第53話 世界を守る三大神の力
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目を閉じて、開けると……元の世界に戻っていた。目の前には綺麗な槍を持った亡の姿が。フィギュアショップからそう遠くない大通りのド真ん中で、俺は死にかけている。腹からも口からも出る血は、今も止まらずに流れ続けている。
「さぁ、遺言でも言っとく?」
しかし、さっきとは大きく異なる点がある。それは……三大神の力を持っているということだ。
「無いな、バカ」
俺は右手から、雷のエネルギーを込めた弾を発射した。それを直で腹に喰らった奴は、痛みに耐えきれずに槍を地面に落とし、悶えている。その槍を掴み、思いっきり遠くに投げてから、俺は立ち上がる。
「どうなっている……」
奴は槍を新たに作り出し、俺から距離をとるように立ち上がった。確かにな、奴からすればゾンビみたいに見えるのか。腹に力を込めて、少しだけ傷を塞いでから俺も距離をとる。この力がみなぎる感覚、間違いない、さっき起きたことは本当なんだな。
「そう簡単に死なないぞ」
俺はすぐさま手に炎を溜め、ボンッ、ボンッ、ボンッとリズムよく何発も打ち出す。奴は盾を作り出してガードするも、耐え切れずに炎を浴びてしまった。俺は火傷を自力で消す間も与えず、すぐに水の力を使って高く飛び、上から大量に放水する。
「あああかああかかあああああああつつつ」
声にもならない叫び声を上げる奴は、きっと戸惑っていることだろう。雷の力しか使えなかった男が、何故か炎や水の力を使っていると。顔面が黒焦げになった上、ビショ濡れになりながらも、奴は槍を作り出し投げてくる。
そんなもん、今の俺には無意味だ。
集中すれば、スローモーションに見える。ゆっくりと飛んできた槍を避け、右手でキャッチし、そのまま奴の腹めがけて投げる。
グサッ
槍は奴の腹を貫通し、その向こうのビルに突き刺さった。想像以上の威力だ、一瞬にして腹に穴が空いた奴はその場で倒れた。震えながらも悶えている、どうだ、これが痛みだ。お前も思い知ったか、俺の痛みを。
「前とは違う死に方ができるぞ、お得だな」
「……死ぬもんか、ここは退散しなければ」
奴は瞬時に槍を溶かし、空へと駆けて行った。奴自身の武器だからな、腹を刺されても少しは大丈夫なんだろう。しかし、俺の力が加わればどうなるか、お前も知らないだろ。やってみるか、ちょうどさっき飛ばした槍があるんでね。
トールの力で、さっき思いっきり投げた槍を手元に戻す。強力な静電気といったところか、トールの力で、一度持った武器は手元に戻せるらしい。こういった情報は無意識のうちに頭の中にインプットされている。これも神の知恵だと捉えておこう。
手元に戻した槍に、炎と水と雷のエネルギーを込める。鋭く綺麗な長い槍は、青く光る雷とオレンジ色に燃える炎と、深く青い水によって強化されていく。対して奴は、ボロボロになった体で血を垂らしながら、空中を飛んでいる。体力も残っていないんだろうな、とても遅い。
今、楽にしてやるからな。
俺は思いっきり振りかぶって、槍を真っ直ぐ投げた。心臓めがけて飛んでいった槍は、
ザクッ
串焼きのようにまっすぐ刺さっていた。空中で息絶えた奴は、そのまま爆散した。元はと言えば、奴は既に死んだ身だ。なのに無理やりレッドによって蘇って、戦っていた。見方によっては奴も被害者か、どっちにしろ殺していたが。
「こちらスカイ、亡を殺した」
「良かった。生きていたのか」
返答したのはロック、彼は六本木のタワーで動向を見守っている。モンスターの位置を特定する能力もあるし、監視部隊としては優秀だ。
「色々とあって、炎の神と水の神の力を手に入れた。今は残りのドラゴンを倒している」
「……何があった?」
「トールに会った。それで他の神も力を貸してくれた。観察者だから、手出しはできないらしいが」
