第6話 玉ねぎ畑の騒動①
それは5月のある日までさかのぼる。
確かに朝矢は松枝愛美と玉ねぎ畑に訪れていた。もちろん、彼女とそんなところでデートしていたわけではない。ただの“仕事”で訪れていたにすぎなかった。それにそこには彼女以外にももう一人少女と彼女に似た少年がいた。
松枝愛美の友人であり、幼馴染みの澤村桜花だ。その傍らにいたのは、中学三年生になる彼女の弟で、哲之という。彼もまた朝矢と同じ“仕事”をこなす少年だった。
その四人ともう一人二十歳をいくつか過ぎたくらいの優男風の青年。その五人で玉ねぎ畑を訪れていたのだ。
優男はただのんびりと畑の間にある畦道に簡易椅子を置いて座りながら鼻歌を奏でる。
それ以外の朝矢たち四人は玉ねぎ畑のなかでなにやら奮闘していた。
朝矢は矢を放ち、桜花はカードをなげつける。桜花は魔法少女がもってほうなステッキを振りながら、意味不明な呪文を唱えていた。そして、桜花の弟の哲之は長刀坂を振り回している。
知らないものからみたら、こんなところで高校生たちはなにを遊んでいるのだろうとツッコミが入りそうなものだが、そこにいるのは彼らだけだった。
優男は退屈そうにあくびをしている。
「おい、土御門! 手伝わんかーー!」
朝矢はさっきから1人くつろいでいる優男に怒鳴り付けた。
優男は全く気にした様子もなく、頬杖をつく。
「いやーだー。それくらい、君たちでどうにかできるやん。君たち若かけんねえ。がんばりなはれーー」
「どこの年寄りだよ! お前もまだ25やろうが」
「なーにいってんだい。もう25だよーん。おじさんたい。おじさん」
そういいながら、今度はうちわでバタバタとし始める。
本当にやる気のなさが伝わってくるものだから、朝矢の苛立ちがマックスになる。
「ぜってえ、あとでくらすっ!」
そういいながら、矢を放つ。その矢の先には玉ねぎがあった。ただの玉ねぎではない。玉ねぎに口と目、両手両足の生えた妖怪だ。
その玉ねぎの妖怪がケケケケと不気味な声をあげながらそれをあっちへ飛んだり、こっちへ飛んだりしている最中だった。
飛んでは地面に着地。飛んでは着地する。
玉ねぎの妖怪が着地するたびにせっかく育った畑の野菜たちが枯れていっているのだ。
もうじき収穫を迎えようとした野菜が突然枯れた。そんな話題が出たなかで“祓い”の依頼が舞い込んでのだ。そこで“祓い”のバイトをしていた朝矢たちが現場となった畑に向かった。すると、そこには目と口のついた 玉ねぎの妖怪が暴れまくっていたのだ。
「やめんかーー!! 北村のおっさんがせっかく育てた野菜なんやぞーー」
そう叫んだ哲之が長刀坂を降り回り、次々と玉ねぎの妖怪を消していく。
「ここの玉ねぎさいこーなんやって、母ちゃんいっとたばい! 絶対にゆるさん」
「てめえの弟はいつか、玉ねぎ好きになったとや?」
朝矢が思わず桜花に尋ねたのは、哲之の怒り具合が異様だったのだ。
「玉ねぎは昔からテツの好物やったとよ。でも、北村のおじさんと仲良うなってから、玉ねぎ好きが増してしもうたというわけたい」
「その北村のおじさんって、土御門の横でのびとるやつ?」
「そがんたい」
朝矢たちの視線はのんびりと椅子に座ってこちらを見ている優男の足元で目を回して気絶している中年の男の姿があった。
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