第3話 サッカー対決
鎮西徐福高校の入学式が初対面とはいったものの、実は以前から知っていた。
あれはいつのことだったのだろうか。
小学五年生だったように思える。
龍仁の家から近い場所にある鎮西徐福高校の文化祭が行われた春の日にそいつが訪れていたのだ。
その中で、高校生バンドの演奏会が行われていた。サッカーグランドをつかっての演奏会にやってきた人たちは疎らでどうもこの高校ではバンドを楽しむという空気ではないらしい。
龍仁はどちらかというと音楽には興味があった。だからもいって、バンドを組みたかったわけではない。
ただ聞くことがすきだっただけだ。
だから、龍仁はバンド演奏会が行われるグランドへ向かった。そのときには演奏が行われており、最近流行りの曲を奏でているところだった。
見物人に50人もいない程度で、そのほとんどが生徒たちでしめている。
ゆえに小学生である龍仁はどこか浮いた存在で、小学生がなぜこんなところにいるのだろうという視線が向けられていたのだ。
しばらく聞いていた龍仁はなんとなく居心地が悪くなったいく。もう帰ろうかというときに、バンド演奏会の行われている場所とは正反対に位置するサッカーゴールのネットのある方向から声が聞こえきた。
みると、どサッカー部員が小学生にサッカーを教えている様子が伺えた。
そっちのほうがいいかもしれない。
幼稚園のころからサッカーをしてきた龍仁はバンド演奏を観賞するのを諦めて、そちらの方へと向かった。
「君もすっとね?」
龍仁に気づいた部員のひとりが龍仁に声をかける。龍仁はうなずいた。
「ちょうど、よかったばい。これで十人揃ったけん。五対五で勝負すっぞ!」
部長らしき人がそう掛け声をする。
そこにいたのは小学生らしき人が龍仁含めて六人。あとは高校生だ。
「それじゃあ、小学生は三人ずつにわかれて。おいらがそれぞれのチームに二人ずつ入る」
そういうわけで、高校生二人と小学生三人という組み合わせが2チームできあがった。
「君、サッカー経験は?」
「いちおう、サッカークラブに入ってます」
龍仁ははっきりと答えた。
「じゃあ、大丈夫だな。それじゃあ、はじめようか」
そして、二つのチームが向かい合う。
龍仁のすぐ前。そこにいたのが有川朝矢だった。身長は決して高くはない。華奢な体つきで肌の色も白いから一見すると軟弱そうにみえるがその眼差しは勝ち気な性格を現している。
龍仁はその目を見た瞬間に、なんだか苛立ちを覚えた。相手もそうだったようで、龍仁のほうをぎっと睨み付けた。
やがて、ゲームが開始された。
「よーし、応援歌歌いまーす」
ちょうど、ホイッスルが鳴り響くと同時にバンド演奏をしていたはずの一組のバンドがサッカーイベントの行われている場所へやってきていた。
「がんばれよーー。朝矢ーー」
そのうちのひとり、ギターをもっていた高校生がおちゃらけたようにいうと突然ギターを弾きはじめたのだ。
「うるせえ。くそ兄貴。おいの名前呼ぶな。恥ずかしかろうもん」
龍仁に睨みを聞かせていた有川朝矢は恥ずかしそうにギターをかなで始めた高校生にわめいた。
そのころにプレイがはじまっている。
ギターの高校生を見ていた朝矢に向かってボールが飛ぶ。
そのすきに奪えるかもしれないと龍仁はすぐさま行動を起こした。龍仁のすぐまえにボールが転がる。チャンスだとボールを蹴りつけようとすると、別の足がそのボールを奪い取る。
朝矢だ。
そのまま、ドリブルをしてゴールへ向かう。龍仁はそれを阻止しようと追いかける。
他のチームメイトも妨害を繰り返すが、みごとに避けて通っていった。
もうすぐゴール。
龍仁はスライディングをして阻もうとするが、朝矢はボールを上にあげながら龍仁の足を飛び越えていく。そのまま、ゴールへとボールを蹴り飛ばした。
ホイッスルがなる。
「よっしゃああああ」
朝矢はガッツポーズをする。チームメイト二人が朝矢に嬉しそうに抱きついている。
ひとしきり喜んだかと思えば、朝矢の視線が龍仁にぶつかった。
朝矢は勝ち誇ったかのように笑っている。
(むっムカつくーー!)
それが龍仁に闘争心を植え付けたのはいうまでもない。
だから、次は朝矢のけるボールを奪い取り点
をとって、どや顔を浮かべてやった。
朝矢はくやしそうな顔をする。
勝負は続く。
いつのまにか、周囲には観客が集まっていく。
サッカーコートに賑わいをみせるなかでゲームは終了した。
結果はドローだ。
「くそっ、なんか悔しい」
朝矢が龍仁に向かっていう。
「こっちもだ。おいは光吉龍仁だ。お前の名前は?」
「有川朝矢だ。覚えとけ。ボケ」
そういう会話で牽制しあった。
「よーし、トモヤ♥️ がんばったから一曲歌うぞーー」
それを見ていたギターの高校生がまたギターを奏で歌いはじめた。
しかも、決して上手とは言えない歌声だ。
「だまれ。兄貴! てめえは音痴だって自覚しやがれええ」
そう朝矢はツッコミをいれている。
「ひどいなあ。朝矢はーー。せっかくのお兄ちゃんが愛情こもった歌を捧げようも思っているのにさあ」
朝矢の兄らしき高校生がわざとらしく泣き真似をする。
「だったら、ギター弾くだけにしとけええ。歌うなああああ」
そんなやり取りをその兄弟がし始めた。
そこには本当に仲のいい兄弟だと思った。
それが龍仁をさらに苛立たせていた。なにせ、龍仁と兄は仲がよいわけじゃないのだ。
成績優秀な兄は、どこか龍仁を見下しているところがあり、家ではほとんど口を聞いていない。
だから、羨ましかったのだろう。
それから、再び再会を果たしたのは数年後、鎮西徐福高校の教室だった。
お互いに覚えていたようで、なぜかそれが乱闘へとつながってしまった。
その後職員室に呼び出されて、こっぴどく叱られたのはいうまでもない。
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