渋谷駅前に戻り、瓦礫に埋もれたドラゴンらを炎で倒す。さっきの爆発で吹き飛ばしたドラゴンらも死亡が確認されたらしいから、これで全滅か。急いで持ち場に戻るか、というか現状がどうなっているか知りたい。ここから六本木までそう遠くない、ロックのところに向かうか。
「ところで、江戸崎くんを見ていないか?」
「江戸崎? 知らないな」
「おかしいな。さっきから声が聞こえない」
「というか、戦況はどうなっている?」
「戦況か……エストくんとソルトくんは戦闘中。星田くんも戦闘中だ、勝っているか負けているかで言うと……飛んで確かめた方が早そうだ」
よく分からないな、指示を待たずに勝手に動いていいのか。昔の俺ならそうしていた、でも慎重に動かないといけないんだろ。何しているんだ、星田は。向こうで何があったんだ。レッドはどこまで来ているんだ、教えてくれ。
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《数十分前 東京タワーにて》
「誰か渋谷駅近くに来れるか!」
スカイさんの怒鳴り声が、耳に鋭く入ってきた。どうやら、正体不明の何かと戦っているらしい。ここは僕の出番だ。戦いが始まってからずっと待機していたのも、誰かを魔法でサポートするため。僕だけじゃ役に立たなくても、僕のお陰で誰かが強くなるのなら、それでいい。今回は、何が何でも勝てればいい。
「僕が行くよ」
「待て、こっちにも来ている!」
スカイさんの方に行こうとしたら、ソルトの焦った声も聞こえた。
「どっちに行けばいいんですか」
「それどころじゃない、戦車が吹き飛んだ!」
この場合、どっちに行くかは僕が決めていい。というか、自分で優先順位を見極めて、自分で決断しなきゃいけない。何でも戦える強いスカイさんと、僕と同い歳のソルト……なら、ソルトを助けに行った方がいいか。決して見捨てる訳じゃないけど、ソルトの方が心配だ。
「すみません、ソルトの方を助けに行きます」
それだけ伝えて、僕は足に力を込める。彼は確か、エビスと呼ばれる場所にいる。僕がいるのは東京タワー、結構離れている。ここで使うべき魔法はもちろん、最近習得したアレしかない。
《ワープ魔法》
移動してすぐに、爆発音が聞こえた。そうだ、ここは戦場だ。気を引き締めていかないと、手遅れになってからじゃ遅いぞ。
「来たか、エスト!」
ソルトは傷だらけになりながらも、頑張って戦っている。向こうにいるのは怪物、僕の親友を喰ったモンスターだ。でも、それはレッドさんに操られていたからであって……怪物は悪くなんかない。4匹の怪物は、より巨大な四足歩行のモンスターと戦っている。
「そいつの名前は、
巨大なモンスターは、3本の角を頭から生やしている。そして角を使って、怪物たちと戦っている。弱点は分かっていても、そう簡単には近づけない。それに死んだのに生き返ったって、まさかレッドさんが蘇らせたってこと?
《回復魔法》
まずは怪我を負っているソルトの体を、魔法で回復させる。彼はゼェゼェと肩で息をしていたが、魔法をかけた途端、元に戻っていった。するとお互いの剣に対して、ソルトがある魔法をかけた。
《拡散魔法》
その瞬間、お互いの剣が4つに割れた。拡散魔法、これは城でミライという少女が使っていた魔法だ。彼女はこれで投げたナイフを10本に増やし、クリムさんに当てていた。
「見よう見まねで俺も覚えた。これなら1本くらい折れても大丈夫だろ」
「たしかに」
僕とソルトは剣を合わせ、手を組む。ランセル王国では、戦いの合図であると同時に、チームを組むジェスチャーでもある。そして2人で息を吸い、吐いてから、奴の元へ向かう。雑をここで倒さないと、レッドさんが東京タワーに辿り着いてしまう。ここで、止めないと。
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