第7話 玉ねぎ畑の騒動②

「玉ねぎが一瞬で枯れてもうたーー!!」


 北村のおじさんが顔を青くした農協へとやってきたのは、朝矢たちが玉ねぎ畑を訪れる数時間前のことだった。さて、刈ろうかとしたときに玉ねぎがみるみるうちに枯れていったのだ。


 それだけじゃない。キャベツもニンジンもゴボウも北村が端正込めて育ててきた野菜たちが次々と枯れていく。


 一体何が起こったのかわからずに、とりあえず北村の畑から車で五分足らずのところにあった農協へと軽トラックを走らせた。


 もちろん、農協の職員たちは「なにをいっているんだ?」といわんばかりの冷たい眼差し。


「ほんなごてたい! 嘘じゃなか!! 見に来てくれんね」


 興奮ぎみに話す北村。どうしたものかと困惑している職員の一人が北村のほうへと歩み寄る。


「わかりました。見にいき……」



「僕が行きましょうか?」


 すると別の方向から声がして、北村も職員も振り返った。


 そこには二十代半ばほどの長い髪をうなじのところで結んだ優男が、ニコニコと笑ってきた。


「職員さんも忙しかやろう? だから、僕が見にいくけん」


「あっ、君かあ 」



「はい。僕はこの街の味方です。なんでんやります。なんでもやでーす!」


 そういう青年のそばには確かに老婆の姿があった。そういえば、たしかにちょっと職員は北村が農協に入ったとほぼ同時に老婆をつれた青年が入ってくるのをみている。


 しかし、北村の勢いでその存在は打ち消されていた。


 けれど、青年の存在は彼の一言で一気に増していく。職員もその場に訪れたら人々も彼に注目した。


「確かに親切やねえ」


 職員の一人がいう。


「うんにゃ、ありゃあ絶対裏があるばい。ほれほれ、その証拠に桃志朗くんの手にもっとる袋から人参のこぼれ落ちようちひよるじゃか」


 彼のすぐ隣にいた老人が言った。


「いやあ、別に賄賂もらうたわけじゃなかですよ。トミばあちゃんがどうしもっちゅうからもろうたとよ」


 そういいながら、ニコニコ笑う。


「そがんよ。桃志朗くんにはよーしてもらいよるけん。お礼たい」


 隣にいた老婆がそう弁明する。


「そがんことよか。わしの畑どうにかしてくれんね! 枯れとるとぞ! こいば解決したぎんた。お礼ばするけん」


「そんなものいらんです。とにかく、行きましょうか」


 そういいながら、桃志朗と呼ばれた青年は野菜の入った袋をかかえたままで歩きだした。


「いつもすまんねえ。土御門くん」


 そう言ったのは、北村の近くにいた職員だった。


「いいえ。息子さんにお世話になっとりますんで、そんぐらいしますよ」


「いや、うちの息子も含めて、お礼をいいよるとですばい」


 職員がそういうと、桃志朗がニコリと笑う。


「行きましょうか」


 桃志朗は北村のほうをみる。



 北村はどうしてよいのかと戸惑いながら、職員のほうをみる。


「大丈夫じゃけん。安心してください」

 


 そういう職員。



「行きましょうか。あー、ついでに息子さんお借りすっかもしれません」


「わかっとります。でも、あんまし、息子を振り回さんでくれんね。卒業してもらわんといかんからなあ」


「大丈夫です。授業時間足りんごとならんようにしてますから」



 桃志朗は北村を連れて出ていってしまった。



「息子さんと知り合いなんですか?  有川さん」



 来客としてきていた老人が訪ねる。


「息子の同級生たい」



「え?」


 老人は目を丸くしながら出入口のむこうにあるトラックに乗り込もうとしている桃志朗の背中を見る。



「あれで高校生とか思ったとじゃなかかあ。じいさん」


 その老人の隣にいた老婆がいった。



「えっ?  なるほどなあ。上ん子の同級生ってことかい」


「そういえば、まだ見つかっとらんとやろう」


「おいおい、鳥巣のばあちゃん」


 鳥巣とよばれた老婆が思わず、口をふさいで、有川と呼ばれた職員をみる。



「よかよか。みんな知っとることばい。でも、あん子は生きとる。そのうち帰ってくっさ」


 そういって、有川はぎこちない笑顔を浮かべた。










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