第9話 玉ねぎ畑の騒動④

 それから、どれくらい玉ねぎの化け物との戦いを繰り広げていたのだろうか。



 玉ねぎの化物はとにかくすばしっこい。


 いくら攻撃したもすり抜けてしまうものだなら、朝矢の苛立ちは募るばなりだ。


 それに加えて、のんびりと座ってブラックモンブランまで食べ始めた土御門桃志朗の態度に拍車をかける。


 ブラックモンブランというのは、九州を中心に販売されているアイスのことだ。


 バニラアイスの上にチョコレートとサクサク感のあるクッキークランチでコーティングされた九州に暮らす人ならだれもが知る昔ながらのアイス菓子のことである。


 値段もそれなりにお手頃なうえに、アイスに突き刺している棒には当たりクジがついていて、「あたり」がでたら、もう一本貰えるなどの特典がついている。




「てめえ、アイス食べとんじゃなかぞ!こらーー」


 朝矢が指を指しながら怒鳴りつけるも、桃志朗は、「わーあたりだー」とまるで子どものようにはしゃいでいる。



「くそたれーー。ぜってえ、ボトウチ! くらすっ」


 玉ねぎの化物が朝矢に襲いかかろうとする。それを避けながら、矢を放つ。その矢はたまねぎの目らしき部分に突き刺さる。


「ターマーネーギー‼️」


 玉ねぎの化物から鳴き声がもれる。


「なんじゃそりゃーー。鳴き声がたまねぎぎかよ!!」


 朝矢はおもわず突っ込みを入れる。


「涙がでるうう。眼がいたーい。朝矢ーーたすけてーー」


 そういいながら、愛美が抱きつこうとしてきた。



 朝矢は彼女の頭をおさえつけた。


「どさくさに紛れて抱きつくんじゃなか!

 目が痛かとはおいも同じばい! くそおお。しぇからしか!! 眼がしめて見えんごとなりよったい! このたまねぎやろう」



 朝矢の目もたまねぎがしみて涙が浮かぶ。そのせいで目の前がかすんでくる。



「そこのふたり。遊んどらんで集中せんか」


「そがん」


 桜花と哲之の姉弟はなんともないのか、さっきから攻撃を休めない。


「てめえら、どがんもなかとか!」


「ぜんぜん」


「おいはたまねぎラブやけん。へーき」


 そんな言葉が返ってきた。


「てめえら、どがん体しとるんじゃい!!」


 そう突っ込みながらも朝矢はかすむ眼で矢を放つ。しかし、狙いがまったく定まらず、たまねぎの化物をすり抜けるばかりだ。


「タ~マ~ネ~ギイイイイ!!」


 玉ねぎの化け物が叫ぶと、空気が揺れる。地面が揺れると同時に地面から無数の普通サイズの玉ねぎたちが飛び出してきた。どれもが目と口。両手両足がある。


「うわー、大量に出てきたばーい」


 桃志郎と反対側のあざ道に立っていたナツキが無邪気な声を上げる。


 小さな玉ねぎの化け物たちはたちまち朝矢たちへと襲い掛かる。


「きりがなかやっか。野風、こいつら吹き飛ばせ」


「御意」


 朝矢の合図とともに忽然と野風が姿を現す。そして、遠吠えを響かせると同時にものすごい風が巻き起こり小さい玉ねぎの化け物たちを吹き飛ばしていく。


「「「「「「たまねぎーーー」」」」」



 小さな玉ねぎの化け物たちもそんな声を挙げながら吹き飛ばされ、たちまち消えていく。


「たまねぎ。たまねぎやかましか。もう十分わかったけんが、アピールやめんかい」



 朝矢は思わず叫んだ。


「ちょっと、無駄に怒らんでくれんね。うるさか」


 桜花があきれたようにいいながら、自分たちに襲い掛かろうとする小さな玉ねぎの化け物たちをカードを投げて消していく。


「ふふふふ。そういうところもよか。めぐみハイパーキラキラアタックううううう」


 そういいながら、魔法のステックの矛先を小さな玉ねぎの化け物の群れに向ける。すると、ステッキの先から光が放たれ、玉ねぎの化け物たちがかき消されていく。


「そのネーミングやめてくれんね」


「よかたい。気分ばい、気分」


 そういって、どこか楽しそうに笑っている。


「うりゃあああああ。くくく。玉ねぎーーすまん。俺き愛しとるばい」


 そういいながら、長刀で次々と玉ねぎを切り裂く哲之。


「くそおおお。きりがなかやっかあああああ」


 朝矢は次から次へと矢を放つ。


 その片隅に今度はあくびを始めた桃志郎の姿があった。



「がんばれーーー。もう少しだよーん」


 反対側ではやたら応援するナツキの姿。


「もうそろそろだね」


 すると突然桃志郎が立ち上がる。


「朝矢くーん。山男と野風を南と北のほうへ向けてくれるかい」


「は?」


「よかけん。早く、早く」


 意味が分からない。


 その笑顔に奥にはどんなことを考えているのか朝矢にはさっぱり理解できなかった

 できなかった。


「山男は南へ。野風は北へ」


 どうも腑に落ちないながらも桃志郎の指示に従った。


「山男。野風。霊力放出ううう。僕も放出。とうさんも大放出ううううう」


 

 ナツキはそういいながら両手を大きく広げた。


「そういうことで君たちはたいさーん」


「ちっ。そういうことかよ」


 朝矢たちは即座に玉ねぎ畑から出ていく。同時に桃志郎は両手を重ね呪文を唱え始めた。それに呼応するかのようの二匹の霊獣が遠吠えを上げ、ナツキが目をしっかりと閉じる。


 その様子に戸惑っているのか。たまねぎの化け物が右往左往する。



 「ぎゃあああああ。たーまーねーぎー」


 その直後、たまねぎの化け物は金縛りにおったかのように動けなくなった。 


「今だよ。朝矢くん」


「へいへい。つうか最初からやれ」


 そう悪態つきながらも矢を放つ。


 矢は見事に玉ねぎのお化けの中心あたりに突き刺した。たまねぎの化け物は矢に吸い込まれるように消えていく。同時に小さなたまねぎの化け物たちも地面の中へと逃げるように潜っていった。


 やがて、玉ねぎ畑に静寂が戻る。


 しかし、玉ねぎたちは枯れたままだ。


「どうするんだよ。これじゃ、北村さんちの玉ねぎ食べられんよ」


 その光景を見ていた哲之が地面に膝を付けうなだれた。


「だーいじょーぶ💛」


 そのとき、愛美が仁王立ちになって自信満々な顔で枯れ果ててしまっている玉ねぎ畑を見る。



「そういうわけね」


 彼女がやろうとしていることがなにか最初に気づいた桃志郎がポン自分の手のひらを叩く。


「大丈夫なのか?」


 朝矢が尋ねた。



「大丈夫。これは玉ねぎ化け物の霊力で枯れただけばい。その原因が取り除かれたとやっけん。うちの歌声でなかったことにすればよか」


「はあ? それって記憶やろう? だいの記憶を操作すっとや?」


 朝矢は正直な疑問を投げかける。



「決まっとる。玉ねぎたちの記憶たい」


 愛美は自信たっぷりに答えた。


 その意味が理解できずに朝矢は、眉間に皺をよせた。




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