第59話 破壊は救済なんかじゃない
----------
「千差万別ことごとく、全てを見捨てず破滅に追い込む。それが臣のやり方だ」
白は腕に刺さったガラスの破片を抜きながらも、臣を信じているのか、ずっとボソボソと呟いている。奴らは政府に恨みを抱いている、だから破壊こそが正義だと勘違いしている。
「破滅は救済じゃない、何も生まれないぞ」
「正義は理由をつけて俺たちを見捨てる、ただし俺たちは違う。見捨てることなんてない、全員滅ぼす。この計画に例外は無いよ、お前さんも必ず死ぬ」
「破滅は解決策じゃない、考えることを放棄しているだけだ。お前らもアダムも、結局は選択肢を考えることなく見捨てている。政府と何も変わらない」
「……そうか、それがお前さん方の結論か、馬鹿馬鹿しい。俺を狭い空間に閉じ込めて、高速移動能力を封じようとしたか、頭は良いがお前さんもボロボロだ、ここで死ぬ」
奴は足に刺さったガラスの破片を抜き、それを手に取った。そしてそれを、まるで短剣を持つかのようにして構える。それを見て俺もショウも、拳を構えた。江戸崎は路地裏に避難している、近くに隊員はいない、保護してもらうのは難しいだろう。
今から隊員を呼ぶか、いや、アダムによって復活させられたモンスターとの戦闘によって前線の位置が変わってきている。ここの地域に常駐していた隊員は引き下がった前線を守っている頃だろう、何より今はヘリを飛ばせない。空中に蘇った悪のドラゴンがいるからだ。さっきスカイが葬ったらしいが、それでも復活している。
イヴの現在位置は最終防衛ラインの手前、東京タワーから15kmも離れていないくらいの場所。そう、スサノオ作戦が始まってから奴は動いていないのだ。何かを待っているのか、それとも破壊を楽しんでいるのか。いわゆる舐めプか、そんなことはどうだっていい。
「どうやらスカイくんは真の能力を手に入れたようだ。彼はアダムと雲の上で戦闘中。近くに隊員はいないが、私がいる。白の弱点も理解している」
江戸崎はすぐそこの路地裏から、テレパシーで俺たちに情報を伝えている。これなら白に聞かれることはない。
「彼の高速移動を封じたのはベストな選択だ、しかし彼は閉鎖的な空間だろうと高速移動を使う、特に今のような死期が迫った状況では、お構い無しに能力を使うだろう。くれぐれも、能力剥奪には気をつけろ、そして……殺す必要はない」
江戸崎が言い終わると同時に、奴は高速移動で俺の目の前に迫り、ガラスの破片を突き出した。
シュッ!
目にも留まらぬ速さだ、しかし前よりは遅い。すぐさま体を反らして避け、手首を掴み思いっきりひねり上げる。ガラスの破片を奪い奴の心臓を刺そうと、思いっきり拳を上げるも、そんな隙は無かった。すぐに高速移動能力を使われ、背後に回られてしまった。
「遅い」
奴の背後からの蹴りと、高速移動で生じた風によって俺は壁まで吹き飛ばされてしまった。それだけじゃない、一瞬の隙に前に回られ、前方からも拳を腹に入れられた。時間がスローになった感覚だ、奴の素早い動きも視認できるようになっていた。しかし対処できるかと言えばまた別の話だ。思うように体が動かない、見えていても防ぐことはできない。
「グハッ」
あまりの衝撃に血を口から垂らしてしまった、もう痛みを感じる余裕はない。一難去ってまた一難、あらゆる方向から無限に攻撃される。ショウはそれをただ見るのみ、そりゃそうだ、どうしようもできない。銃を撃っても避けられるどころか、俺に当たる。下手な介入はできないんだろう。
「やめろ、白」
「どうした、負けを認めるか?」
俺は、一か八かの作戦を決行することにした。ショウには反対されるだろうが、江戸崎なら分かってくれるはず。俺が何かを発せば、白は攻撃を止めてくれる。その間にテレパシーで、江戸崎に作戦を伝えた。
「なるほどな、白の弱点とは合致している。しかしそれでは君の体が持たない、やめた方がいい」
江戸崎はすぐに作戦を理解したものの、止めるように言ってきた。
「空中にアダムとドラゴンがいるせいで、日暮が介入できない。ここは俺に任せろ」
「君を失いたくはない……が、そこまで自信があるのなら任せよう。指示は君が頼む、私は精一杯の援護をしよう」
時間もない、イヴが力の石に到達すれば全ての世界が滅亡する。その前にアダムとイヴを、いや、まずは目の前にいる白を倒さないと。
「ショウ、空にアダムとドラゴンがいるせいで日暮が出動できない。だからスカイと共にドラゴンを倒してほしい」
「……分かった。しかし1人で白と戦うのは無茶だ、江戸崎は戦闘要員ではないだろ」
「最終防衛ラインはとっくに破壊されている、イヴが東京タワーに到達するのも時間の問題だ。ここは日暮に頼りたい。そのためにも……」
「スサノオ作戦のリーダーは俺だ、お前の命を蔑ろにするような行為は認めたくない」
「まだ何も言ってないぞ」
「Dream Waterを使うつもりだろ、アドレナリンよりも効果的だ。ただし次は死なないとは限らないぞ、いくら訓練を積んだ人間だろうと、次は人間じゃなくなる可能性だってある。爆発する可能性だってある。力の石の複製物として預けただけだ」
「……Dreamシリーズを使うつもりは無い、俺が使うのは……ダンベルだ」
俺は床に転がり落ちていたダンベルを拾い上げ、腰を落として構える。100kgと書いてあるが、そうは思えない。もう人間の域を超えたということか、まあ、そういう運命だ。そういう人生だったに過ぎない。
「……分かった、お前の言うことを聞こう」
ショウは観念したのか、翼を展開して飛び立って行った。この場にいるのは俺と白、そして路地裏に隠れている江戸崎だけ。あえて味方を減らしたことを疑問に思ったのか、白はずっと怪訝そうに首を傾げている。
「単純な疑問だが、お前さんはそのダンベルでどう戦うつもりだい?」
「お前には俺がどう見える?」
「質問に質問で返すとは、呆れる」
「……ダンベルは武器じゃない、体を鍛える道具だ」
「……そうだな。お前さんは味方を逃がしてまで、何がしたいんだ。口からは血が垂れ、腕も足も重いとおりには動かせていない。もうその体じゃ戦えないだろう、お前さんは何を望んでいる?」
何を望んでいるか、決まっている、答えは簡単だ。
「世界平和、争いのない世界だ」
「まだ絵空事を並べてるのか、お前さんは思い知っただろう、この世界の残酷さを。裏切り裏切られでしか成り立たない世界など滅ぼすに限る。平等に全員を救済するには、破壊が最適解だ」
「破壊は救済じゃない、逃げてるだけだ。世界中の人間を救済したいのなら、みんなで話し合えばいい。対話を飛ばして実行するなんて、無謀で暴虐な政府と同じ、お前らも同類だぞ」
「……俺に説教を垂れるのが、お前さんの作戦か。とても感心したよ、こんな中身のない説教で俺の心が変わると思ったか。さらばだ、能力者」
----------
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます