第4話 何部にするか
高校でクラスメイトとして竜仁が出会った朝矢。
中学時代はサッカー部のエースストライカーだったことは、竜仁も知っていた。だから、高校の入学式には、サッカー部の先輩たちが朝矢を勧誘に訪れてきていた。
そのままサッカー部に入るのかとおもいきや、「おいはもう決めとるけん。お断りします」とあっけなく断ったのだ。
サッカー以外になにがやりたいのかと竜仁は興味を抱いた。
「もしかすると、バンド部とか?」
伊恩が冗談半分でそんなことを言っていたが、あいにくこの高校にはバンド部なるものはなかった。音楽関係だとどこの学校にもある吹奏楽部があるだけだ。
だから、あり得ないことは竜仁にも理解した。
「みっちーはやっぱり弓道部やろう?」
伊恩は当然のように言いのけた。
龍仁の父親は町の弓道場を借りて、仕事の合間に弓道を教えているひとだつた。それゆえに龍仁も幼いころから弓道に親しんでいる。小学。中学は弓道がなかったためにサッカー部に所属していたが、高校に入ったら必ず弓道部に入ると決めていた。
ちなみに先ほどから慣れ慣れしく自分に話しかけてくる柿添伊恩は、父のやっていた弓道クラブに来ていた少年だった。
学校は違っていたが、面識は昔からあるのだ。
「お前もそれにすっとか?」
「うーん。おいは、バンド部がよかったけんどなあ。でも、なかもんなあ。しようがないから、おいも弓道部に入るばい。それと同時にバンドやろうな。みっち。あっ、有川くんも誘おうっと」
「おいおい。勝手決めるなよ」
竜仁がそういっている間に、伊恩があ朝矢に話しかけていた。
バンドには興味がないわけではない。
けれど、もしもあの有川朝矢とバンドなんて組むことになるのはまっぴらごめんだ。
そんなことを考えながら、龍仁は遠くで成り行きを見ていた。
「えええ。うっそやろう?」
伊恩の驚きの声が聞こえてきた。
どうしたのだろうかとみていると、伊恩がなぜかニコニコと嬉しそうに笑いながらこちらへ戻ってくるではないか。
「みっちーー。有川くんも弓道部に入るんだってえ。これで部活の間にバンドの練習できるばい」
「「できるか。それに弓道とバンド関係ねえ」」
龍仁と朝矢の声が見事にそろつた。
お互いに顔を見合わせる。
「おい、僕のマネするな」
「だれがテメエのマネすっかよう」
竜仁と朝矢は再びにらみ合いを始めた。
「あはははは。本当にみっちいとあっくんは気があうどねえ」
「「どこがだ」」
二人は伊恩のほうを睨みつけた。
「うん。そがんところがばっちりやん。異口同音。一致団結、四面楚歌、意気揚々、一喜一憂」
伊恩は二人を指さしながら呑気にいう。
あまりにも呑気にどうも的外れとしか思えない四字熟語を並べ始めた伊恩に、竜仁も朝矢も喧嘩する気力も失せていく。
やがて、どちらからともなく笑いはじめるのであった。
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