第13話 けんかするほどの仲がよい
そして、二ヶ月後に戻る。
「断固断る!!」
「そがん言わんでさあ。頼んでくれよお」
朝矢が逃げるように教室から出ていくのを伊恩はすぐさま追いかけていく。
その後ろには少し距離をおいて歩く龍仁。
「なあなあ。頼むよ」
伊恩は朝矢を追い越して、前に立つと両手を合わせながら頭を下げた。
「冗談じゃねえよ。仕事以外はかかわりとうなかと!」
「仕事?」
伊恩は首をかしげる。
「もしかしてえ。あの娘も骨董店で働きよらすと?」
伊恩はなぜか興味津々に朝矢をみていた。
骨董店はいま朝矢たちのいる高校から電車を乗り継いで一時間ほどいった町にある。
少し山のほうに登ったところで周りを棚田に囲まれた古民家にポツンと存在しているような場所だった。どうみても客なんてまったくこないだろうという立地条件なのだが、意外の客がいるらしい。
そこで高校生である朝矢がバイトしているのだ。
朝矢の通う鎮西徐福高校は基本的は自由な校風だった。
髪を染めてもよし、バイトしてもよい。
偏差値もそんなに高くないから、ある程度授業をさぼっても文句もいわれない。赤点ラインが10点以下なうえに追試はなく、一時間追加授業を受ければいいというクラスもあったりする。
まあ、その場合は工業コースや農業コースになるのだが、基本的に筆記よりも技能のほうが重視されているのだ。技能テストさえ良ければよしとするというアバウトな風潮があったりする。
ちなみに朝矢のクラスは進学コースだ。さすがに赤点ラインは40以上で、それ以下ならば、追試もある。
それをクリアしておけば、バイトは許されていた。
「おいおい。あそこの高校はバイト禁止やろう? よかとか?」
「おいが知るか」
龍仁の言葉に朝矢はつっけんどんに返す。
「その態度がムカつくとさ。いい加減に切れんのやめんかい。どこのぼっちゃんや」
それに対して苛立たしげに返す龍仁。
「キレとらんぞ。どこがキレとるとや」
「どがんみても、キレとるやっか。その短気なおせっていいよるとよ」
「うるせえ。だから、キレとらんっての」
「いやいや。普通のキレとる。つうか、キレるところ違うよね。ねえ、いい加減にしない? きみたち」
しばらく静観していた伊恩が朝矢と龍仁の方にポンポンと手を置く。
ふたりが振り返ると、なぜか伊恩が不気味な笑みを浮かべている。
「それに……いつものことばってん……注目の的になっとる」
気が付けば、クラスメイトたちの視線が朝矢たちに注がれている。
「また始まった」「もうクラスの風物詩ね」「今度は殴り合いせんとかね」などなどのクラスメイトたちがぼそぼそと話している。だれも止めようとするふうでもなく、彼らのけんかを楽しんでいるふうでもあった。
なにせ、この二人は入学式初日から乱闘を起こしてしまったのだ。それからというものなにかと喧嘩をしたがる。口喧嘩で収まることのほうが多いのだが、乱闘になることもそれなりにあった。その度に伊恩が止めに入ることになり、最終的に先生からの呼び出されるといった具合だ。
それなのにモテる。
とくに周囲から怖がられているふうでもないのは、喧嘩はあくまで二人の中だけでおさまっているからだ。他に危害が加わるわけでもない。
けんかばかりしているのに結局一緒にいるというのは、「けんかするほど仲がいい」ということわざをそのまま実体化させているようなものだ。
「やるよう」
「ああやめよう」
最終的にどちらからともなく終わりを告げるのだ。
「それよりもおおお。松枝さんのスカウト頼むよおお」
伊恩は話題を戻した。
「却下」
「ええ。よかやん。よかやん」
「いやだ。せからしか。他にもんにしろ」
「いーやーだー。絶対に松枝さんがよかばい」
「しつこか。マジで。ぜったいにいやだ」
朝矢は思わず叫んでしまった。
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