第54話 一緒に戦おう
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《移動魔法》
僕は4本に増えた剣のうち、2本に魔法をかけた。移動魔法、これも城でソルトが使っていた。効果は「目標に当たるまでずっと追いかける」というもの。厄介な能力だけど、心強い。魔法をかけた剣を思いっきり、雑の目に向かって投げる。
ガチンッ!!
でも、そう上手くはいかなかった。雑が瞬時に目を閉じたから。目が弱点でも、目に刺さらないと意味がない。そして雑は、まぶたがとても硬い。だから目標には当たったものの、強固なまぶたによって防がれてしまった。
《跳躍魔法》
しびれを切らしたソルトは自分の足に魔法をかけ、高く跳んだ。そしてその足で、奴の目めがけて回し蹴りをした。
ガツンッ!!
しかし、その攻撃も効果が無かった。彼の回し蹴りは奴の前足で防がれ、そのまま蹴られて遠くに吹き飛ばされた。間髪入れずに怪物たちが噛み付くも意味をなさずに、1匹ずつ殴られていった。向こう側には転覆した戦車が、これが雑の力。
どうやって戦えばいいんだ、攻略法が見えない。そうこうしてるうちに、向こう側に配置された何台かの戦車が、雑に向けて攻撃を開始した。しかし効いてないのか、雑は何事も無かったかのように、戦車に突進。何台かの戦車は遥か遠くへ飛ばされていった。
ここから東京タワーまで、そう遠くない。ここを破られたら、力の石を守れない。やっぱりここで何とかしないと。腰に差していたナイフを取り出し、ギュッと強く握り締める。この手持ちナイフは、クリムさんから貰ったものだ。
クリムさんもレッドさんの野望に気づいていて、止めようとしていた。トートさんだって、リーゼさんも、レッドさんに作られた架空の存在なのに、どうにか僕を守ろうとしていたんだ。このナイフは、彼ら3人の願いが込められた形見でもある。
《火炎魔法》
拡散魔法で増やした剣を2本、両手に持って火炎魔法をかける。轟々しく燃え盛る炎をまとう剣は、強く光り輝いている。
「うおおおおお!!」
力任せに、僕は雑に向かって突進した。そして雑の前で高く飛び上がり、2本の剣を目に深く突き刺す。しかし、そう簡単には上手くいかなかった。
ガチッ!!
雑の強固なまぶたによって防がれてしまった。火炎魔法をかけていてもダメなのか、でもこんなところで終わらないのが、魔法の恐ろしさだ。
《火炎魔法》
剣にかけていた魔法を外し、新たに僕の拳につけた。光り輝く拳は、ゴウゴウと燃えている。至近距離の攻撃なら避けられないだろ、狙うのはもちろんまぶたじゃない、顎だ。
ゴンッ!!
僕は力いっぱいに、雑の巨大な顎を下から殴り上げた。火炎魔法で強化された拳を喰らった雑は、流石に声を上げている。しかし吹き飛ばすことはできなかった、そして戦闘不能に追いやることもできなかった。
「グアアアアアアアアア!!!」
雑はすぐさま、目の前にいる僕に向かって突進。僕は避けることもできずに、かなり遠くまで吹き飛ばされてしまった。
ズシャッ!!
硬い地面を何度も転がり、壁に強く叩きつけられた。あまりの威力に、ビルの壁にはヒビが入っている。砂ぼこりが舞う中、どうにか立ち上がろうとするも、力が出ない。全身にすり傷を負っているのか、血の味を感じる。剣を持とうにも、肝心の剣がない。
きっと拡散魔法の効果が切れたんだ、本物の剣は今頃、雑の足元にあると思う。手元にあるのは、クリムさんから貰ったナイフくらいか。ソルトも僕と同じように、雑によって遠くまで吹き飛ばされている。
《回復魔法》
最後の力を振り絞って、自分自身に魔法をかける。これで少しは傷が治ったはず、とはいえまだ見習いだからか、効果は薄く感じる。ソルトは反対方向に吹き飛ばされた、ビルの裏側を伝って行けば回復させられるかも。
しかし、その間……雑はどうするんだ。近くの戦車部隊は全滅した、戦闘機だってどこかへ消えた。上から爆弾を落とせばいいのに、何故かそれをしない。さっきやってくれたのに。ソルトを助けながら、雑を倒す、それは僕には難し過ぎる。そんなに器用じゃないし、魔法だって初心者だ。
たとえSランクといえども、きちんとした訓練は受けていない。基礎もしっかりしていない、そんな僕がどうやって倒すんだ。
そう考えている時、ある男の声が聞こえた。
「ここは、俺に任せろ」
声がした方を向くと、そこには銀色の翼を生やした男が、空からやって来た。そしてそのまま、雑に向かって強い蹴りをお見舞いした。
「ショウさん!」
「間に合ったか」
空からやって来た翼の男の正体は、ショウさん。星田さんの相棒らしい、そして今回の作戦のリーダーでもある凄い人。最新テクノロジーで作られた、翼を再現したスーツを着ている。
「俺だけじゃない」
ショウさんの声と同時に、近くのビルから2人の女性が降りてきた。そう、シアンさんとキミカさんだ。
「お疲れ様、ここからは私たちに任せて」
「エストくんはソルトくんを助けて!」
落ち着いているシアンさんと、妙にテンションが高いキミカさんは、そのまま雑に向かって突撃していった。雑の雄叫びと共に発せられた突進も軽々とかわし、突き抜けていく様はどこかカッコよく見えた。というか、何で2人はビルから降りても無傷なんだろう。
「……彼女たちのいた世界の住民は、元から強いんだ。俺たちの世界よりもずっと。だからビルから降りたくらいじゃ、骨折も何もしない」
ショウさんは僕の疑問を汲み取って答えてくれた。向こうの世界では普通だと思っていたことでも、こっちの世界だと異常だったことなんていくらでもある。こっちの世界に魔法とか鑑定制度が無いなんて、最初は驚いた、羨ましくて。
「俺もいるぞ!」
そして赤い建物の上からは、ガイアさんが飛び降りてきた。地面に着地してすぐ、雑に向かって素手で飛びかかった。雑に振り回されても、ガシッと強く掴み、離さないよう踏ん張っている。
「エスト、君は1人じゃない。俺たちがいる、今のうちにソルトを助けに行くんだ」
それだけ言って、ショウさんは翼で飛んでいき、ビルの上に降り立った。そうだ、今のうちにソルトを助けに行こう。みんなのおかげで、少しは体力が回復した。魔法も今なら何でも使えそうだ、少しでも時間を短縮しよう。早く、ソルトを助けないと。
《ワープ魔法》
ビルの裏側を伝って移動する暇はなかった、だからワープで直接、ソルトを助けに行った。
「ソルト!」
「……エストか、意外としぶといな」
咳き込みながらも、ソルトは立ち上がろうとしている。でも、その体じゃ無理だ。壁に強く叩きつけられて、所々骨折している。それにすり傷だらけで、血も止まっていない。
《回復魔法》
僕は全ての力を注ぎ込み、魔法を使う。骨を元の状態に戻すのには時間がかかる、そのための回復魔法だ。ソルトの体が白く光り輝いた、それでも僕は止めずに、力を込め続ける。やがて白い光が止んだ頃、僕はソルトに声をかけた。
「一緒に、雑を倒そう」
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