもこれから自分たちがやろうとしていることに不満があったのだ。


「まじでやると?」


 朝矢はノリノリの伊恩に尋ねた。


「まじばい。夏フェス前の予行練習たい」


 そういいながら伊恩は自分がもってきたチューイングを始めている。


「仕方なか。こいつがいいだしたら聞かんからなあ」


「てめえもやる気まんまんじゃねえか。龍仁」


 龍仁もドラムの準備をはじめている。


「ここまで来て、文句ばっかり言いよる君がどがんかしとる。まじでガキだな、君は」


「おいのどこがガキだ」


「そういうところに決まっとるやろうもん。つうか、君は文句ひとついわんときがすまんとか。なんだかんだいって君も乗る気まんまんじゃなかか」


 たしかにそうだ、悪態をつきながらもさっさと演奏の準備を始めているのだ。


 ここは唐津の海水浴場。今夜は花火大会が行われる予定で、海岸沿いにはでは出店が立ち並んでいる。多くの客が集まりだしてきている姿が遠くにみえる。


 朝矢たちが現在いる場所は浜辺にもうけられた特設ステージの上で縁日会場からは少しはなれた場所にある。どちらかというと海のほうに近い。


 そのステージでは花火が上がる前にちょっとした音楽イベントが行われる。そのメインが九州で活躍しているローカルアイドルがメインなのだが、その前座として朝矢たちが出演することになったんだ。いったいどんな経緯でそうなったのかは知らないが、終業式の日に伊恩が「唐津の花火大会のイベントにでることになったけんよろしく」と言い出したのだ。


 断る暇もなく、とんとん拍子でここまで来てしまった。


 正直いって、それなりに大きなイベントである唐津花火大会ライブイベントに出れるほどの技術なんでまったくもっているわけでもなのに、なぜこんな大きなイベントにでることができるのか。


「パパに頼んだ」


 伊恩はあっけらかんと答えた。


 とんだお坊っちゃまだと朝矢たちが思ったのはいうまでもないが、伊恩はまったくというほど気にしていない。



「ほらほら、軽く演奏できるすっばい。時間がなかっちっけん」


  そういったのは桜花だった。


  リハーサルの時間は五分ぐらい。


  楽器の位置関係や自分達の立ち位置を決めて、軽くさび部分を歌う程度で終わってしまう。


 そして、あと一分。


「サビだけいくけんね? はじめるばい」


桜花の言葉とキーボードの伴奏からサビ部分の演奏がはじまった。


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